8.生クリーム品評会②
「ウィルハルト様、生クリームを用意してくださってありがとうございます」
「ううん。僕の方こそありがとう」
「ふふ。なんでウィルハルト様がお礼を言うのですか?」
「よ、喜んでもらえたのが嬉しくって」
嘘じゃないのが分かる。ウィルハルト様と過ごす穏やかなこの時間、私、結構好きかもしれない。
「私、生クリームが大好きになりそうです」
というか既に好きですが。
「うん! 美味しいもんね」
「はいっ。美味しいは正義です!」
「ぷっ。うん、正義だね」
ついつい力強く宣言してしまった。
「いつもはどのようにして食べているのですか?」
流石に1つくらい食べ方を見つけてるよね……?
「僕はそのまま食べたり、パンに塗ったりしてるよ」
「パン! 私も早速試してみていいですか?」
「もちろんっ」
これくらいだよ、とウィルハルト様が手本を見せてくれる。でも私はそれよりほんの少し多めに塗っちゃおう。
「この上に果物を乗せても美味しい気がします」
「すごい! 考えつかなかったよ」
フルーツサンド、好きだったなぁって思い出したのよね。この際パン生地は気にしない方向で。
「「美味しい!!」」
あまりの美味しさに目を合わせ、2人の口角が自然と上がっていく。
次は何に付けようかとテーブルの上にあるスイーツを眺めていると……目に飛び込んできたのは一口サイズにカットされたスポンジケーキ。
はい、けって~い。
スポンジケーキに生クリームといちごを乗せて……少し不格好だけど、一口ショートケーキの完成!
崩れないよう慎重にフォークで刺し……パクっと口に入れる。
「ん~」
ショートケーキ~! 久しぶり~!
これはウィルハルト様にも食べてもらいたい。そして本格的なショートケーキを是非とも作ってほしい。先程と同様のショートケーキを作成し、落とさないよう手を添えてウィルハルト様の口元に持っていく。
「ウィルハルト様、あーん」
「えっ///」
「美味しいですよ」
早くっ! 崩れちゃう前に食べて~。
「……いりませんか?」
「い、いる……」
真っ赤な顔でパクっと食べたウィルハルト様。
「うん。おぃしぃ……」
そうでしょう、そうでしょう。
……って私、何してるのよ。ショートケーキの感動を共有したかったからって『あーん』をする必要はなかったのに。
はっ!! もしかしてこれって不敬罪!?
それに気付いてしまうと、自分でも分かるほどに顔から血の気が引いていく。
「も、申し訳ありません」
「え?」
「つい、その、悪気はなくて……不敬罪、ですか……?」
不敬罪はえっと……尊厳を害する行為だよね? あぁ、ポーラにお勉強しましょうって言われそう。
「なんで!? そんな事言わないよ!! ごめんね。僕が早く食べなかったから……クラウディアは何も悪くないよ」
「えっ! ウィルハルト様こそ何も悪くないです! 私が……」
「僕だよ」
「私です」
…………。
「ぷっ」「ふふっ」
「「あははは」」
お互い自分が悪いと言い合っているうちに、面白くなってきちゃった。ウィルハルト様と目が合うと、とうとう笑いをこらえることが出来ず、声を出して笑ってしまった。
「どっちも悪くない、にしよう」
「はいっ。ありがとうございます」
私が冷めてしまった紅茶を飲んで気持ちを落ち着かせている間、ウィルハルト様はクッキーに生クリームを乗せている。
「僕も……あー、ん」
「っ!! ///」
わわわ。て、照れる///
まさか私も『あーん』されるとは。
せっかくの行為を無駄にすることなんて出来ないし、何なら私が先にしているから……。
えいやって感じでパクっとクッキーを食べる。
「可愛い……」
「えっ?」
「クラウディア、真っ赤で可愛い……」
「/// ウィ、ルハルト様も、真っ赤です」
「///」
7歳の少年にドキドキさせられるなんて。
「クラウディア? どこに行くの?」
ドキドキした気持ちに気付かれたくなくて、真っ赤になってしまった顔を隠したくて、なんだか落ち着かなくって……何も言わずに立ち上がってしまった。
「お、お散歩ですっ!」
「僕も……僕も一緒に行って……良い?」
「は、い」
この状況で断れるわけないよね!?
うわぉ。エスコートしてくれるんだ! えぇっと……これさ、私……顔の赤み、引くかな?