・閑話・キース様 sideバーバラ 前編
バーバラ:キースと同い年の婚約者 女騎士を目指している実力者
「これを」
「何でしょうか?」
定例のお茶会が終わり、さぁ帰ろうと馬車に乗ろうとしたら小さな箱を手渡された。
「たまたま見つけたんだ」
「……ありがとうございます」
見つけた? 私、何か頼んでいましたっけ?
疑問に思いながらも家に帰り、自室で渡された物を確認してみると——中に入っていたのは髪飾り。
「私には似合わないわ」
そうね、クラウディア様には似合いそう。きっと本当は……なんて考えるのはやめておきましょ。
婚約者であるキース様。彼と婚約したのは私達が7歳の頃です。私、婚約当初はキース様が大嫌いでした。理由は騎士になるための訓練を怠っていると思っていたから。
今は言うまでもなく私の方が強いですが、出会った当初も私より弱かったキース様。短い時間しか剣の稽古ができない私よりも弱いなんてと、幼い私が勘違いしてもおかしくないと思うの。
ですから私達の関係はとても良いとは言えないもので。もちろん今は違いますよ? それもこれも全てクラウディア様のおかげです。
ふふ。私、クラウディア様の事が大好きなの。だからクラウディア様の専属騎士になれるよう、日々努力しているのよ。
本当に努力していて……なのに最近、私はクラウディア様を羨ましいって思ってしまうの。
先程のように、キース様がクラウディア様に思いを馳せている時ですとか、クラウディア様とウィルハルト殿下が仲睦まじくされている時とか。
一体この気持ちはどこからくるのでしょうか。
はぁ。明日はメープル伯爵邸にお呼ばれしていますし、クラウディア様に相談してみようかしら?
なんでも相談していいと、以前仰ってくれましたしね。
*
メープル伯爵邸に着くと、女騎士を目指す者の憧れであるポーラ様も一緒に迎えてくださった。
「ふふ。バーバラって本当にポーラが好きよね」
「はいっ。憧れです」
「ポーラってそんなに強いの? いや強いのは知ってたけど、学園に入ってからポーラに会いたいって言う人が多くて『そんなに!?』って驚いたのよね」
それはもちろん。
ポーラ様は侍女として既に働きながら鍛えた方。にも関わらず物凄くお強いんですよ? 憧れない者なんていません。
「そ、そうなのね。ポーラ……転職したかったら遠慮せずに言ってね」
「その予定はございませんので」
ちょっと熱く語り過ぎてしまったわ。
「ふふ。滅多に顔色を変えないポーラを赤くさせるなんてバーバラ凄いわね」
「事実を述べたまでですわ」
大好きなお二人とお話しながらサロンへと到着し、中に入るとふわっと香る甘い匂い。
「全部甘さ控えめのスイーツよ」
「いつもありがとうございます」
甘い物を食べすぎると動きが鈍くなると一度お話してから、毎回私用にと甘さ控えめの物を用意してくださる。
「あっ! バーバラまた敬語だ。敬語は無しねって何度もお願いしてるのに」
「ですがいずれ王族となられますし」
「ウィル様と結婚した後だって敬語じゃなくていいのよ。だってお友達でしょ……お友達、だよね?」
不安そうに聞いてこられる姿、なんて可愛らしいの。殿下がいたらきっと抱きしめられているわね。
「もちろんです」
「ふぅ、良かった~」
私にもこの可愛らしさがあれば……キース様に抱きしめてもらえるのでしょうか。
「あっ、今キース様の事を考えていたでしょ?」
「っ!!」
なぜ分かったのですか!? 私、感情を隠すのは上手い方だと自負しておりましたのに。
「え? 本当に? 当てちゃった」
適当に仰られていたのね。ですがせっかくキース様の名前が出たことですし……。ずっともやもやと悩み続けるのも失礼なので、騎士らしく潔く相談させてもらうことにしましょう。
「実は私——」
昨日のキース様とのやり取りやクラウディア様を羨ましく思っていることも、悩みましたがお話させてもらいました。
「キース様が私を好きってことはないわ」
「いえ。きっとお好きだと思います」
「それってキース様から聞いたの?」
「違いますが……」
でも見ていれば分かりますし、クラウディア様を好きになる気持ちも分かりますもの。
「そうだバーバラ! 髪と化粧はお任せにしている? こうしてって指示しているの?」
「化粧は薄くするように言っています」
髪もまとめていないと剣を振るのに邪魔ですし、化粧も汗で落ちてしまいますからね。
「騎士だものね。でも! 1日だけでいいから侍女に任せるわって言ってみて」
「髪と化粧をですか?」
「そうよ」
お任せにすると可愛らしい色合いにされてしまうの……私らしくなくって恥ずかしいわ。
「キース様を驚かせましょう! もちろん髪飾りも付けてね?」
「わっ、私には似合いませんので……」
「そんな事ない。だってキース様が選んでくれたものでしょう? 絶対にバーバラに似合うと思うわ」
「ですが」
「大丈夫よ。私を信じて! 約束ね!」
どうしようかと悩んでいたら、目があったポーラ様にも力強く頷かれてしまい、勇気を出すことにしました。




