伯爵邸にようこそ sideウィルハルト
クラウディアとウィルハルト 婚約前
10話と11話の間
「ふふ。ウィルったら嬉しそうね」
「はいっ!」
今日の予定が楽しみで、昨日は中々眠れなかったくらい。
朝ご飯を食べたら早く部屋に戻って準備しなきゃ。クラウディアに渡す贈り物ももう一度確認して……あぁ、早く時間にならないかな。
「ウィルは今日、メープル伯爵邸に行くんだったな」
「「えっ!?」」
父上! ここで言わないで……。せっかくずっと黙っていたのに。だって言ったら絶対、兄上とラインも行きたいって言うだろうから。
「それでソワソワしていたのね」
「義母上……はい……」
2人のことは好きだけど、今日はダメ。
王子という立場の僕たちは、中々城から出ることが出来ない。僕だって今回初めて城から出るし。だから羨ましいって気持ちは分かるけど、今日は絶対ダメ。
「あっ! ウィルはメープル嬢に会いに行くのか」
「そうですが……?」
兄上は何を言っているんだ?
「ウィルが可愛いって言ってた子だ!」
「うん///」
聞くと2人はクラウディアの兄である、ブライアンに会いに行くと思ったみたいだった。お茶会でも僕とクラウディアは2人でいることが多いし、兄上とラインにとってのメープル伯爵家はブライアンなんだな。
僕はクラウディアだけど。
「ふふっ」
僕だけだ。メープル伯爵家って聞いてクラウディアを思うのは。
「ふっ。本当に嬉しそうだな」
「はいっ!」
きっとメープル伯爵が出迎えるだろうからと、印象を良くする方法を父上が伝授してくれた。でもそれを聞いていた義母上が苦笑いだったのが気になる。
父上には悪いけど、先日マナー講師に教えてもらった通りにしよう。
*
父上の予想通りメープル伯爵夫妻がクラウディアと一緒に迎えてくれた。
ふぅ。練習したとはいえ、緊張してしまったな。
「いらっしゃいませ、ウィルハルト様!」
応接室に入り、僕が楽にしていいって言った途端、いつも通りの笑顔で出迎え直してくれたクラウディア。
か、可愛い……。
「!! クラウディア!」
「なんですか? お父様」
「なんですかって……」
「クラウディアはいいんだ」
驚いた伯爵がクラウディアを叱りそうだったから、慌てて止めた。だって僕がいいって言ったんだ。だからクラウディアを怒らないで。
「殿下まで……。——いやそうだよな……殿下じゃなく様だしな……嬢なんて付けないよな……でもいつの間に……——」
?? 伯爵がブツブツと何か言っている。
「あっ! ポーラの前以外では殿下って言ってたんだった」
「そうなの!?」
「一応、その……不敬だって怒られるかなぁって……忘れてました」
とチラチラと父親を見ながら話すクラウディア。なんで? と思ったらそういう理由だったんだね。ちゃんと僕が許可したってことを伝えないとだ!
「伯爵、僕が許可したんだ。クラウディアを怒らないでほしい」
「はい……もちろん怒るなんてことはしませんが……——婚約……いやまだ打診はきてない。まだだ……——」
また独り言……怒っている感じはしないからいいのかな? なんにせよ、父上のアドバイス通り『義父上』なんて呼ばなくて良かったってことだけは、なんとなく分かった。
その後夫人に連れられ2人が退席すると、クラウディアがソファーから立ち上がり、今日着ているドレスを見せてくれた。
「ウィルハルト様、見てくださいっ! 今日は妖精をイメージしてみました」
そして羽の代わりに大きなリボンを付けたのだと、クルッと回って見せてくれるクラウディア。
「可愛い」
「えっ!」
「あっ、声に出ちゃってた……」
だって本当に可愛いから。
「「///」」
2人して顔を真赤にし、落ち着かせるために紅茶を口に含む。
あれ? 昔読んだ絵本に載っていた妖精、緑色の服だったっけ? うーん、僕が知らない絵本に出てくる妖精かな?
ま、クラウディアが可愛いからなんでもいいや。
「赤と緑の組み合わせはちょっと悩んだんですけど」
「え? なんで?」
「な、なんとなくです」
「??」
赤い髪に明るい緑のドレス。似合っているし、すっごく可愛いよ?
「このドレスもクラウディアがデザインしたの?」
「いえ。私はこういうのが着てみたいってお願いしただけですよ」
そうなのだ。料理にしろドレスにしろ、クラウディアは凄いのは自分じゃないって言うんだ。
「言うだけなら簡単ですもの」
「でも今回の妖精のドレスだって、クラウディアがそう言わなきゃ妖精のドレスは出来上がらなかったんだよ?」
「でも、考えたのは私じゃありません」
「それでもだよ。妖精のドレスが着たいと言われなければ、このドレスは生まれなかったんだから」
新しいものを作るきっかけを与えることだって十分凄いんだから。
「僕もクラウディアを見習う!」
「えぇっ! 私に見習うことなんて何も無い……あっ!」
「なぁに?」
「では、新しい料理をたくさん開発していきましょう。ウィルハルト様もこんなのが食べたいって希望を言うようにしてください。そうしたらきっと今より色んな食事を楽しめます」
「うん! 分かった。そうしてみるね」
美味しそうに食べるクラウディア、すっごく可愛いから。
だから僕も、クラウディアに美味しいって言ってもらえるものを考えよう。
「そうと決まれば早速行きましょう!」
「どこに行くの?」
「ふふ。来てのお楽しみです」
そう言って僕の手を取って連れて行ってくれる。
「クラウディア///」
「ふふふ~」
手を……手を……僕、今クラウディアと手を繋いでる……。
「っ!!」
ど、ど、ど、どうしよう、手に汗が……。
「クラウディア、その……」
「もうすぐ到着しますよ」
じゃなくって手に汗が……笑顔を向けてくれるけど、気持ち悪くないの?
「到着しました~!」
ほっ。
両手を広げて目的地に付いたと教えてくれたおかげで、手を離してもらえた。
その……手を繋げたのは嬉しかったけど、汗が気になっちゃったからホッとした。
「料理長~」
「クラウディア様? 今日は第二王子殿下が……って殿下!?」
僕がいることに料理人達が慌てて頭を下げようとしたから、僕も慌てて気にしないでって伝えたよ。
「料理長、じゃがいもください」
「じゃ、じゃが、いも、ですか」
「どうしたの? 料理長カタコトになってる」
それは多分僕がいるからだと思う。まさか厨房に連れてこられるとは思わなかった。でも……これからまた新しい何かを作り出すのかな? それはちょっと……すっごく楽しみ。




