25.謎の実*4年前
✽.。.:*・4年前・*:.。.✽
「くるみ、ですか?」
恒例のウィル様とのお茶会。手渡されたのは何かの……実?
「似ているよね。でも違うんだ」
コンコンと爪で叩いてみると硬く、匂いも無臭なそれ。
「どこで手に入れられたのですか?」
「隣国から戻ってきた兄上から頂いたんだ」
「確かクリスハルト殿下は視察に行かれてましたね。お土産でしたか」
「そんな感じ。これね、割ってみると黒い液体が出てくるんだよ」
えぇ……なにそれ。大丈夫? 毒とか入ってない?
「ふふ。安全なものだよ」
ついつい怪訝な顔をしてしまった。
毒性のない黒い液体……うーん、墨汁しか出てこないわ。
「一応飲み物なんだ。とても飲めたものじゃないけどね」
そう首をすくめたウィル様。
「美味しくないのですか?」
「というより、これを飲むと余計に喉が渇いてしまうんだ」
飲み物ってことはコーヒーとか? 豆からではなく液体で……いや、コーヒーなら余計に喉が乾くってことはないか。
「気になる?」
「はい」
「飲んでみる?」
「…………はい」
「無理しなくていいからね」
毒はないみたいだし。ウィル様も飲んでみたらしいし。大丈夫、だよね?
「はい。これだよ」
まずは匂いを……ん? これ、醤油じゃない? スプーンでほんの少しすくって舐めてみると……
「これは!!」
やっぱり醤油だわ!! うん、確かに黒い液体ね。
「どう?」
「これって少し分けていただくことは可能ですか?」
「ごめんね。それは出来ないんだ」
「そう、ですよね」
我が国と隣国の間にある森。
今回、その森をクリスハルト殿下と隣国の王子が共同で調査するため、殿下は隣国へと向かわれていた。その調査中に見つけたのがこの醤油の実だったそう。
それを互いに数個持ち帰り、共同研究しようってなったみたい。
実は……ウィル様が甜菜の活用法を見出したでしょ? それがあったから、この木の実も活用法があるんじゃないかって話になったそう。まっ、甜菜から砂糖っていう詳細はまだ内緒らしいけどね。
「さすがウィル様です」
「気付いたのはディアだし、砂糖を作り出したのはキースだよ」
「ふふ。ありがとうございます」
砂糖ができるかもっていう私の発言の確実性を高めるために、ウィル様は調査してくれていた。政策として動くための計画書を作成したのも、人を動かしたのもウィル様なのに謙遜しちゃって。
「ディア? ディアはなんでこの実を分けてほしくなったの? もしかして活用法を思いついた?」
「そうなんです! 料理に使えそうな気がしました」
この際、ウィル様経由で王宮料理人に頑張ってもらおう。
「えぇ、そう?」
「ふふふ。はい」
そりゃあ大量に飲んでしまったらそうなるよね。醤油は一気に飲むものじゃないし。
「私、舐める程度にしか味を確かめなかったので、卵に混ぜて焼いたら美味しい気がしたのです」
「うーん」
「もちろん入れ過ぎ注意です」
「……分かった。ディアがそう言うなら試してみるよ」
「楽しみにしてますね!」
とっさに思いついた卵焼き。きっと出来上がった卵焼きはオムレツの形だろうけど。楽しみすぎる。
お米同様に手に入れたかった醤油。味噌とか和風出汁に必要な食材とかまだまだ欲しいものはたくさんあるけれど、醤油と味噌は諦めていた。
麹菌だっけ? 確か醤油を作る人は、納豆を食べちゃダメって言われるくらい菌が重要だったはず。そんな繊細な醤油を私が作れるわけないでしょ。そもそも作り方知らないし。
でもまさかこの世界の醤油が木の実だったとは。
すっごく嬉しい! 探せば味噌の実もあるんじゃない? ちょっとそれは都合良すぎ?
*
*
*
「ディア!」
「ウィル様!? そんなに慌ててどうされたのですか?」
メープル伯爵家のタウンハウスの庭。我が家に来てくださるウィル様を歓迎するため、私はサロンに飾る花をポーラと選んでいた。
「お出迎えできず申し訳ありません」
「ううん。僕が早くつきすぎちゃったから」
それはまぁ……そうだね。
ウィル様のことはお兄様にお任せし、私は急いで着替えに戻った。
「お待たせいたしました」
最速で身なりを整えてサロンへ入ると、ほのかに香る懐かしい匂い。
オムレツ形の卵焼きだ。
「ディアの言った通りだったよ」
「っ!! 出来立てですか?」
なぜ?
「うん。出来立てを食べてほしくて、伯爵家の料理人に作ってもらったんだ」
「醤油、持ち出して良かったのですか?」
「しょうゆ? この木の実のこと? 今回は兄上が特別に許可してくださったんだ。卵に混ぜるっていうのはディアのアイデアだからね」
しまった……また命名してしまった。昔ショートケーキを作ってもらった時も命名しちゃったんだよね。
「しょうゆって名前なの?」
「くるみに似た木の実があること、それが醤油という名だと本で確認したのです。その……前回醤油の実を味見させていただいてから気になって少々調べたのです」
「ディアらしいね。兄上にも報告しようと思うんだけど、本の名前は覚えてる?」
私らしいとは? 食い意地が張っているってこと? ……否定できないわ。
「手当たり次第読んでいたので、どの本か分かり次第報告します」
「うん、お願いね」
既に名前が付いているかもしれないし、後で植物図鑑を確認しておこう。その場合は他の植物だったのかもと誤魔化すしかない。




