42.5人目の攻略対象者
「まさか4人も狙われているとは思いませんでしたね」
ため息を吐きながらそう仰ったデイビット様。
ウィル様の側近であるキース様、デイビット様、ジェームズ様と侍従のノエル、私とウィル様が執務室に集まり今後のローズ対策について話し合うことになった。
5人目は心配不要だけど、一応伝えておこうかしら。
「もう1人います」
「ディア!? 俺、聞いてないよ」
「ごめんなさい。でもロナルド殿下なんです」
定番よね~なんて呑気にしていたけど……あら? 皆、固まっちゃってるわ。
わぁ~! ノエルったら驚きのあまり手に持っていた書類を落としてるじゃない。拾うの手伝ってあげようっと。
誰ひとり動かずに固まったまま『えっ!?』とか『嘘だろ』とか言ってるし、ウィル様なんて頭を抱えていらっしゃる。
あれ? もしかして私が驚かなさすぎ?
「心配しなくても大丈夫かなと思うのですが……」
ロナルド殿下っていうのは隣国の第一王子なの。
「確かに心配不要だが、一応連絡はしておく」
「知りたくなかったと言われそうです」
「それでもね」
でも本当に心配する必要ないのよ?
それはなぜか。
ロナルド殿下は王立学園の生徒じゃないから。頭に『アークライトの』が付くけどね。だからローズが接触する可能性はゼロに等しいし、知らぬが仏って言う言葉もあるのになぁ。
それに……。
あっ! そうだ、出会いイベント!
「消去法ですが、市場で待っていた相手はロナルド殿下かもしれませんね」
「うん。俺もディアと同意見だ」
これは私の勘でしかないけど、王子がお忍びで王都の市場を回っている時にヒロインと出会うんだと思うのよ。
例えば——物を買う時はその場でお金を払わなきゃいけないことを知らず、困っているところにヒロインが助けてくれるとか、ヒロインってだけあって可愛いし複数の男性に絡まれているヒロインを王子が助けるとか、同じ商品に同じタイミングで手を伸ばすとか……まぁ色々考えつくよね。
で、他同様なぜか仲良くなり悩みを相談する流れになるってところじゃない?
「そういえば以前、父親との関係を修復するにはどうすればいいかと相談されたことがあります」
「そうなの?」
「はい」
ローズはノエルを令嬢だと思っていること、その相談では令息の名前は一切出なかったため、ローズ自身が父親と揉めていての相談だと思ったそう。
「でも今考えると……」
「うん。最後まで言わなくて大丈夫よ」
隣国王子が父親——隣国国王と揉めているとローズは言いたかったのでは? なんて迂闊に言えないもの。 皆もそれに気が付き、今度は全員頭を抱えちゃった。
今回は私も同じ気持ちよ。でもそのおかげで? 攻略の鍵は父親との関係修復だと推測できたわ。
✽.。.:*・1年前・*:.。.✽
「え、誰……?」
もうすぐ15歳になるウィル様は王子宮を与えられる。
今もほぼ私専用になっている部屋が側妃宮の中にあるけど、ウィル様の王子宮には正式に私の部屋も作ってもらえるの。だから最近は家具とか小物類とか色々と準備していて。
王子妃教育の後、いつも通りウィル様とのお茶会のために側妃宮に来ると知らない令嬢がいた。
「浮気?」
は? 私、ウィル様に言ったよね? 夫を共有したくないって。第二夫人を迎える予定があるなら私との婚約はなしにしてくれって。
「見た?」
「…………」
「ポーラ。今の、見たわよね?」
「お顔は見えませんでした」
「でも見たのよね?」
「……はい」
ムカつく~! 悪いけど私、泣き寝入りするタイプじゃないのよ。
「行くわよ。ポーラ」
「クラウディア様!?」
乗り込んでやるっ!
ウィル様と浮気女が入っていった応接室に、駆け足で向かう。
バンッ!
そして思いっきりドアを開け、部屋の中を睨みつける。
令嬢なのにはしたないって? そんな事知らないわよ。
「ウィル様!!」
「えっ、ディア!?」
「これは一体どういうことですか!」
ふーん。隣じゃなく、向かい合って座っているのね。
ドアに背を向けて座っている令嬢の後頭部を睨みつけ……そのままウィル様に目を向ける。
「王子妃教育は?」
慌てて私の元にやってきたウィル様。
「もう終わりましたけど!?」
確かに時間より早く終わったわよ? だからって浮気するなんて。
「ウィル様のバカ!! 約束したのに! 最低ですっ」
ウィル様の胸をドンッドンッと両手で叩きつける。
不敬罪? いいわよ。不敬罪で。
……泣きそう。
涙なんて絶対に見せないんだから! と下を向くも叩く手は止めない。
「ディ、ディア。落ち着いて」
「これが落ち着いていられますか!!」
しまった。睨みつけようと、涙目なのに顔を上げてしまった。
「ディアの勘違いだから」
「言い訳は聞きたくありません」
浮気した男ってみんなそう言うのよ。経験ないけどさ!!
「ふんっ」
私が逃げ出さないように叩いていた手を取られてしまったから、思いっきり顔をそむけて全身で怒りを現す。
「あははは~!」
いつの間にか近くに立っていた浮気女。
なにがおかしいのよ。浮気女に笑われる筋合いないんですけど。
って……あら? 思っていたより年上……?
「ぷっ。ご、ごめんなさい。悪気はないのよ」
うぅ……『あなた誰よ!』って言いたいのに。浮気女って怒りをぶつけたいのに!! 決定的な現場を押さえたわけじゃないから、逃げ道を作れる状況だから何も言えないじゃない!
浮気女に何もできないから、涙目だけどウィル様を睨みつける。
「ふふ。初めまして」
そんな私を無視して自己紹介を始めてきたし。
「私は——」
「…………え」
嘘でしょ!?
「ね? ディアの勘違いでしょ」
「す、すいませんでした」
早とちりで乗り込んでしまったことが申し訳なく、また感情的になりすぎたことも恥ずかしく……やばい。顔が熱くなってきた。
「ふふ。浮気相手に間違えられるなんて、むしろ感謝したいくらいよ」
まさかまさかの隣国、アークブルー王国の公爵夫人——ウィル様の伯母様だったなんて。




