27.お見舞い*4年前
「ウィル様……」
「うん。僕が一番わかってるから」
絶対リバウンドしたよね!? ダイエットし始めた頃は度々あったリバウンド。最近は体重が落ちる速度が遅くなったとはいえ、リバウンドはしてなかったのに。
「うどんが美味しくてね……」
同意しかないわ。うちもスープの具材として出されるから、毎日食べても飽きがこないのよ。しかもスープの味が違うから余計に、ね。
「でもディアも少し太ったよね?」
「っ!! それはっ、ん゛ん゛っ。ウィル様、いいですか。女性に太った? なんて聞くのはご法度です。例えそれが事実だとしても、言ってはいけません」
左手は腰に、右手は人差し指を立て、絶対にダメだという私の迫力に押されてタジタジなウィル様。でもこればっかりはね。ちゃんと分かっておいてもらわなきゃ。
「ご、ごめんね?」
だって仕方ないじゃない? うどんもだし、甜菜のおかげで今までより砂糖が手に入りやすくなったんだから。
「むぅ。。」
「ディ、ディア! ディアは細いから今くらいがちょうどいいっていうか、ほら。僕が太っているからちょっと太ったくらいじゃ目立たないし、それに僕以外は気付かないくらいだしっ、それにそのっ」
「ウィル様……」
全くフォローになってないし、それに、一番気付かれたくない相手がウィル様なんだよ?
「なに?」
「もう、大丈夫です」
「そう?」
絶対に痩せてやる!
「そろそろ着きますね」
「デイビットにも会えるといいけど……」
実は今、私はウィル様とナタリー様の公爵家に向かっている。
デイビットというのはナタリー様の弟で私達と同い年の公爵令息。お兄様から許可をもらい、公爵夫人のためにすいとんスープを準備してきたのだ。
デイビット様も側近候補なのだけど最近は体調が良くなくてお休み中。だからメインは公爵夫人だけど、私達はデイビット様のお見舞いと称してお邪魔することになっている。
「本日はようこそおいでくださいました」
出迎えてくれたのはナタリー様のみ。あっ、使用人はノーカウントね。デイビット様も在宅中だけど起き上がる元気がないみたい。
まずは持ってきたすいとんスープを執事に手渡し、私達はサロンに案内された。
「——ウィル様——」
「——うん——」
小声でウィル様と確認し合う。やっぱりおかしい。
「どうかされました?」
「ナタリー様。実は本日、私のオススメの茶葉をお持ちしたのです。ぜひお試しいただきたく」
「まぁ! そうでしたの」
念の為にと持ってきておいてよかったわ。緑茶だからお口に合うか分からないけど。
「お湯と新しいカップを持ってきてくださる?」
紅茶を淹れてくれたメイドに声をかけると、一瞬見せた嫌そうな顔。今の、見逃さなかったからね?
緑茶はコツが必要だからと淹れるのをポーラに任せ、ナタリー様に頼んで公爵家の使用人は全員部屋から出てもらった。
「ナタリー嬢。恐らく君の紅茶には毒が含まれていた」
「っ!! なぜ、そう思われたのでしょうか」
サロンに入ってすぐ提供された紅茶。同じ人が同じポットから注いだはずなのに、ナタリー様の分だけ淹れ方が違っていたの。随分と練習したのだろう。よくよく注意してみていないと分からないレベルだった。
「ですがそれだけで毒だなんて……」
困惑顔のナタリー様。そうだよね。さっきのメイドがどれくらい公爵家で働いているのか知らないけど、使用人に裏切られているかもしれないなんて信じたくないよね。
でも今回ここに来る前に私達は毒について再度勉強し直したの。その中にはカップに塗った毒を、かき混ぜる代わりに溶かしながら淹れる方法があった。さっきのはまさにそれだったから。
「これでも公爵家の人間です。ある程度毒の知識は持っていますし、耐性だって……」
「ナタリー様」
確かに私達は最初から疑って見ていたよ? 勘違いであってほしいと思ったけど、メイドの態度で確信しちゃったんだ。
「あのメイドは……侍女頭の紹介で……毒、なんて、そんな……」
「侍女頭は今どこにいるんだ?」
「母の、母の……」
「お側にいらっしゃるのですね」
「……はい」
デイビット様の侍従は侍女頭の弟だそう。これは……確定、じゃないだろうか。
早々に話を切り上げ、出来上がったすいとんスープを持って公爵夫人のもとへはナタリー様が、私達はデイビット様の部屋に案内してもらう。
「大丈夫か?」
「え……でんか?」
ウィル様に気が付き、起き上がろうとされるデイビット様。良かった……思っていたよりは元気そう。
「そのままでいい」
今回もまた公爵家の使用人は部屋から出てもらい、体調が悪くなり始めた時の状況をウィル様が確認する。その内容は、少しずつ毒を盛られていたと推測できるものだった。
本当は今すぐ公爵邸から出て治療に専念してもらいたい。でもそこまで私達が口を挟めないから、後は公爵に任せ、私達は2人が回復することを祈るしかない。




