30.3人目の攻略対象者
「入学式ではラインが狙われていたのか」
「はい。講堂に向かう途中で転けてしまい、立ち上がる際にラインハルト殿下が手を貸してくれる。そういった夢を見たそうです」
ここまでのことから推測するに、手を貸してもらったことに感謝しお礼の品——恐らくクッキーあたりを殿下に渡す。そしてそれをきっかけに仲良くなる。
きっと間違ってないと思うわ。でも王族が、よく知らない人間から渡された物を食べるなんてあり得ないのに。
毒見されたものなら食べる? そんなわけないじゃん。王族を守るため……というより渡した人間を守るために食べない。だって仮に何かしらの症状が出てしまった場合、その人を容疑者の1人にしてしまうからね。
「そうか。とはいえ普通、刺客と間違えられるような事はしないものだが……」
「あまり深く考えていないのでしょうね」
ヒロインだから何をしても許されると思っているのか、転けたくらいで刺客を疑われるとは思っていなかったか……あるいはそのどちらもか。
「そんな事よりディア?」
「なんでしょうか」
えっ、もしかしなくてもウィル様怒ってる?
なぜ両手を掴むの? 私が逃げ出さないようにするためだって? そう言われると逃げたくなるんだけど。
「なんでしょうか、じゃないよね?」
「えっと……」
本当に思い当たらないんだよ? と首を傾げてみる。
「可愛い顔をしたって誤魔化されないからね」
「そんなつもりはっ」
ん? 今の私可愛いの? それは鏡で確認したい! 次に困った時、使えそうだし。
「ディア」
「はい」
ちょっと思い耽けただけじゃんと口を尖らせると、コラッて額を指先でトンっと叩かれた。
「なぜすぐその場を離れなかったんだ」
「?? ……あっ! それは新しい……ではなくて、ローズさんの大声に驚いて足が動かなかったんです!」
「新情報が得られると思ったんだね」
「大声に驚いたんです」
それは本当だもん。
「はぁ。お願いだから無茶はしないでくれ」
「たまたま見かけて、避けようもなかっ……たんですけど、次からは気をつけます」
「うん。次はないからね」
「はい」
私悪くなくない? そりゃあ大声に慣れてきてからも、最後まで独り言を聞いてから教室に戻ろうと思ったよ?
……あぁ、それが悪いのか。
「分かったみたいだね」
「ごめんなさい。でも一気に解決できるかもって思ったのです」
「もういいよ。おいで、ディア」
ちゃんと反省したら、もう怒ってないよと私を抱きしめてくださった。
後ろからデイビット様の『また始まった』って言葉が聞こえてきたってことは、私達、また甘い雰囲気を醸し出しちゃった?
✽.。.:*・3年前・*:.。.✽
「ウィル様~!」
「ふふ。楽しそうだね」
「はいっ」
数日前から、私はウィル様と一緒にお母様の生家に来ている。要は母方の祖父母の家に、婚約者を連れて遊びに来たのだ。ちなみにお母様の実家も伯爵家で、叔父が現当主。
祖父母は叔父に爵位を譲った後、夫婦で旅行を楽しんでいるの。海外に行くことも少なくなく、今回お土産に珍しい木の実を持ち帰ってくれた。
それがなんとっ! カカオなの~! この世界にもあったのね!
「これがこっちのチョコレート? になるんだ……」
うんうん。初めて見ると不思議に思うよね。目を丸くしているウィル様が可愛い。
「信じられないですよね」
ふふふ~♪ カカオだけでなく、完成されたチョコレートもお土産の中にあったのだ。
残念ながらこの国にはチョコレートがなかった。そもそもカカオがなくて……えぇ、調べましたとも。まぁカカオがあったところで、チョコレートにする工程を知らないんだけどね。
でも他国にはあったなんて……諦めていた分嬉しすぎる~!
ではでは気を取り直しまして。
一口頂いてみようじゃない。色味がビターだと主張しているのが気になるけど……
「苦すぎる」
「うん。僕、チョコレート苦手かも」
なんだコレ!? 土みたい。絶対、カカオ100%だ。
ウィル様と2人『うえぇ』っていう顔をすると、すかさずミルクを差し出された。
ふぅ。生き返るわ。
「わははっ! ディア、これは溶かし、砂糖やミルクと混ぜて飲む物だ」
「えっ!? そのまま食べたりしないのですか?」
「苦すぎるからな」
と大笑いのお祖父様。お祖母様も隣でお上品に笑っている。
なるほどね。砂糖は貴重だしミルクの消費期限も早い。後から自分好みで混ぜて飲む——これが一番理に適っているのね。
「ここにあるカカオもチョコレートも、全部ディアが持って帰っていいぞ」
いいの? これだけあれば色々作れる。
「やったぁ!! お祖父様大好き! ありがとうございますっ」
嬉しさのあまりお祖父様に抱きついた。
「ふふ。あなた、よかったですわね」
「お祖母様も大好きですっ!」
「あらまぁ。お祖母様もディアが大好きですよ」
お祖母様にも抱きつく……とウィル様に『僕も』って引き剥がされ、抱きしめられた。
私のお祖父様とお祖母様だから、ウィル様は抱きつくわけにいかないもんね。ちょっと寂しい思いをさせちゃったのかも。
「カカオからチョコレートにする工程は教えてもらえたのですか?」
「もちろんだ」
よかったぁ。どんだけ買ってきたのよってくらいここにカカオがあるから。
「実はチョコレート以外にも加工できないかと相談を受けてな」
「そうだったんですね」
だから加工方法を教えてくれたってことね。ってことは、その国でもチョコレートは完成したばっかりなのかも。
私に任せてっ! 今は飲み物としてのチョコレートを、スイーツに変化させてあげるから。工程さえ分かればこっちのものよ。
「んふふ~」
チョコレートを逆輸出……これはウィル様の実績が増える予感。




