5.残念王子
「ん~!」
美味しい~! 私、前世から甘党なの。
ありがたいことにメープル伯爵家は裕福。だから伯爵邸でも甘味は食べられるけど、砂糖は希少な調味料だから甘さ控えめなのよね。
さっすが王宮! 求めていた甘さだわ。
でもこんなのを毎日食べていたら、そりゃあ第二王子も太っちゃうよ。彼の分は甘さ控えめにしてあげた方がいいと思う。言わないけど。
「メ、メープリュ伯爵令嬢様」
「ん? っ!!! ゴホッ」
ちょうど口に含んだタイミングで声を掛けられ、むせてしまった。
「ごごご、ごめんね。僕が急に話しかけたから……」
『ご』が多いな。口の中に入ったままのスイーツを慌てて紅茶で流し込む。
「失礼いたしました。第二王子殿下」
スイーツに夢中になりすぎて、隣に来たことに全く気が付かなかったわ。
「あのっ……座っても……いい?」
「もちろんです」
顔真っ赤。私の名前も噛んでたし、きっと声をかけるのにも勇気を出したんだろうなぁ。他2人の殿下たちは……相変わらずご令嬢達に囲まれていらっしゃる。
「僕でごめんね? あっちに行きたいよね……」
「え?」
「兄上とラインはカッコいいから……」
私があっちを見たから勘違いしちゃった? きっと心無い言葉の暴力のせいで、ネガティブ思考になってしまったんだろうな。気にしなくていいのに……っていうのは無理な話か。
腹違いの弟を『ライン』って愛称で呼んでいるし、向こうの2人も第二王子殿下をチラチラと見て気にしている。兄弟仲は悪くないと見た。
「本日はスイーツを楽しみに来ましたの。なのであっちに行きたいとは思っていません」
「……そうなの?」
「はい」
花より団子作戦は秘密の予定だったけどね。このまま勘違いさせたままだとネガティブに拍車がかかりそうだし。見た目や肩書にしか惹かれない令嬢達のことなんて気にしなくていいんだよ~。ってちょっと母性? をだしてみた。
「殿下も食べますか?」
「でも……」
小さな声で太っちゃうからって。その通りなんだけど、その分動いたらいいんだよ~。
「私、5つ食べました」
「5つも!?」
「はいっ!」
だって1つ1つが小さいんだもん。
「そんなに食べたら怒られちゃう」
「そうなんですか?」
「3つまでってお母様に言われてるんだ」
「えっ……酷い……あっ!」
これ不敬罪!?
「ふふっ。酷いよね。お母様には内緒にするから安心して」
「ありがとうございます」
助かった~。
「それで殿下、どれにしますか? 私のお勧めはコレですっ!」
「マカロンだね。僕も好きなんだ」
「ふふふ。覚えておきますね」
やっぱマカロンか。何も挟んでないけど、そういったマカロンも前世にあったよなぁって思ってたんだよね。
それより……こんな小さいスイーツを3つしか食べてないのに、なんで太ってるの? 減らし始めたのが最近とか?
「美味しいね」
「はいっ」
美味しいって正義よね。次はどれにしようかなぁ……。
「あのねっ……生クリームって、食べたことある?」
「っ!!! あ、ありません」
生クリームがあるの!? めっちゃ求めてました!!
「食べてみたいです!」
「今日はないんだ……だから……その……」
「そうでしたか……」
残念。生クリームって王宮でしか手に入らないのかしら? 帰ったらお父様に要確認ね。
「今度、食べに来る?」
「いいのですか!? 是非お願いします! あっ、もしかして次のお茶会でってことですか?」
今回招待されたからって次も招待されるとは限らないのよね……困ったわ。
「そうだよね。その方が……いいよね……」
「いえ! できれば別の機会を設けていただけると嬉しいですっ!」
その方が確実だし。
「いいの!?」
?? むしろこっちがいいの? なんだけど。
「殿下の都合がよろしければ」
「うん! ありがとう! 楽しみにしてるね。メープル伯爵令嬢様」
うーんと……なんで私はお礼を言われたんだ? まぁ、いいか。
「私も楽しみにしています。それと……どうぞ私のことはクラウディアと」
私伯爵令嬢だよ? なんで様付け? ちょっとこの王子様、気を使いすぎでしょ。
メープル嬢にしなかったのは、クラウディアって今世の名前を気に入っているから。あとメープリュって最初に噛んでたしね。可愛かったけど。
「ぼ、僕のこともっ! 殿下じゃなく……ウィルハルトって……呼んで?」
「かっ!」
「……か?」
可愛いかよ。こちらを伺うように首を掲げ、捨てられた子犬のような目で……しかも上目遣いだし。
「かしこまりました。名前呼びを許可してくださりありがとうございます。ウィルハルト様」
「うんっ!」
この子……可愛いわ。