4.王妃様主催のお茶会
「いいか。スイーツではなく、王子殿下と交流を持つんだぞ」
王宮に向かう馬車の中、聞き飽きるほど何度も何度も同じ事をお父様が注意してくる。
神妙な面持ちで頷いているのに、お父様ったら全く信用していないって顔をするんだから。間違ってはないけどね!
「ブライアン、頼んだぞ」
「はい」
げぇ。お兄様にまでお願いしだした。2歳しか変わらない、なんなら私の精神年齢の方がずっと上にも関わらず、お兄様ってしっかりしてるのよね。本当に9歳?
ま、王子様達に挨拶だけしっかりしておけばいいでしょう。
「わぁ~! あれが王城ですか!? お城みたいっ!!」
「何を言っているの。お城よ、クラウディアちゃん」
違うんだってお母様。上手く言えないけど……前世の世界中に現存していた古城が全盛期の姿でそこにある、そんな感じがしてちょっと感動しちゃったの。ま、実物は見たことないんだけどね。
よくよく考えると、私は領地と王都の伯爵家の敷地内しか知らない。だからいつか行きたいと思っていた、ヨーロッパの町並みが目の前に広がっていて……素敵でしかない!
感動しっぱなしのまま、気が付くとお茶会会場に到着していた。よしっ。王族の皆様が来るまでの間は、人間観察を楽しむことにしよう。
バッチリ化粧の子に本物の宝石をふんだんに使っている子。フリフリドレスの子に……上位貴族って髪の毛を縦ロールにしないといけない法律でもあるの?
「王族の皆様が到着されるよ。クラウディア、しゃんとしてね」
「えっ? はい、お兄様」
お父様に頼まれたお兄様、意気揚々と私に注意してくるんだけど。
「わぁお! ……ごめんなさい」
思わず声を出してしまった私を、視線で黙らせるお母様。
でも仕方ないと思うの。国王陛下はハリウッド俳優にしか見えないし、王妃様はパリコレモデルって感じだし。側妃様に至っては本当にアラサー? どう見てもプリンセス。歌とか歌い出しそうなんだよ?
その後に続いた第一王子と第三王子はめっちゃ可愛い。あれは確実にイケメンになるわ。
第二王子はぽっちゃり……いや、ちょっと太り過ぎ? でも子供特有の可愛さはあるし、ハリウッド俳優とプリンセスの息子って考えると、痩せたらイケメンになると思うのよね。
「残念王子は来なくていいのに」
どこからともなく聞こえてきた悪口。
「お兄様……」
「ダメだよ」
いやいや、私は言わないよ? ただ、残念王子って第二王子のことだよね? きっと体型を見て言っているんだろうけど、これはいつものことなのか、聞きたかっただけ。でもこの場で聞くことじゃなかったわね。帰ってから尋ねることにしましょう。
そんなことよりもよ。誰? 王妃様と側妃様の仲が悪いとか言ったのは。
……私ね。悪いどころかめちゃくちゃ仲良さそうじゃない。
いや~でも理解できないわ。前世を思い出したせいなのか、夫を共有するとか普通に無理。いくら仲の良い相手とでも絶対にい・や!
この国は一夫多妻も一妻多夫もオッケー。だから決して悪いことをしているわけじゃないけど……王様引くわ~。
だってさ、側妃様が産んだ第二王子と王妃様が産んだ第三王子、2人共私と同い年で誕生日が2ヶ月しか変わらないのよ? 二股じゃん。
子宝に恵まれず側妃を娶る、なら血を繋げるためだと一応理解できる。でも私の2歳上に、お兄様と同じ年の第一王子がいるわけで。
側妃、いる?
王妃様と側妃様だって今は仲良くても、自分の息子を王に! って将来的に喧嘩する可能性だってあるわけで。そうなった時は冗談抜きで暗殺とかありそうだし。想像するだけでも怖いわ。
ちなみに第一王子殿下は銀髪青目のクリスハルト殿下。第二王子殿下は黒髪青目のウィルハルト殿下。第三王子殿下は金髪青目のラインハルト殿下。
ウィルハルト殿下の色合いは懐かしさを感じるし、一番落ち着くかも。
*
「お初にお目にかかります。メープル伯爵家が長女、クラウディア・メープルと申します。以後、お見知りおきを」
私達の挨拶の番が回ってきて、お父様に促されて挨拶。流石に緊張したけど、中々上出来だったんじゃない?
完璧なカーテシーを披露でき、少し満足気にしてしまったのは……7歳だからということで大目に見てほしい。
王族への挨拶後は両親と別れ、子供は子供だけで交流する時間に。と言っても親は少し離れた場所にいるから……お母様の監視から逃げ出すことは叶わない。
「ディア。僕は殿下に挨拶に行くけど……」
「行ってらっしゃいませ。お兄様」
私も付いてくるようにとお兄様が言葉を発する前に、送り出しの言葉を贈る。そして私はメインであるスイーツを食べに、いざっ!
それにしても……王様って忙しいんじゃないの? そりゃあ休息も必要だけど、子供メインのお茶会なんだからお仕事しよう? イケメンだからって何しても許されるわけじゃないんだからね!
……って、いくら二股男だからって偏見はダメよね。事前に仕事を終わらせているのかもしれないし。子煩悩な良い父親なのかもしれないし。
大人達の思惑は私を第二王子の婚約者にしたいんだろう。でも……父親は平気で二股するような男よ? 御免被りたい。まっ、第二王子って明確に言われたわけじゃないし、当初の予定通り花より団子作戦でいくけど。
王子殿下達の周りに集まるご令嬢達……すっごいな。私は、あの中に行く勇気を持ち合わせていない。