食堂でお昼ご飯
クラウディアとウィルハルト 2学年時
55話と56話の間の話
「念願の……!」
食堂~!
食堂よりもおしゃれなカフェって言う方が合ってる気がするけどね。ようやくここでお昼ご飯を食べられる。
ちなみ今日はウィル様と2人。学園内でウィル様と2人で食事をするのは初めてのこと。そもそも団体行動していたのもローズが危険視されていただけで、本来学内でそこまでする必要はないのよね。
ま、仮に何かあったとしてもウィル様強いし、衛兵もいるから問題ない。
「ふっ。ディア、顔が緩んでるよ」
「だって本当に楽しみだったんです」
「知ってる」
カ……カッコいい。
もうっ! ウィル様の笑顔を見てしまった何人かの女子生徒が、顔を真っ赤にしてるじゃない。お願いだから誰も本気で好きにならないでね?
「——ちょっと太らせようか?——」
「ん?」
「いえ。なんでもありません」
ヤキモチで自分勝手なことを考えちゃった。
「それよりどうやって昼食を手に入れるんでしょう?」
食堂には給仕してくれる人がいないってことは知っている。だから自分で注文しないといけないんだろうけど……システムが分からない。
「あのっ」
「っ! はい」
私たちの近くにいた男子生徒に声をかけられ、ほんの少しだけびっくりしてしまった。
「この列に並んで頂いて、注文口で注文してください。料理はすぐに出てきます」
「そうでしたか。教えてくださりありがとうございます」
「い、いえ」
これって並んでいる列だったのね。今世は並ぶ機会が少なすぎて、言われるまで気がつけなかったわ。
システムを教えてくれた男子生徒にも、列の最後尾に向かっている間も、自分の前にどうぞって言われたけど丁重にお断りした。何が食べたいか教えてくれればお持ちしますとも言われたけど、王族だからこそルールは守らなきゃだもの。
ねっ? って気持ちでウィル様を見上げた。
「気にしないでくれ」
「ですが……」
「皆と同じ様に食堂を利用することを、ディアが楽しみにしていんたんだ」
「それは失礼いたしました」
ちょっ、その言い方だと私が我儘令嬢みたいじゃない。
ジトッとウィル様を睨んでみる。
「可愛い」
「はぅ……///」
攻撃したつもりが逆に攻撃されてしまったわ。
「ディアの可愛さを知っているのは俺だけでいいのになぁ」
「なっ!」
まさかの追加攻撃。
「ちょっとウィル様、黙ってくださいませ」
「どうしようかな~」
「もうっ!」
トントンっとウィル様の腕を叩いて抗議するも、ニコニコしながら黙って私の頭を撫でられてしまった。黙ってなんて言わなきゃよかったかも。
ずっと撫で続けるウィル様には私の攻撃なんてきっと効かないだろうけど、諦めずに今度は少し強めにポコポコっと叩いてみたり、腕にグリグリっと握りこぶしを押し付けてみたり。
でもその度に頭や頬を撫でてくるから、ウィル様の手を取って手のひらに『いじわる』って書いてやったの。まぁ……いつの間にかお互いの手のひらに何を書いたか当てるゲームへと移行したんだけどね。
「これはなんて書いたか分かりますか?」
「ウィル様大好き」
「ちがっ、もう。ちゃんと考えてください」
何を書いても最初にそう答えるんだから。
「じゃあ次は俺ね。はい、なんて書いたか分かる?」
「ディア大好き」
仕返しだ! と思ってそう答えたの。
「正解」
「もうっ! 違うって分かってますからね」
やっぱり私の攻撃は一切効かなかったわ。
長い列だったけど、案外早く私たちの順番に。
「何にされますか?」
「えっと……」
しまった! 全くメニューを見ていなかった。
「すまない。メニューを確認していなかった」
アワアワとしてしまった私と違って、落ち着いて対応されるウィル様。
カッコいい。
後ろにいた生徒に順番を譲り、注文口担当が自分用に書いた手書きのメニューリストを見せてもらった。入口に本日のメニューが書いてあるらしく、みんなはそれを見てメニューを決めてから並んでいるそう。私ったら食堂にテンションが上がりすぎて、全く目に入っていなかったわ。次回からは気を付けなきゃね。
「ディア、何が食べたい?」
メニューとにらめっこするも……
「……ウィル様」
「ん?」
「どれも気になって決められません」
「ふはっ」
だってどれも美味しそうなんだもん。結局知ったものではなく、初めて聞く名前の料理を注文した。
ワクワクしながら一口。
「かっ」
「ディア?」
「かっらーい」
このスープ、白いのに辛いっていうのは反則じゃない? 水を飲んでも辛いまま。少し口を開け、少しでも辛さが落ち着くことを願う。
「大丈夫?」
「ウィルさまぁ……辛いです」
あまりの辛さにちょっと涙目になってしまった。
「うっ///」
「ウィルさまぁ」
辛い~。
もう一度水を含み、口の中に残したままにして舌を冷やすも効き目なし。
「ディ、ディア。俺のと交換しよう」
「ダメです! 本当に辛いし」
「辛いのが食べたい気分なんだ」
「ウィル様……」
なんてカッコいいんだろうか。絶対そんな気分じゃないはずなのに、優しすぎる。
はぁ。これを注文した時に少し驚かれたのは、この辛さ故だったのね。
「はい、交換」
悩んでいる間にさっとトレーを交換されてしまった。
「ウィル様、ありがとうございます」
「ん」
もうここはお言葉に甘えておこう。
「……あっ、本当だ。辛いね。ディア大丈夫?」
「ウィル様こそ大丈夫ですか?」
「うん、美味しいよ」
痩せ我慢かもしれないけど、そう言ってくれる優しいウィル様。ちょこちょこウィル様の様子を確認しながら、私も食事を再開させる。
「美味しい」
「お口にあってなにより」
「ありがとうございます」
ウィル様が注文した物は私の口によく合うものだった。
*
*
「ウィル様、今日も食堂に行きませんか?」
「ん。いいよ」
今日は辛いかどうか先に確認しようと思ってる。
「「「「ダメです」」」」
「「えっ?」」
事前にメニューを決めてから並ばないとね。とウィル様と2人で話していたら、ノエルと側近の3人からダメだって声を揃えて言われてしまった。
何か予定入ってたっけ?
「行くのであれば、私たちも同行します」
「ノエル、気にせず好きに過ごしていいのよ?」
「でしたら少しは自重してください」
自重……? えっと、何の話?
あっ!
「大丈夫よ。今日は先にメニューを決めてから並ぶもの」
「そういうことではありません」
「違うの?」
「全くもって」
「ノエル、はっきり言ってくれなきゃ分からないわ」
「でははっきりと申し上げます。いちゃつきすぎです。もう少し時と場所を選んでください」
え? いちゃついていた記憶がないんだけど……? ノエルったら何言ってるんだろうね? ってウィル様と顔を見合わせる。
「並んでいる最中もですし、席についてからも隣同士で距離も近かったと聞いています」
「だって食堂は相席することもあるんでしょう? 隣同士の方が他の方も座りやすいと思ったのよ」
半分は、だけどね。もう半分は、ウィル様の隣に女子生徒が座るのを阻止したかったからだけど、それは内緒。
「あのですね。王族と相席なんてする人間がいるわけないじゃないですか」
「そう?」
「少なくとも婚約者と共にいるのに相席を望むバカはいません」
「言われてみれば……そうね」
もちろん禁止されているのではなく遠慮から。王族と相席なんて気を遣って疲れるっていうのもあるかもしれないわね。
でもローズなら遠慮なく座ってくるだろう。きっと彼女のせいで感覚がおかしくなっていたんだわ。とは言っても、ローズと同じような事をしでかす人間がいないとは限らない。
「ウィル様の隣は誰にも譲りません」
「ディア~」
俺もっていいながらギュッと抱きしめてくれたウィル様。
「そういうとこですよ」
ってノエルが呆れていたけど、どういうとこか分からないから、あまり気にしないことにした。




