ラジオ体操
クラウディアとウィルハルト 婚約前
10話と11話の間の話
「では、私の真似をしてくださいね」
側妃宮の庭園にて。ウィルハルト様のダイエットのために、ラジオ体操を伝授しようと思ったの。
「~~~♪」
もちろん前奏から歌うわよ。
「ちょ、ちょっと待って! クラウディア、その音楽は何?」
「え? これは今からする体操の曲です」
「そうなんだっ! 曲付きの体操があるなんて、僕初めて知ったよ」
訓練前に準備体操をしているのかって、以前伯爵家の騎士に聞いたことがあるの。もちろんです! って胸を張って答えてくれたけど、念の為内容を確認してみたら走り込みとか、それは筋トレだねって内容だったのよ。
準備体操の大切さは追々広めるとして……筋トレもダイエットになるだろうけど、脂肪を落とすのと筋肉を付けるのってメニュー内容が違ったと思うのよねぇ。
とはいえ残念ながら私にはその知識がない。そこで思い出したのがラジオ体操! 消費カロリーは少なくても、毎日続けることで基礎代謝があがるって言われてた……はずだから。
「この体操だけ特別に曲付きなんです」
「特別?」
「はいっ! だって私が昨日考えた曲なので」
正確には昨日覚えてるか確認した曲ですが。
「クラウディアが!? それはすごいねっ!」
「こう……降ってきたんです」
と、両手を上に挙げ、キラキラっと天から降りてきたようなジェスチャーをする。
間違ってはない。だって思い出すために、斜め上を見ながら歌ってたもん。
「では、改めて最初からいきますよ」
「分かった」
「~~~♪」
もちろん曲なしのカウントでやろうかなとも思った。でもね……無理だったの。歌いながらだと体が自然と動くのに、カウントだと次は何だっけ? ってなっちゃって。
まぁ誰に見られたところで正解が分かる人はいないし、順番違うよ、その動き間違ってるよ、なんて指摘されることはないんだけどね。でも私が適当に決めた動きじゃ意味がないから。
「~~~♪」
……音程が間違ってることとか、あれ? ちょっとメロディー違ってない? ってのは大目に見てほしい。
「ふぅ。結構疲れるね」
「そうですね」
全力でやったからなのか、私の体力がなさすぎるのか普通に疲れた。昨日は思い出すことに力を入れていたからなぁ……これは私も続けたほうが良さそうね。
「そうだわ!」
「どうしたの?」
「ウィルハルト様。紙とペンをお借りしても?」
「もちろんいいよ」
用意してもらった紙にまず外枠を書いて……1ヶ月分の日付が書けるように線を引いて、日付を書いて……っと。
ふっふっふ~。
ラジオ体操の記録カードを作ってみました!
「毎朝さっきの体操をしてください。それで、ちゃんとしたらハンコ……判を押して貰ってください」
「判? それは誰にもらうの?」
「えっと……」
うっかりしてたわ。
ハンコって貴族の当主とか偉い人しか持ってないんだった。流石にラジオ体操をしたので押印お願いします! なんて私でもお父様に言えないのに、ウィルハルト様は国王陛下に頼まなきゃいけないとか、もっと無理な話。
作ったカードの枠とサイズも合わないし、ハンコはなしね。
もちろん野菜を使っての手作りハンコもなし。サイズが合わないのはもちろん、恐らく毎日新しいものを用意されそうだから。しかも絶対に捨てる部分とかじゃないってうね。
「やっぱりこの印を書いてもらうことにしましょう」
と、枠外に見本となる【はなまる】を書く。◯や✓だと少し味気ないし。
「書いてもらうのは、そばにいる大人にお願いしてくださいね」
「分かった」
「印が貰えるのは、朝起きてから朝食前に済ました時だけです」
「じゃあいつもより少し早く起きなきゃだね」
「そうなんです。あっ! もちろん私もしますよ」
ラジオ体操って朝早い時間だった記憶が……確か朝ご飯はラジオ体操が終わってから食べてたと思うのよね。その通りにする必要もないけど、何かしら決まりがないとカードの意味もないし。
「ウィルハルト様、不正はダメですからね?」
「もちろん」
「印の多い方の勝ち、です」
「じゃあ勝負だね!」
「はいっ」
小学生の頃はハンコやシールが貯まるだけでも嬉しかったし、今回も印が貰えるだけで満足しそうだけど勝負にした方が頑張れる。主に私が。
「ねぇ、クラウディア? この勝負、勝者にご褒美ってある?」
「そうですね……では負けた方が勝った方の言う事を1つ、なんでも聞くというのはどうでしょう?」
「いいね! そうしよう」
んふふ~。勝ったら何をお願いしようかなぁ?
そうだっ! 王宮スイーツのレシピを1つ教えてもらう、とかいいかも。
*
*
*
「僕の勝ちだね」
「……はい」
負けてしまった……しかも大差。
「クラウディア、もしかして朝が苦手?」
「そうだったみたいです」
規則正しい生活は送ってるんだよ? ポーラが起こしてくれるし。
でも朝起きてから準備して朝食に向かう……この準備って侍女の手を借りてするから、その時間でゆっくり目を覚ましてたって事に気付いたの。
「いつの間にか朝食の時間になってることが多くて」
でもっ! 不正になるから【はなまる】は貰えないけど、体力を付けるために朝食後にはちゃんと毎日してたよ。
「僕ね、クラウディアが頑張ってたって知ってるよ。だからクラウディアのお願いも聞いてあげる」
「っ!! でも先に聞くのは私です」
「ふふっ。うん、分かった」
遠慮すべきところなんだけど、レシピ教えてほしいから……えへへ。
「ではウィルハルト様のお願い、2つ聞きます」
「いいの?」
「はいっ! 私も1つ聞いてもらうので」
「ありがとうっ」
ウィルハルト様のお願いの1つは、ラジオ体操の記録カードをまた作ってほしいってことだった。カードがある方が毎朝頑張ろうって思えるからって。
私もするかどうかは任せるよって言われたけど、せっかくなのでもう1ヶ月勝負することにした。
そしてもう1つは……。
「メープル伯爵邸に遊びに行きたい」
「?? それがお願いですか?」
「だめ……かな?」
「ダメじゃないですっ! そんなのお願いにしなくたって、いつでも遊びに来てください」
本当どっちのお願いも、勝負に勝たなくたって叶えるのに。
「!! あ、ありがとう……でも、今回はそのお願いでいい」
「そうですか? では早速日程を決めちゃいましょう!」
「うんっ」
私とウィルハルト様が毎朝続けていたラジオ体操。最初は変な目で見ていた者たちも、実際にやることで気に入ったようで……王宮騎士と伯爵家の騎士が訓練前に必ずするようになったのは、また別の話。




