7.生クリーム品評会
「ディア。ウィルハルト殿下とのお茶会、準備はできているのか?」
「はい」
準備? 着ていくドレスのことかな?
王妃様主催のお茶会から数日後、ウィルハルト様はちゃんと約束を守ってくださったのだ。お父様やお母様は勘違いしているようだけど、次のお茶会のメインは生クリームよ?
生クリーム……話を聞いた感じでは前世と同じ物のようだけど、問題は甘さがどれくらいか、よね。
「仲良くなったんだな」
「そうですね。スイーツの話で盛り上がりました」
って今朝も話したのに。次は食べすぎるなって言うんでしょ?
「そうか……あまり食べすぎるなよ」
ほらね。
「ディア?」
「はぁい」
今朝同様複雑な顔をしながら私の頭を撫で、お兄様は部屋に戻られた。
お兄様が何度もこの話題を振ってくるのは、きっと自分の妹が取られたように感じているからだと思うの。それに気付いた理由は、私自身にも身に覚えがあるから。
前世の私には妹と弟がいた。今のお兄様と同じ年齢の頃、遊びに来た友人が妹たちを可愛がってくれたことがあって。ありがとうとお礼を言うべきことなのに、2人は私の妹と弟なの! とムスッとしてしまった記憶が蘇っちゃったのよね。独占欲だったのかなぁ。
お兄様が、見た目だけで人を判断する人じゃないって知れたのは良かった。とはいえ……こう何度も同じ話をされるのは、正直言って面倒。優しいディアちゃんは言わないけどねっ。なんて。
たかがお茶会、されどお茶会。場所は王宮でお茶会相手は王子様だから、それなりな格好をする必要があるとは思っていた。
でも、まさかまた新しいドレスを仕立てるなんて思わなかったよ。
ま、私が今持っているドレスって趣味じゃないし、新しく仕立ててくれるのは嬉しい。細かいことは気にしないでおこう。
*
*
某有名アニメのプリンセスが着ていたドレスに似せたドレス。そんなドレスを着て馬車に乗っている、私の今の気分はまさにプリンセス! 至って普通の馬車だけどね。
誰に何を言われるわけじゃないし、子供のうちにいろんなプリンセスになっておこうかなって。
脳内で物語をスタートし、ちょうど城に着くシーンを重ね合わせてみる。
「ようこそ」
「っ!! お出迎え、ありがとうございます」
今回のお茶会会場は、側妃様とウィルハルト様が住む王宮の庭園。王族の居住区であることに深い意味はない……はず。
馬車から降りる際、手を差し出してくれた相手がウィルハルト様だった。まさか降車場まで迎えに来てくださるとは思わず、少し気の抜けた表情をしてしまっていたかも。
そしてそのままウィルハルト様のエスコートで庭園に向かうと、とっても可愛い作りのガセボにたどり着いた。へぇ、柱に花を飾るだけでこんなに可愛くなるんだ。参考にさせてもらおう。
「ク、クラウディア、今日は来てくれてありがとう」
ガセボの前で向かい合……うことはなく、目線を下げながら感謝の言葉を贈ってくれたウィルハルト様。緊張しているその様子、母性をくすぐられるんですけど!
「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。私、今日がすっごく楽しみで、待ち遠しかったんです」
「本当に? ぼ、僕も楽しみで……待ち遠しかったよ」
嬉しそうな顔をされるとこっちまで嬉しくなるよね。ほんの少し甘い雰囲気に、なんだか照れてしまいそう。
二人して少し頬を赤くしモジモジしていると、従者がテーブルに着くよう促してくれた。
「クラウディア、これが生クリームだよ」
照れを誤魔化すように微笑みながら、すぐさま生クリームを紹介しだすウィルハルト様。気持ちは分かるよ、ものすごく。
一口分を乗せたスプーンを手渡され……あっ、これそのまま食べる感じ? 食べ方がまだ考案されていないのかな? ま、味を確かめるにはそのままが一番分かるしね!
「わぁ!」
な、生クリームだ!! 見た目も味も求めていたもの。心配していた甘みはむしろ甘すぎるくらい。
「甘くて濃厚で……すごく美味しいです!」
「口に合ってよかった」
私の反応を見てホッとされている。本当良い子すぎるよ、この王子様。
残念王子なんてあだ名で傷つけないでほしい。