10.昼食をともに
「本当にディアも行くの?」
「はい! さぁお兄様、早く馬車に乗ってくださいませ」
今日は元々お兄様だけが登城予定だった。なんでも殿下方と側近候補の皆様が騎士団で訓練を受けるらしく、訓練後は昼食を一緒にとるみたいなの。
実は私、ラインハルト第三王子殿下と同じだけ動いていると言っていた、ウィルハルト様の言葉が本当かずっと気になっていたのよのね。だって食べる量も動く量も同じで、ここまで体型が違うって気なるでしょ?
だから差し入れをすると言う名目で、私も連れて行ってもらうことにしたの。
「分かったよ……」
*
訓練場でしばらく待っていると他の参加者も集まってきた。公爵令息に侯爵令息に伯爵令息、もちろん王族もいて……すっごいメンバーね。
ウィルハルト様は……少し浮かない顔をされているわ。ここは私が元気づけなくっちゃ。
「っ!! クラウディア!?」
私が近づくと、それに気付いたウィルハルト様が声をかけてくださった。
「来ちゃいました」
「も、もしかして僕に会いに?」
「はい!」
本来の目的以外にも、王宮料理人の作るご飯が楽しみっていうのは秘密ね。
「差し入れをお持ちしました」
「……ありがとう///」
「たくさんありますので、皆様でどうぞ」
差し入れは片手で食べられるよう、ミニキッシュ。サンドイッチにしなかった理由は……
「生クリームを使ってるんです」
生クリームはスイーツ以外にも使えるのだと、お伝えしたかったからよ。
「え!?」
ホイップする前の、もちろん砂糖も入っていない状態の物だと説明する。
「ぜひ、食べてみてくださいね」
「ありがとう」
ウィルハルト様の従者にミニキッシュを手渡し、私は訓練を見学させてもらう。
「あら? あちらでなくていいの?」
「はい」
案内された場所がどう見ても特別室。
…………なぜ?
「まさかっ! ねぇポーラ……私って婚約者候補なのかしら?」
「筆頭かと」
やっぱりそうかぁ! それでこの特別扱いってことね。
「ねぇポーラ?」
「はい」
「私って自分で自分の首を絞めてたり……?」
「してますね」
「ですよねぇ」
王妃様主催のお茶会では二人で過ごし、その後個別でお茶会からの……今回の差し入れ。
何やってるんだ私は。言ってることとやってることが違うじゃない。
「候補……よね。うん。まだ候補!」
「まだって言っちゃってますよ」
「あっ……」
と、とりあえず婚約者の件については後回しにしましょう。
まずは訓練の様子を。と目を向けると……。
「わぁ! カッコいい」
騎士の方々が。
前世ではスーツを着た男性は3割増しでカッコよく見えると言われていた。今世は騎士団の制服がそうよね。
なんて思っていたら、いつの間にか訓練が終わっていた。
もちろん騎士ばかりを目で追っていたわけじゃないよ?
*
「…………」
せっかくだからと王妃様、側妃様も一緒に昼食をとることになったのはいい。でもなぜ私が王族と同じテーブルなんだ……。これって周りから固められているってやつなの?
「クラウディア、無理せず残しなさいね」
「はい。お気遣いありがとうございます、王妃様」
そうそうたる顔ぶれに気が回らなかったけど、出される料理の全てが多すぎる。私、既にもうお腹いっぱいだよ。
「どうやら息子達の食べる量は他の子よりも多いみたいね」
食後、側妃様は『うふふふ』と微笑みながらそう仰っているけど、ウィルハルト様には多いんじゃない? 途中から苦しそうに食べていた気がするもの。
「ふぅ……」
ほらやっぱり。
「ウィルハルト様、大丈夫ですか?」
「うん……いつものことだから」
体質や好みの問題もあるだろうけど、単純に多すぎる食事量、これも太っている理由の一つよね。
「あの、お食事の量が多いのではないですか?」
「うん……実はそうなんだ。でも、残すのはいけないことだから……」
好き嫌いせず、残さず食べましょうってやつね。
「では、最初から出す量を減らしてもらいましょう」
「そんな事言ってもいいのかな……僕だけ二人と違うなんて迷惑かけちゃう」
「いいじゃないですか。迷惑かけちゃえば」
「え?」
きっとここは誰も迷惑なんて思いませんよって言うところなんだろう。でも迷惑というか、面倒だなぁって思う人がいるのは事実だし、そういう問題じゃないから。
「人によって食べる量を調整する。それも料理人の仕事の範疇です。それを迷惑だという者は、給金に見合った仕事ができないと自己申告しているようなものですよ」
レストランってわけじゃないんだし。うちの料理人ですら臨機応変に対応してくれるのよ? 王宮で働く料理人ができないなんて言わせないわ。
「そうなのかな?」
「そうです。なので遠慮せず願い出ましょう」
「うん。分かった」
食事量が改善されて、少しでも痩せて……ウィルハルト様が自信を持ってくれるようになるといいな。