18.ヒロインと遭遇
気分は3人組の男爵令嬢。
ドレスやストールで女性……? レベルに変装できたことに満足し、気になっていたカフェでウィル様の隣りに座り、話しながらメニューを眺めていたら……。
「ノエル!?」
って後ろから声を掛けられたの。
誰だろうと振り向いた先にいたのは、まさかのヒロイン。
「し、知り合い?」
「いえ。違います」
だよね。今までそんな素振りなかったもんね。
「でも名前……」
知り合いじゃないのに名前を知っているってことは、ノエルは攻略対象者?
待って。
ウィル様もノエルも、知り合いですら本人だと分からないほど、完璧な詐欺メイク。分かるはずがないわ。
今だってノエルは不信感のこもった目をヒロインに向けているし。
「えぇっと……私が勝手に知ってるっていうか? でも驚いた。まさか女の子だとは思わなかったわ。そりゃあいくら探しても見つからないわよね」
「どこで私の名前を?」
「さっきこの子がノエルって呼んでいるのが聞こえて」
そう私を指差すヒロイン。人に指を指しちゃいけませんって習わなかった? 確か前世でもダメだったはずよ。
「私あそこに座ってたの。注文まだよね? 私もここに座って良い? ていうか座るわね。私、ノエルと友達になりたいの。あっ、そっちの2人とも友達になってあげるから安心して」
めっちゃ上からな発言。しかも許可してないのに勝手に座るし。
「私の名前はローズ・フラワー。ローズでいいわ。男爵令嬢だけど、気にせず普通に喋ってね」
それ、こっちのセリフね。
「あっ、でもノエルって子爵家だっけ? 敬語の方が良い?」
「いえ……」
「そう? じゃあ普通に喋るね。そっちの2人は?」
「…………」
「もしかして平民? そのドレスはノエルに借りたの? ノエルの友達よね? もしかして使用人?」
グイグイ来るわね。
「友達です」
「そういば名前は?」
「クラ、リッサ……クラリッサよ」
あっぶなかった。ヒロインの勢いがすごすぎて、危うく本名を言いそうだった。
「あなたは?」
「彼女はポーラ。すごく人見知りなの」
「あっそ」
私が答えた理由は、ウィル様の機嫌があまりよろしくないから。なんとなく、低い声が出そうな気がして。
それよりポーラの名前を勝手に借りちゃってごめんなさい。とっさに思いつかなかったの。
「家名なしってことはやっぱり平民なんだ。私、身分とか気にしないタイプだから堅苦しくしないでね」
「……ご友人は放っておいていいの?」
先程までこの人と一緒にいた人が、こちらのテーブルを見てはオロオロとしている。
気分は男爵令嬢。要するに平民に見える装いじゃない。見た目通り下位貴族と思うか、上位貴族がそう見せていると思うか。彼は後者なのだろう。
「いいのいいの。間違いだったから」
「間違い?」
「あの人もノエルって名前だから勘違いしちゃって。王立学園で同級生の男爵令息よ。子爵じゃないし、全く役に立たないからおかしいって思ってたのよね」
散々な言われよう……。
「役に立つとは?」
「クラリッサ。あなたさっきから質問ばっかりで失礼ね。私達初対面なのよ?」
えっ、それあなたが言う? まず誰も平民だって言ってないよね?
今はまだ驚きだけで済んでいるけど……苦手なタイプかもしれない。
「すいません」
「気をつけてね」
私が言うのも変だけど、身分を気にしないタイプじゃなかったの?
「それで、なぜ私の名前を? 勝手に知ってるとは? 女の子だとは思わなかったとも言っていましたが、どういう意味でしょうか」
そうね。この人マシンガントークだし、一気に聞いたほうが効率いいかも。
「名前は、クラリッサが呼んでたからって言ったでしょ」
「いえ。なぜ私がノエルだと知っていたのか、と聞いています」
「うーん。何ていうか……知ってたからよ。えっと……あなたの……そう、絵よ。絵を見たことがあって。それで知ってたの」
言い訳が苦しすぎる。
「その絵が男の子みたいに描かれていたから、性別を勘違いしたの」
「絵、ですか」
王族や公・侯爵ならまだしも、子爵子息・息女の絵が一般に売り出されるなんてあまりないわよ?
「でも実物と全然違うから驚いたわ」
「……そうでしたか」
うん。ノエルもそういう反応になっちゃうよね。
「それでなぜノエルなのでしょう?」
「なんでクラリッサに言わなきゃいけないのよ」
「それは……ノエルが、気になってそうなので」
瞬時にアイコンタクトを送る。伝わったようで頷いてくれたノエル。
「なら話すわ。夢よ。夢でノエルって名前の子が私を助けてくれるって教えられたの。だからどうしてもノエルに会いたくて」
なるほど、考えたわね。
「なぜ彼女がそのノエルだと思ったのでしょうか?」
「あの人じゃなかったからよ」
答えになってないのですが。
「同い年のノエルは全て確認済み。でも女の子はノーチェックだったわ」
「私、学園の生徒ではなくて……」
「違うの!? じゃああなたも違うわね」
ノエル~!! って仕方ないか。そもそも学園生ではないって設定にしておこうって決めていたし。
私は校内で接触するつもりだったけど、それは絶対に駄目だってウィル様が譲ってくれなくて。
きっと年が同じノエルじゃなきゃだめな気がする。申し訳ないけど、この人の求めているノエルになりきってもらおう。
「本来はノエルも学園に通うはずでしたが事情があって……」
事情がなにかは深く聞かないでね?
「あっ! 没落してるの忘れてた。学費は私のお父様が出すはずだったもんね」
没落? 確かにノエルの実家である子爵家には借金があったけど……。
ノエルの状況とこの人の発言から推測するに、ノエルはお助けキャラだと思うの。
恐らくゲームでは、没落貴族となったノエルがフラワー男爵に拾われ、学園に通わせてもらうのでしょう。
元々子爵令息だったこともゲームで語られていて、ずっとノエルを探していたのかも。それこそ1年半前に記憶が戻った時から。
うん。間違ってないと思う。
もちろん現実では、没落していないけどね。




