50.隠しキャラとの恋愛フラグ
「ディア、ブライアンと抱き合ってたって聞いたんだけど」
「抱きっ!? 変な言い方しないでください」
あの日のことよね。周りにいた誰かが噂したんだろうけど、言い方よ、言い方。
「それで、事実なの?」
「お兄様といる時に、フラワー男爵令嬢から声を掛けられたんです。対応が面倒だったのでお兄様に任せようと……」
「で、抱き合ってたの?」
食い気味で聞いてくるウィル様。
「抱き合ってません! そのっ、抱きしめられはしましたけど、演技です」
「へぇ。抱きしめられたんだ」
「お兄様ですよ!?」
「だから?」
「えぇ……」
めちゃくちゃ機嫌悪いじゃん。
お兄様だよ? 家族間でハグとか普通の国だよ? 長期で出かける時はお見送りしたり、お出迎えしたりする。挨拶代わりにハグしたって今まで何も言わなかったじゃん。
「挨拶のそれとは違うでしょ」
「……お兄様ですよ?」
むしろ前回より、挨拶のハグの方が気持ちこもってますが。どうしよう……ノエルや側近の皆様に視線を向けるも、誰も助け舟を出してくれない。
「ウィル様?」
「何?」
もう、怒らないでよ~!
「えっと……お兄様に抱きしめられても何も思わないですけど、ウィル様に抱きしめられると、その……ドキドキします///」
「……そ///」
機嫌、直った? 顔を背けられてしまったけど、耳が赤くなっている。
皆も頷いているし、正解だったみたい。
「ディア、顔真っ赤」
そりゃあ機嫌を直したかったのが一番だけど、言った内容に嘘はないからね。
「ウィル様のせいです///」
「そっか」
もうっ/// こんな恥ずかしいこと言わせないでよねっ。
「おいで」
両手を広げているウィル様に近づき、力いっぱい抱きしめられる。
そんな部屋の中は、皆が仕事に戻った音だけが響いていた。
*
*
「嘘つき」
はぁぁ。
「またあなたですか」
またまたローズ、馬車乗降場で待ち伏せしてたんだけど。
ウィル様達は急ぎの執務があって午後から早退。お兄様は三日前から王太子殿下と視察。バーバラは訓練場。サブリナはナタリー様と一緒に王妃様とのお茶会。
だから私、珍しく1人で馬車に向かっていたの。っていうか私も今からお義母様とお茶会だし、ローズの相手をする暇なんてないんですが。
「なんで第二王子の婚約者だって隠してたのよ」
「一切隠していませんが」
「でも私は知らなかったわ」
それはあなたが無知なだけでは?
「ちょっとクラウディア!」
「…………」
クラリッサって呼ぶのはもう辞めにしたのね。
「返事ぐらいしなさいよ」
「あなたに名を呼ぶ許可を出していません」
「いい加減にしなさいよ」
それはこっちのセリフです。
「常識を学ばれることをお勧めしますわ」
帰ったらまた男爵家に抗議文を送らなきゃね。
はぁぁ。男爵もちゃんと叱りなさいよね。
「では、急ぎますので」
「待ちなさいってば!!」
「きゃっ」
急に腕を引っ張られ、よろけてしまった。
「何がきゃっ、よ! ムカつくわね」
そんな事にムカつかれても。
「離してください」
「いやよ」
ローズのために言ってるんだよ? あっちにいる衛兵が、私達のやり取りを見てるって気付いてないの?
駆けつけようとした衛兵をとりあえず私が止めたけど、アイコンタクト1つですぐにでもやってくる状況なんだよ? ねぇローズ、絶対分かってないでしょ。
「少しでしたら話を聞きます。なので手を離してください」
「いや」
「衛兵を呼びますよ」
「……絶対に逃げないでよ」
「逃げはしません」
時間になったら移動するけどね。
「あなた転生者でしょ」
「?? えっと……?」
すっごく困ってますって顔をローズに向ける。入学式の日に危険を感じてから、この顔だけは練習してたのよね。いつか転生者か問われた時の為に。
「うそ? 違うの?」
「??」
ここで転生者ってどういう意味? とか聞いたほうが説得力が増すけど、時間がないので困り顔で押し通す。
「まぁいいわ。それより、ハルト様って太ってるのよね?」
「ハルト様? どなたのことでしょう?」
「第二王子殿下よ。ってクラウディア、あなた名前呼びを許されてないんだ。あ~可哀想」
可哀想じゃないし、許可されてないのはそっちだし、ウィル様太ってないし。
「そうでしたか。殿下をハルト様と呼ばれる方がおりませんので」
「それノエルも言ってたわ」
でしょうね。
「ハルト様が太ってて引きこもってるから、全然会ってないのよね? 婚約者なのに酷い人」
いえ、むしろ会わない日の方が少ないですよ。
「そんなに嫌なら私が変わってあげるわ」
「お断りします」
「私はクラウディアと違って、ハルト様に自信を付けてあげられるのよ」
ふ~ん、なるほどね。なんとなく分かったかも。
「とりあえずハルト様に会わせなさい」
「お断りします。時間ですので失礼します」
ずっと私達を気にかけてくれていた衛兵に視線を送り、ローズの足止めをお願いする。
「この事は男爵家に抗議文を送らせていただきますので」
「えっ、また!? 困るんだけど」
なら困るような事、最初からしなきゃいいのに。
*
「ふぅ」
今までの情報から推測するに、逆ハーエンド後に6人目のルートが開放される。そして6人目の攻略対象者はこの国の第二王子。
美男美女揃いの王族の中で、残念王子と呼ばれていることがコンプレックス。学園入学時も太ったままで、婚約者も側近もいなくて、マイナス思考に拍車がかかり引きこもり状態。
逆ハーに成功しているから、ヒロイン1人ではなく攻略対象者全員を招待したお茶会を、おそらくメインヒーローが王城で開催。
いくら引きこもりとはいえ第二王子にも執務があるから、王城で迷っていたヒロインをたまたま近くにいた第二王子が助ける。
それをきっかけにヒロインがダイエットに協力し、自信を付けさせる。ついでにその他諸々も解決して攻略完了! ってとこかしらね。
「あら……?」
これが正解なら、私、がっつりフラグ折ってない?
むしろ折ったというよりも……ヒロインより先に、私が攻略しちゃってたわ。




