43.隣国アークブルー王国*1年前
「先程は本当に失礼いたしました」
あれから側妃様も合流し、今は4人で机を囲んでいる。
ふぅ。改めてちゃんと正面から見るとお母様と同年代って分かるのに。ドレスだって10代じゃ着こなせないデザインだし。
ウィル様は私が来るまでの間ならと、夫人の相手をしていたそう。夫人も側妃様を待っていたそうで……早とちりで突っ走っちゃダメね。
「甥っ子の浮気相手に間違えられるくらい、私に魅力があるってことでしょう? 褒め言葉よ」
「そう言っていただけて何よりです」
周りの皆が温かい目で見てくるのは、甘んじて受け入れよう。
「それに甥っ子をこんなに好いてくれる相手が婚約者で、安心したのよ」
ね? と側妃様に笑顔を向けられた。
なんか意味深……。
「ふふふ。誰だって夫を共有なんてしたくないわよね」
「っ!!」
側妃様、あなたに『そうですね』なんて返せません。
「クラウディアは優しい子ね」
「いえ」
首を振るしかない。ウィル様助けてー! と隣に座るウィル様の方を向くも、まるで大丈夫だと言わんばかりに繋がれている手を撫でられた。
「少し、昔話をしても良いかしら?」
「はい」
「実は私ね、幼い頃から第一王子の婚約者だったの」
「そ、うなのですか?」
あれ? 陛下って幼い頃から王妃様と婚約していたんじゃなかったっけ?
王国の歴史を学ぶのに、歴代の王や王妃の名前は政策と共に教えられる。もちろんその政策の年代や王位継承年も学ぶけど、2人がいつ婚約し結婚したかなんてことまで学ばない。
私は王妃様の叔父、お祖父様から聞かされていたけど。
「ふふ。隣国の第一王子よ」
「あっ、そうですよね」
側妃様は隣国の公爵令嬢だったわ。
「二人姉妹で姉は公爵家を継ぐ事が決まっていたし、私が王子の婚約者に選ばれたの。年も同じだしね」
どの国も血筋を大事にしていて、婿入りした者が家を乗っ取るなんてことができないよう対策しているのに、なぜか女性が爵位を継ぐのは難しい。夫人は側妃様の義姉ではなく実の姉だったのね。
「私達はね、あなた達みたいにはなれなかったの。仲は悪くなかったのよ? でもお互いに恋愛感情は抱けなくて。私は貴族の結婚ってそういうものだと思っていたし、彼となら家族になれると思っていたわ。でも……彼は違ったの」
側妃様の話は、前世によく読んだ異世界小説のような内容だった。
2人で協力し国を盛り上げていこうと約束していたのに、学園に入学し2年に進級した時、とある子爵庶子の編入で状況が変わった。
平民として生活していたその令嬢は他の令嬢と毛色が違い、数々の貴族令息を虜にし……当時の第一王子も虜にした。
その令嬢はいつの日か王子との結婚を夢見るようになり、王子の婚約者——側妃様を蹴落とすことを考え出したそう。しかもちょっと調べるだけで冤罪だと分かるのに、恋に盲目になってしまった王子は子爵令嬢の話を信じてしまう。
でも小説のような断罪劇になることなく、婚約はスムーズに解消された。
瑕疵がついたにも関わらず側妃様の元には釣り書が多く届き、何とその中に子爵令嬢の想い人もいたそうで。
ん? 王子は?
「彼女、ただ王妃になりたかっただけみたい」
まさかの地位目当て!
「それで逆上した彼女に毒を盛られちゃったの」
うふふって側妃様は笑っているけど、それ笑い事じゃないよね? ウィル様もここまで詳細に知らなかったのか、繋いでいる手にぎゅっと力を入れられた。
「国内は危険だろうって3年に上がる直前、この国に留学することにしたのよ」
子爵令嬢は留学先にまで刺客を送ってくる異常さで、そんな事情を知ったお母様が王妃様に相談するよう勧めたんだって。
まさかこのタイミングでお母様が出てくるとは。
それで国に帰らない方が良いんじゃないって話でまとまり、王妃様の勧めで側妃になったそう。
「クラウディア。私のために怒ってくれてありがとう」
「許せないです」
「そうね。でももう過去のことよ」
ずっと黙っているウィル様も、話が進むにつれて怒りが増えていってる。だって握られている手がちょっと痛いから。
「今回私は妹に、もう王兄殿下を許してあげてとお願いしに来たの」
「伯母上。私は許せません」
「ウィル様……」
私も許せないよ。
「お姉様? 私はもう許している……そもそも最初から怒ってなんかないのよ?」
本当に怒っていないのが分かる表情の側妃様。
「むしろ幼馴染が、初恋相手に地位しか見られていなかったことに同情してたくらい。なんなら感謝しているの」
「母様!?」
「だってあなたに出会わせてくれたんですもの。ウィルハルト、あなたは私の宝物なのよ?」
「母様……」
幸せそうな顔をしている側妃様に、私もウィル様も皆の怒りがすっと消えていった。
子爵令嬢の異常な行動に第一王子もようやく目が冷めて、王位継承権を放棄。隣国王兄殿下って国外でも評価されているのに、王にならなかったのは結婚する気がないからかなってくらいにしか考えてなかったわ。隣国の話なだけに。
「その後子爵令嬢は?」
側妃様姉妹に揃って黙って首を振られた。
まぁ、そうだよね。賢王になるかもしれなかった人の人生を壊したんだもの。
陛下や王妃様、側妃様の誰と誰が想い合っていたのかとか、側妃様がどれくらい危険な状況だったのかとかその辺の詳しいことは教えてもらえなかったけど、陛下が二股野郎じゃないって事だけ何度も強く言われてしまった。
「だからってわけじゃないけど、今後は陛下とも仲良くしてあげてね?」
「は、はい」
ナタリー様やサブリナに比べて、私は必要最低限しか陛下と関わっていないものね。
「えっ! ディアが父上にだけよそよそしいのって、そういう理由?」
「?? そうですよ? ウィル様、ご存知なかったのですか?」
「うん。でもよくよく考えたらそうだよね。ディアはずっと浮気はダメって言ってたんだし」
「そうですよ。ずっと上手く隠せていたと思って……」
はっ!! 私、不敬罪発言してたわ。陛下に対して。
「陛下は二股野郎じゃないわよ。ふふふ」
「なっ! ぜそれを……」
「あなた達が思っている以上に、仲良しなのよ? 私達」
お母様~~!!




