カスタード
クラウディアとウィルハルト 婚約前
10話と11話の間の話
「あのね、とろとろのプリンが食べたいの」
「とろとろですか?」
突然厨房に現れた私に、誰一人として驚かない我が伯爵邸の料理人たち。本邸はもちろん、王都邸でもお邪魔するようになったものね。
「そう。生クリームくらいの柔らかさがいいわ」
「分かりました! 必ず作ってみせます!」
と目をキラキラさせ、力拳を作る料理長。
「ありがとう。楽しみにしているわ」
「お任せください」
私が何を作ろうとしているのか。
それは……カスタードクリームよ!
この前ウィルハルト様と側妃宮でお茶会をした時、シュークリームが出てきたの。久々のシュークリームに感動し、一口サイズだからって言い訳してパクパク食べちゃった。
そしたら私につられたウィルハルト様もパクパク食べちゃって。これはいけない! って思ったのよね。
だからカスタード。私の記憶が正しければ、生クリームよりカロリーが低かったと思うの。
そ・れ・に! 生クリーム&カスタードで作るシュークリームとか……おっと危ない、涎が出そうだったわ。
ちなみにプリンは既にある。発祥理由は前世と似ていて、とある国の料理人が材料を使い切るために作ったのが始まり。でも焼きプリンしかなかったから、蒸したプリンはうちの料理人に挑戦してもらったわ。カラメルもね。
*
*
「シュークリーム?」
「ふふふ。はい。食べてみてください」
恒例のお茶会。今日はシュークリームを持参した。
「?? うん、いただくね?」
ふふふ~。見た目がいつもと変わらないから、なぜ私が得意顔なのか分からないのだろう。頭にクエッションマークを残したまま、一口サイズのそれをパクっと食べたウィルハルト様。
「!! これっ、プリンだ!」
「さすがウィルハルト様! 大正解です!!」
先日、カスタードクリームが完成したの。
「うちの料理人の新作です!」
もちろん私の希望通りとろとろプリンとして出してくれたんだけど、『生クリームの代わりに使ってみたんです』って私が提案する前にカスタードのシュークリームも出してくれて。
「プリンが一口で食べられるね」
「はいっ! でもプリンだと混乱するので、これはカスタードって名付けました」
「カスタード?」
「はい。なんだかカスタードって感じがしたので」
「ふはっ。ねぇクラウディア、これもこう、降ってきたの?」
いつかの私がしたように、両手を上に挙げキラキラと天から降ってきたジェスチャーをするウィルハルト様。
「っ!! そ、う、です///」
なんだこれ。今までだって可愛いとか良い子だなって思うことはあった。
でも今のは……少し首を傾げながらめちゃくちゃいい笑顔を向けられたら、照れちゃうじゃない。
「クラウディア?」
両手を頬にあて、赤くなったであろう顔を隠そう。でもきっとそれだけじゃ隠せないと下を向いたら、ウィルハルト様が覗き込むように見てきた。
「ちょ、今はちょっとだめです」
顔を背けるも、心配顔のウィルハルト様はどんどん近づいてくる。
「だめ?」
「ち、近いですっ」
「あっ……ご、ごめんね……」
本当、急に顔を近づけないでほしい。
こんな小さな男の子相手にドキドキしちゃうなんて、きっと私、前世から男性に免疫がないんだわ。
「ふぅ……」
ようやく落ち着い……ん?
「ウィルハルト様?」
元気、ないよね? ちょっと待って。この数分で何があったの?
誰のせいだ! って左右に首を振って使用人や騎士の様子を見ていたら……。
「…………ごめんね」
謝ってきたウィルハルト様。
「え?」
……私?
「ごめん、とは?」
「だって……さっき僕…………顔を……」
「顔?」
「近づけちゃったから……」
っ!!
わわわ。これは私が悪い。自己肯定感が低い相手に、勘違いさせてしまう言い方をしてしまった。
「違います!」
「気を使わなくていいよ」
「本当にっ!! 違うんです」
うぅ……どうしよう。本当に違うのに。ただただ私が照れただけなのに……すっごく落ち込ませてしまった。
もう本音を言うしかない?
恥ずかしいけど、誤解を解くにはちゃんと言うしかないよね。すっごく恥ずかしいけど。
「クラウディア……そろそろ帰る?」
「帰りませんっ!!」
このまま帰ったら一生会えなくなりそう。たった一言で、今までの時間が崩れてしまうなんて絶対に嫌。
「聞いて下さいウィルハルト様……本当に違うんです。その……」
「…………」
女は度胸よ! 度胸……度胸……ここは目を瞑って一気に言ってしまおう。
「は、は……恥ずかしかっただけですっ///」
よしっ。大分早口になってしまったけど、ちゃんと言えたわ。
「……え?」
ポカンと口を開けて驚いているウィルハルト様。どうやらしっかりと伝わったみたい。
「だってウィルハルト様の顔が近くて……」
「それが嫌だったんじゃ……?」
「て、照れちゃっただけです///」
「えっ! 僕に?」
だからそう言ってるじゃん。と思い、頷いて返事を返す。
「「///」」
二人して顔を真赤にしてしまい、その後食べたシュークリームはいつもより甘かったかもしれない。
そしてその様子を見ていた側妃様。
私達がお茶会を開くようになってから側妃宮に在中するようになった絵師の手によって、2人の赤面姿を形に残されていたと私たちが知るのは……まだ先のこと。




