48.攻略の鍵は?
「ウィルハルトが来たみたいね」
側妃様とのお茶会。
「はい。お義母様、お相手ありがとうございます」
「楽しかったわ」
「私もです」
とても30代に見えず変わらず可愛らしい側妃様に『お義母様って呼んで』とうるうるとした目でお願いされたら、断るなんてできなくて。いずれ呼ぶとはいえまだ先の話なのに。毎回照れてしまうわ。
ローズから得られる情報はこれで全てだろうと、他2人の殿下方に報告しに行かれたウィル様。そんなウィル様を待っている間、側妃様に誘われて側妃宮にお邪魔していたの。
「ブライアンは相当怒っていたよ」
側妃宮に私を迎えに来てくれたウィル様は、開口一番そう仰られた。
『メープルシロップ令息』だもんね。バカにしてるのが手に取るように分かる呼び方だから、直接言われなくてもムカつくわ。
「でしょうね。私も帰ってから謝ることにします。お兄様の名前を出すようお願いしたのは私なので」
「ディアは何も悪くないけどね」
「ふふ。ありがとうございます」
殿下方はそれぞれ側近を1人ずつ連れて話し合ったそうで、クリスハルト殿下はお兄様を連れていたみたい。
ノエルの正体を明かしていないから、今回のシロップ発言について抗議文を送るつもりはないけどさ。
「ちなみにブラック家とは?」
「一切関係なかったよ」
だろうね。前に暗殺が成功したと言っていたのも、全部ゲーム情報ってだけだろうから。
「それよりも……」
最初からウィル様狙いだったなんて。と、ウィル様に視線をやる。
「俺は引きこもりらしいよ」
と肩をすくめ、面白そうに言うウィル様。
「面白いことを言う令嬢ね」
と笑顔で怒る側妃……じゃなくってお義母様。
うーん。ゲームでは暗殺が成功しているみたいだから、王城内が殺伐としていて引きこもってしまうような事があったのかもしれない。
それかお義母様自身も追放前に留学しにきているし、側妃になるまでの過程がゲームとは違うからって場合もあるわね。
どっちにしろ引きこもってしまった原因の解決が攻略の鍵ってとこかな。
「王城で迷っている彼女をウィル様が助ける、でしたっけ?」
「うん。そもそも彼女の立場では王城に入れないのにな」
「そうですよね」
その辺は乙女ゲームのご都合主義で、ラインハルト殿下が許可したとかそんなところだろう。実際は王子であっても婚約者以外の令嬢を独断で呼ぶことは出来ない。そうしたいならちゃんと手順を踏んで婚約者にしてくださいってなる。
「……ん?」
「ディア? どうしたの?」
「いえ」
ウィル様は引きこもってない。攻略の鍵……ないよね? 恋愛フラグ、折れてる?
私、悪役令嬢になる必要ないじゃん!
*
って思っていたんだけどな。
なぜこうなった。
「クラリッサ!」
もう大丈夫だろうと、入学して初めて食堂に来たの。王族用サロンでの昼食は各家が持ち回りで用意していた。どの家の食事も美味しかったのに、食堂のご飯を食べてみたい! なんて言うんじゃなかったわ。
「えっと?」
「クラリッサでしょ?」
「いえ、違いますが」
食堂に入ってすぐ、ヒロインに声を掛けられてしまった。
前にクラリッサとして会った時、私は下位貴族令嬢に見える服装をしていただけで顔は特に変えていなかったものね。だってヒロインと会う予定はなかったから変装する理由もなかったし。
大体、1度しか会ってないのによく私の顔を覚えていたわね~。
「平民のくせに失礼な態度だったわよね。謝りなさいよ」
えっ? あの時、苦手だわ~って思いながら謝ったと思うんだけど。というかまだ怒っていたの? めっちゃ根に持つじゃん。
「平民ではありませんが」
「はいはい。っていうか学園生ならあの時そう言いなさいよね」
「あの時、とは? 初めてお会いしたと思いますが?」
正確には入学式の日にも会ってるけど。
っていうか、隣にあなたが狙っているウィル様いるのにいいの?
「ちょっとこっちに来なさいよ」
私の腕を掴もうと、手を伸ばしてきたローズ。睨んできているし、平民のクラリッサになら何をしてもいいと思っているんでしょう。
「いたっ! 離しなさいっ!」
でももちろん私に接触する前に、ノエルが阻止してくれたけどね。
あははっ。ノエルにも気付かないとか滑稽でしかないわ。
「ディア、行こう」
「はい」
ノエルにアイコンタクトを送り、ここから離れようと私の背中を押すウィル様。
わお! 相当怒っていますね。
なのに私に触れる手は優しくて。それがすっごく嬉しい。
「ディア、大丈夫?」
「はい。でもまさか私の顔を覚えているとは思いませんでした」
あーあ、結局いつもの王族用サロン。食堂のご飯楽しみだったのにな。
「ディアは可愛いから」
「……ウィル様、私、今真面目に話してます」
「俺も真面目だよ?」
ジトッとウィル様を見るも、ニコって返されただけだった。
「彼女、ウィル様には一切反応しませんでしたね」
「あぁ……そう言えばそうだったな。苛つきで狙われていたことを失念していた」
「ふふ。ありがとうございます」
それって自分のことより私の事を考えてくれてたってことでしょう? 嬉しくって、隣にいるウィル様にほんの少しもたれかかる。
「ディア、食堂は禁止ね?」
「えぇ!?」
ガバっと体制を整えウィル様を見上げる。
「当たり前でしょ」
「ウィル様~」
「食堂のメニューを届けさせるから」
「そうじゃないんですよねぇ」
食堂で食べたいの。その方が学生って感じがするから。
きっとノエルが私が伯爵令嬢だって説明してくれているだろうけど……それで納得するかな? 食堂には沢山の生徒がいた。そのうちの誰かが、一緒にいたのは第二王子だとローズに教えるかもしれない。ウィル様の見た目が好きで狙っていたならば、さっきウィル様に気付かなかったのはおかしい。
「第二王子って肩書狙いなのでしょうか?」
「かもしれないね」
とりあえず、ノエルが帰ってくるのを待ちますか。
学生生活、やぁっと心から楽しめると思っていたのにな。




