44.もう一人の転生者*1年前
「」はアークライト及びアークブルーで使われている言語で、『』は日本語です。
やってきました! 隣国アークブルー王国。そして王城にある国賓用離宮でポーラにヘアセットをしてもらっている私。
「ただの伯爵令嬢なのに」
「いい加減諦めてシャンとしてください。クラウディア様は第二王子殿下の婚約者ですから」
「分かってるけどさ」
隣国に行くことが決まった当初は側妃様のご実家でお世話になる予定だった。それでも恐れ多いのに、なぜか国賓用の離宮を用意されてしまったの。第一王子である、ロナルド殿下の希望で。
いや何で!?
もちろんウィル様も離宮に……っていうかウィル様は分かるよ? 王族だし。
「殿下と別で良かったんですか? その場合お一人で公爵家ですよ?」
「そうだけど~。ポーラの意地悪」
「はいっ、ちゃんと前向いていてくださいね~」
でた。ポーラお得意の聞こえないふり。
今準備してるのだって第一・第二王子と、ウィル様と私の4人でこれから昼食会に向かうためで。3人の王族と私……私いらなくない? いらないよね? 3人で食べなよ! 緊張で絶対味しないし。
「王族との食事、慣れているじゃないですか」
「国が違うからー!」
息子や兄弟の婚約者って立場と、他国の伯爵令嬢じゃ全然違うから!
「十分凄い状況ですけどね」
「ポーラ変わって」
「冗談はよしてください」
「だってぇ」
抵抗むなしく準備が完了し、迎えに来てくれたウィル様と昼食会に向かった。
*
『私、転生者なの』
えっ!! 日本語!? 昼食会開始早々、ロナルド殿下が発した言葉にみんな首を傾げている。
私、転生者だって誰にも話してないんだけどなぁ。一応私も同じ様に首を傾げてみたけど、一瞬驚いてしまったことに気付かれた気がする。
『無理に日本語を話す必要はないわ。でも同じなら頷いて。もちろん、悪いようにはしないから』
お言葉に甘え、下を見るふりをして軽く頷いた。
『私ね、女子高生だったの』
うん。話し方で女性かなって——高校生だったんだ。
「兄上……?」
『うどんに卵焼きに豆腐! 私以外にも転生者がいるって嬉しかったの』
「ちょっと兄上!」
自分の欲求のためにやっていた食文化改革で気付かれ、さっきの反応で確信されちゃったのね。
「醤油には感謝しているんです」
「そうでしたか」
王子ではなく王女なら昔話に花を咲かせることが出来たのに。ちょっと残念って私が思っている間、第二王子は兄の異変にまだ動揺されていて、ウィル様は何事もなかったように醤油の話をされている。
ウィル様強くない?
醤油の実——これはアークブルーとは別の隣国との間で見つかったもの。実はアークブルー王国内にも昔からあったらしいけど、毒物扱いだったみたいで。確かに飲料水扱いだと塩分高すぎて体に毒だもんね。
『うどんと卵焼きをまた食べられるとは思わなかったぁ』
あー、醤油レシピの人気食ね。って、また急に日本語を挟まないで欲しい。日本語で返すわけにもいかないし、聞いてますよ~ってほんの少し口角を上げておいた。
「あ、兄上……」
「なんだ?」
「なんだじゃないですよ。先程からどこの言葉で話しているのですか? 分かる言葉を使ってください」
「東方の国の言葉だよ。クラウディア嬢は話せるんじゃない?」
!! うっそでしょ!? 無茶振りにもほどがあるんですけど!
「す、少しなら……」
「ディア、いつの間に!?」
え? なに? なんでウィル様ちょっと怒ってるの?
「…………りょ、緑茶を作る際に様々な本を読みまして……その時に」
「なんだ。俺と会う前のことか」
「な、なので、少ししか覚えていませんが」
良かった……ウィル様と会う前に緑茶に手を出しておいて。この際私が何を勉強しているかまで把握していることは、気にしないでおこう。
『前世のこと、どれくらい覚えてる?』
殿下ー! やめてよ。
「クラウディア嬢?」
無理に日本語を話す必要、なかったのでは!?
『……自分自身のことはあまり』
『一緒だ。ねぇ、性別は?』
『女子大生でした』
『年上か~』
ねぇ、もういい? ここに来る前とは別の緊張が走るし。
「ディア。殿下はなんて?」
そりゃあ聞くよね。
「緑茶の話ですよ。私も本で知り、気になっていたので」
ロナルド殿下が代わりに答えてくれたけど、ウィル様は私に聞いたから……
「ディア、そうなの?」
「はい」
確認するだろうなって思ったよ。
「兄上は緑茶好きでしたね」
……胃がいたいわ。もう早く開放されたい。
「今回離宮に呼んだのは、クラウディア嬢にお願いがあるからなんです」
「お願い、ですか?」
まさか私に振られると思わず、ビクッとしてしまった。
「発展させたい穀物がありまして」
!!! 穀物? それってもしかして!?
「米という名です。聞いたことは?」
やっぱり! お米~! 待ちに待ったお米~!!
「何かの本で見たことがあります。実は気になっていました」
テンションが上がりそうなのを必死に耐え、平常心平常心と唱えながら一応どんなものか確認する。そしてロナルド殿下の説明で、前世のそれと同じものだと確信できた。
炊くという発想がなく、現状は米粉としてしか使っておらず結構な量を廃棄しているそう。
勿体ない!
『別に小麦粉でよくない? ってやつよ』
『地味にショックです』
『だよね』
ついうっかりスムーズに日本語で会話してしまったため、もちろんウィル様に何を話していたのか聞かれた。なので東方の国にも米があるかな? と聞かれたので、あるかもしれませんね。と答えましたって言っておいた。
これ以上ウィル様に嘘を付きたくないから、ちょいちょい日本語を挟み込まないでほしい。
「米があるのはアークライトとの国境にある辺境伯領。そこは醤油の実もたくさんある土地だったんだ。だからその土地ではクラウディア嬢は女神扱いでね」
「め、女神ですか?」
醤油が毒じゃないって分かり感謝してくれているのかな? 正直女神扱いは困るけど、お願いを簡単に聞いてくれそうでラッキーと思うことにしよう。
でも殿下自身が動けばいいのに。と思ったのは私だけじゃなく、ウィル様が質問してくれた。
「私は女神と違って嫌われ者だから」
ロナルド殿下は笑顔でそう答えたけど……私もウィル様も、ついでに第二王子も黙り込んでしまう。




