ウィルハルトに婚約者がいた理由 side◯◯
私が異世界に転生したと気が付いたのは、第一王子の婚約者に選ばれたと……そう父親から伝えられた日だった。一気に前世の記憶が流れ込んできて頭痛がすごかったのに、本当よく倒れずにいれたと思うわ。
前世の私は声優だった。でも中々芽が出ず、初めて名前の付いた役がとある乙女ゲームの悪役令嬢。確かに思い入れのある役ではあるけど……まさかその世界に転生するなんてね。
しかも息子がゲームのメインヒーロー。って、何の嫌がらせよ。
もちろん側妃なんて許さないし、息子もゲーム通り攻略対象者になんてしたくない。そのために殿下との距離をゆっくりと縮めていったし、生まれた息子達の名前だってゲームとは違う名前を付けた。
息子達の婚約者だってゲームとは違う家の令嬢から選んだし、間違っても婚約破棄なんてさせないように育てたわ。
その甲斐あって、息子達は立派に育ってくれた。
……って、そう思っていたの。
それなのに!
王太子となった息子は、王太子妃との婚姻後1年を待たずして側妃となる令嬢を迎え入れたのよ。その事は息子達だけじゃなく、夫である当時の王も知っていて。みんな知っている中、知らないのは私一人だけ。
側妃なんて婚姻後何年も子に恵まれなかってから考えればいいこと。なのにその令嬢のためにいち早く迎え入れることにしたとか。そんな話を聞いた私が、側妃にいい感情を持てないのは仕方がないと思うの。
だから私は側妃には会わなかった。
夫とも、息子や王太子妃となった義娘とも意見が合わず、私は王家が所有している地方の離宮へと籠もったの。私が側妃という立場によく思っていないこと、夫も息子達も知っているはずなのに。
冷静になると、知っているからこそ私に内緒にしていたんだって気づけたけど。でもそれでも気分は優れなくて。だって私を説得するつもりなんて最初からなく、事後報告にしてしまおうって……そう思われたんだと思うと悲しくなったから。
それに……王という立場上仕方ないとはいえ、すぐに迎えに来ない夫に更に悲しくなって。
自分で王宮を出たのに、なんだか家族に捨てられた気分になってしまい……王宮からの知らせも怖くて開くことが出来なかった。
離縁するって書かれていたらどうしようって。そう思うなら謝ればいいものの、上位貴族の令嬢として育ち、王妃として暮らし……情けない姿を見せることに私のプライドが許さなかった。
だから王妃が2人、側妃が1人子を生んだと連絡が来ていたことにも気付けなかったの。
数年後退位した夫が離宮に迎えに来てくれた。
すごくすごく安心した。それと同じくらい後悔した。
だって歴代より早くに退位することになったのは、私のせいだから。
夫から、私は病気療養のために自然豊かな離宮で暮らしていると、そう発表していると聞いた。私は我儘で逃げてきただけなのに。こんな私なのに、夫はずっと愛し続けてくれて……『お前のそばにいたいんだ』って言ってくれたの。
その言葉通り、夫がそばにいてくれたお陰で少しずつ食欲が湧くようになり、日に日に痩せてしまっていた体も元に戻っていった。あぁ、私ったらうつ病に近い状況だったのね。と自己分析できるほどに回復できた。
そして回復した私は、王宮を出てから届いていた知らせを1つ1つ開き……自分の幼稚な行動にもう一度後悔したの。
息子が側妃を迎え入れた本当の理由を知って。
私が抜けた分の執務を、義理の娘達が行ってくれていたことを知って。
でも今度は夫が隣りにいたから……私は落ち込むことなく、邪魔していたプライドも消え、子供達に謝りたいと……そう素直に思えたの。
何年かぶりの王宮。そして初めて会った3人の孫達。
王妃が生んだ第一王子のクリスハルト。側妃が生んだ第二王子のウィルハルト。そして王妃が生んだ第三王子のラインハルト。
いや、孫じゃん!
メインヒーロー、息子じゃなくって孫じゃん!
まぁ……ゲーム関係なく夫に側妃がいるなんて受け入れられないし、ゲーム関係なく息子が婚約者を蔑ろにするのも嫌。だから私がしたことは……間違ってはなかったはず。
拍子抜けしてしまったのも事実だけど。
そうね。確かにラインハルトは息子達と同じ金髪青目だわ。夫と同じ青い目に、私と同じ金の髪。
だって仕方ないじゃない。メインヒーローの両親なんてゲーム画面に映らないんだから。アークライト王国の王族で、生まれた息子達が揃って金髪青目だったら、攻略対象者だって思うじゃない。
はぁ。そりゃあいくら探しても息子世代に『サブリナ』なんて名前の令嬢がいないはずだわ。
「嘘でしょ……」
「どうした?」
「い、いえ」
ちょっと待って。息子の暗殺を回避し、王太子にすることが出来たと思っていた。そうじゃないと分かった今、狙われるのはクリスハルトだって気付いちゃったじゃない。
「大丈夫か?」
「はい。こんな可愛い孫たちに、もっと早く会いたかったと後悔しているだけですわ。さぁ、3人ともいらっしゃい」
本当に可愛い。この子達を守らなければ。
離宮に逃げていた私が今更口を挟む権利がないことは分かっている。でも私に出来ることはしておきたい。
「お茶会でお友達は出来た?」
「「はい」」
「そう。良かったわね」
ウィルハルトだけ気まずそうな顔をしている。
そうね、この子は隠しキャラだもの。ゲームでは婚約者も側近もおらず、体型にコンプレックスを抱いていたはず。
3人共まだ婚約者は決まっていない。一番はサブリナ嬢を王族の婚約者にしないことだけど、もう孫達の婚約者候補に入っているし……まぁ避けられないわよね。
だって息子の婚約者として、最終選考まで残っていたブラック侯爵の妹を選ばなかったのは私だもの。サブリナの名字と違っていたから最初はノーマークだったのよねぇ。だから彼は、何としてでも姪であるサブリナを押し込んでくるだろう。
それにサブリナは既にラインハルトが好きみたいだし。
そうよね。よく知っているわ。だって私、あなたの声を担当したんだもの。
でも伯父は第一王子の婚約者にしようとしてる。今のあなたは嫌なのに嫌って言えなくて辛いのよね。結果的に自分が望んでいた相手の婚約者になれたけど、ヒロインに奪われそうになって悪役令嬢になってしまう。
例えばウィルハルトと婚約したら……ダメだわ。3人一気に亡き者にって王妃宮を焼かれかねない。これは絶対避けなきゃね。
よしっ。まずはウィルハルトの婚約者を見つけましょう。
側妃は隣国出身だから実家の人脈は使えない。謝罪の意も込めて手伝わせてもらえないかしら?
*
夫と相談し、息子夫婦と話した結果、王妃の親族である令嬢に声を掛けてみることが決まった。
クラウディア・メープル伯爵令嬢。
彼女の父親は王妃と従兄弟だし、彼女の母方の祖母は私の友人でもある。
かなり良い選択ね。
*
*
「あなた、クラウディアに声をかけてよかったですね」
「そうだな。2人とも幸せそうだ」
そんな2人の結婚式。
数ヶ月後には私たちが住む離宮にも足を運んでくれるそう。
ふふふ。
私も転生者だとクラウディアに話したら、彼女はどんな顔をするだろう。
今から楽しみね。
でも一番は……
孫たちを救ってくれてありがとうと、そうクラウディアに伝えたいわ。
*・゜+.。.:* end
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