31.チョコレート*3年前
「美味しい!」
「これはブラウニーって名付けました」
「ブラウニー?」
「はい。ブラウニーって感じがしたので」
うちの料理人達と、お祖父様から貰ったチョコレートを使って焼き菓子を1つずつ再現していくつもりなの。その第一弾がこのブラウニー。
完成まで大変だったなぁ……砂糖が足りなくて。なんせカカオ100%ですから。前より手に入りやすくなったとはいえ、希望通りの味にするのに必要な砂糖を使うことが出来なかった。
チョコさえあれば簡単に再現できると思っていたんだけどな。ビターすぎるブラウニーを美味しく食べられるよう改良に改良を重ね、ようやくできたの。
「混ぜてある果物、いつも食べるものより硬いね」
「実は乾燥させた果物なんです」
そう、私、ドライフルーツも作りました。ちなみに干し果物として今後販売予定。
「ディアも一緒に食べよう」
「はいっ」
テーブルの上にはホットチョコにチョコブラウニー。そして深皿にも溶かしたチョコが用意されている。
よしっ! ホットチョコに入れたいから、今度マシュマロを作ってこよう。
「チョコレートづくしですね」
「そうだ! ディア、はい」
「?? いちご……?」
フォークに刺したいちごをウィル様に手渡され、首を掲げてしまう。果物は口直しというか、チョコに飽きた時用なのかなって思っていたけど……?
「ふふ。あのね、いちごにチョコレートをかけてみて」
「っ!!」
盲点だった!
早速いちごにチョコレートをかける。
「ん~! おいひい」
「でしょ」
私ったら、どうして忘れていられたのよ。ドライフルーツは思い出せたのに。
「ウィル様っ、バナナにも合うはずです」
「んふふ~」
「あっ! その反応、ウィル様はもう試したんですね」
「うん。ごめんね?」
全く悪いと思っていない、ニコニコと謝るウィル様。全く怒ってないからいいんだけどね。
前に、にっがーいチョコレートを食べちゃったし、そのままチョコが嫌いにならず、好きになってもらえてむしろ嬉しいくらい。
「他にはどれがお勧めですか?」
「実はね、シュークリームにかけても美味しかったよ」
「っ!! それはっ」
エクレアではないか!
「食べてみたいです」
「次回用意しておくね」
「はいっ!」
*
「ディア、そろそろ移動しようか」
「はい!」
チョコレートを一通り楽しんだところで、本日のメインイベント。カカオを城へと持ち込み、チョコレート製作をスタートさせるのだ。
側妃宮ではなく城で行うのは、最終的に逆輸出できるようにしたいから。現状カカオの原産国との貿易がなく、色々と大人の事情が絡んできたの。その辺私は外交官になるわけでも、王太子妃になるわけでもないからノータッチ。
あっ、王太子はクリスハルト殿下になる予定よ。まだ正式には発表されてないけど、これでも一応王子妃になるから、先に知ってるの。
「わぁ。たくさん持ってきたね」
「はい! 全部持ってきました」
「全部!?」
地下の貯蔵庫だって王城の方が広いし、分けて持ってくる意味ないしね。
それに新しい食材って料理人なら気になるでしょ? 私達が帰った後も作業を進めてくれていいって伝えたら、どんどんやってくれそうじゃん。正直チョコレートにする工程、大変そうだし。
「準備万端ですね」
「本当だ」
王城の調理場の裏に到着すると、料理人達が勢揃いしていた。ふふ、予想通りみんなカカオに興味津々みたい。
ウィル様が工程を説明すると、我先にと率先して作業を進めてくれる。
「殿下、クラウディア様。ここは危険ですので、後は我々にお任せください」
「「あっ、はい」」
確かに固いカカオを割る工程は危険よね。包丁すら危険だと、触らせてもらえないくらいだし。
「ウィル様、この工程まではお任せすることにしましょう」
「そ、そうだね」
私が望んでいるチョコレートはもちろん、同時に今はまだないホワイトチョコレートにココア、カカオ茶も作ろうと思っているから、その工程から参加しよう。
「そうだ。兄上とラインにもカカオを分けてもいい?」
「もちろんです。せっかくなのでお届けにいきましょう」
やることもなくなっちゃったしね。
数個ずつカカオを手に持ち、王妃宮へと向かう。
「あの人……」
馬車を降りてすぐ、足を止めたウィル様。
「どうかされました?」
「勘違いだといいんだけど……あそこにいる使用人、なんだか怪しい気がして」
ウィル様の視線の先を追うと、私達とそう変わらない年齢の少年がいた。
「確かに、少し若すぎる気がしますね」
「そうだよね」
王城、王宮で働く使用人のほとんどが王立学園の卒業生。もちろん料理人や庭師とか、卒業生じゃない使用人もいるけど、その場合は実績が必要。だから同年代が働いているはずがない。
「ディア、ディアは一旦馬車に戻って」
「嫌です」
「お願い」
「ウィル様も一緒なら戻ります」
私を危ない目に合わせたくないんだろうけど、それは私だって同じなんだからね。
「僕はあの使用人の様子をもう少し確認したいんだ」
「ご一緒します」
「危険人物かもしれないんだよ」
「尚の事です」
ウィル様に付いて一緒に物陰に隠れる。
年齢以外に怪しいところはなさそう。でもどうにか用意したであろう制服が、彼のサイズに合っていない。
「ディア、危険なことはしないでね」
「ウィル様もですよ」
「……ポーラ、頼んだよ」
「承知しております」
言外に余計なことをするなって言われた気がする。心配しなくても、無茶はしないよ?




