11.王族の婚約者
10歳になりました。
あれから食事量を減らしたウィルハルト様は少しずつ痩せていった。今はぽっちゃりって感じかな。
ふふ。『少し痩せましたか?』と尋ねた時のあの喜びようを見た時、口出ししてよかったって思ったのよね。
当たり前だけど、食事量の変更を料理人達は快く受け入れてくれたそう。というか……食後の苦しそうな姿を見て、多いのでは? と前々から気が付いていたみたい。言い出せず心苦しかったのだと。
本当は食事の内容も変えられると良いんだけど……ネットがない中、効果的なメニューも思いつかなくって。
*
*
「私が婚約ですか?」
「そうだ」
お父様の執務室。お父様の隣にはお母様もいて……今朝呼ばれた際に予想した通りの内容だわ。
「お相手は……」
「ウィルハルト殿下だ」
ですよねぇ。
何度もお茶会を開いて交流してきた。我が伯爵家のタウンハウスに招待した時なんかは調理場に忍び込み、異世界転生定番のポテトチップスやフライドポテトを作ろうとして、一緒に怒られたりもした。
平民に見える服を着て市井に行ったことだってある。そういえばあの時……屋台で買った串刺しのお肉を食べ、味が薄いと仰ったウィルハルト様に、塩分の摂取量を減らすように言ったっけ。だって確かに塩味は少なかったけど、お肉自体が美味しかったもの。
順調に距離を縮めた自覚は……ありすぎるほどにある。
それにこれは最初から分かっていたことだし、いつか言われるだろうとも思っていた。
「ちなみに、お父様は賛成なのですか?」
「…………」
「ふふふ」
難しい顔をしているお父様の隣でニコニコ顔のお母様。
「お父様は相手が誰であっても反対なのよ」
なるほど。娘を嫁にやりたくないってやつか。
「ディアはウィルハルト殿下と婚約したいか?」
「それは……」
「正直に言っていいぞ」
「……したくありません」
「そうなのか?」
あらま。お父様ちょっと嬉しそう。
「クラウディアちゃん、あなた殿下と仲が良いじゃない」
反対に驚き顔のお母様。
「その、殿下がというより、王族は遠慮したいです」
「恐れ多いのか?」
「いえ。夫を他の誰かと共有したくないだけです」
「そ、そうか……」
正直に言い過ぎちゃったかな? 歴代の王族がみんな一夫多妻だったわけじゃない。それにウィルハルト様は違うとも思う。思うんだけど……今後もそうとは限らないのと……遺伝してないとは言えないじゃん?
「お父様、お断りできるのですか?」
「無理だ」
じゃあなんで本音を聞いたんだ。
「承知しました」
「いいのか?」
「断れないのですよね?」
「すまない」
まぁ、ウィルハルト様のことは嫌いじゃないしね。
「でも、ウィルハルト殿下なら大丈夫じゃないかしら?」
「お母様?」
「順当に王太子に選ばれるのはクリスハルト殿下でしょうし、そもそもウィルハルト殿下は……ねぇ、あなた」
「そうだな」
ウィルハルト殿下は……の続きは!?
*
*
*
「婚約を受け入れてくれてありがとう。クラウディア」
「こちらこそ、光栄至極にございます」
婚約して初めてのお茶会。エスコートされる姿もどんどんスマートになっちゃった。…………ウィルハルト様のことは、嫌いじゃないのよ。
「あのさ……婚約したし、呼び方を変えたいんだ」
ガセボに着くと、真っ赤な顔でそう言われた。
「呼び方、ですか?」
「ダメかな?」
願いを伝える際、不安そうにされるところは今も変わらないのよね。
「ダメじゃありません。お好きにお呼びください」
「なら、ディアって呼んでも……?」
「もちろんです」
「ディア……」
おぉぅ。私の事をディアと愛称で呼ぶのは家族だけ。特別感が増し、思った以上に照れちゃう。
「僕のことはウィルって」
「はい……ウィル様///」
愛称で呼ぶのも照れる~!
「照れるね///」
「はい///」
決めた! ウィルハルト様がよそ見なんてする暇がないほどに、私に夢中になるよう頑張る!
ん? もしかして……
「——これって恋心なの……?——」
「ディア? 今なんて言ったの? 聞こえなかった」
「ふふふ。秘密です」
恋心なのかどうか。これからゆっくり確認していこう。
その後の私達は、ウィルハルト様の従者から『そろそろお時間です』と言われるまでずっと、バラで飾られたいつものガセボで穏やかな時間……いや、二人してフワフワしたまま過ごした。




