9.ユリの花
少し歩いた先に出てきたのは、バラのトンネル。
「わあぁ!」
赤やピンク、白いバラで飾られている。トンネル内はバラの香りで溢れていて、異空間にいるみたい。
「ここね、お母様のお気に入りなんだ」
「とってもキレイですもんね!」
なんだか自分がお姫様になったような気分になる。プリンセスのドレスを着ているだけに。
「クラ、クラウディアも気に入った?」
「はい! ずっとここにいたいくらいです」
「あのねっ、このトンネルの先にはね……」
私をエスコートしながら、バラ以外にはどんな花が咲いているのか教えてくださるウィルハルト様。必死に説明してくれるその様子が、今日のために頑張って覚えてくれたんだろうことが伺い知れた。
「す、すごい……です」
バラの次は一面が青い花で埋め尽くされているじゃないか。しかも直系の王族のみが持つといわれている青い瞳の色に、限りなく近い色をした花々。
「これは……ユリ、ですか?」
「そうだよ」
ま、まじか!! ユリって今世でも青色はなかったよね?
「王宮にしかない色なんだ」
やっぱりそうですよねっ!
「ほわわわ」
そういえば前回のお茶会、王妃様も側妃様も青い花を髪に飾られていた。ここに咲いているものなのか、国王陛下が用意したのかは分からないけど……凄いものを見てしまった気がする。
「こっちには青以外の花が咲いてるんだ」
そう言われ連れてこられたのは……良かった。こっちは普通の庭園ね。壮観であるはずなのに、さっきの光景がすごすぎて……。
「こちらはユリの花が多いのですね」
「うん。僕、ユリの花が好きで」
ユリの花を愛でながら微笑んでいるウィルハルト様。本当にお好きなのが伝わってくる。
「あのね、その……僕が残念王子って呼ばれているのって……知ってる?」
知ってる。けどここは正直に言うべきなの? 誤魔化すべき?
「えっと……」
「やっぱり知ってるよね」
「あっ、その……」
答えに詰まったせいで気付かれてしまった。
「良いんだ。でもね……嫌なことがあっても、ここに来ると心が落ち着くんだ」
「はい」
ユリの匂いにはリラックス効果があるものね。
「あのっ! 私はそんな風に思ってません! ウィルハルト様と一緒にいるの、楽しいです」
本当だよ? 嘘じゃないってちゃんと伝わって。
「ふふっ。うん! ありがとう。クラウディアには残念王子だなんて思われたくなくって……僕、頑張ったんだ」
えへへと照れているウィルハルト様。かっわいいんですけど! 頭の中の私、めっちゃ悶えてるんですけど~!
「私もユリ、好きです」
というか憧れているというか……。
「そうなの? 女の子はバラが好きなのかと思ってた」
「え?」
「将来バラを贈る際に困らないよう、本数の意味も覚えるようにってお母様にも言われているし……」
「なるほどです」
庭園を見て分かるように、側妃様ってバラがお好きのようだし。きっとそれで女性はバラが好き、に繋がったのだろう。
「バラも好きですよ。でも……将来結婚式を挙げるときには、ユリで作ったブーケを持ちたいんです」
「結婚式?」
「はい!」
前世結婚に夢見ていた私は、結婚の予定もないのに、なんなら相手すらいないのに、ブーケとかウェディングドレスとかSNSでよくチェックしていたのよね。
アレもいいなコレもいいなって目移りしては、やっぱりユリのキャスケードブーケがいいって落ち着いて。ウェディングドレスだってそう。
「こういう形のブーケを持ちたくて」
と手振り身振りでキャスケードブーケの説明をする。
「そうなんだ」
ウィルハルト様はほんの少し考える素振りを見せた後、笑顔を向けてくださった。
そして……
「クラウディア」
いつの間に用意したのか、真っ赤な顔をしたウィルハルト様がユリの花を私に差し出している。
「くださるのですか?」
「うん。クラウディアに贈りたい」
「ふふっ。ありがとうございます」
そっと私の耳の上に飾ってくださって……だからっ、照れるってば。
「ありがとう……ございます///」
「うん///」
この時の私は照れまくっていて『いつかちゃんとしたものを贈れたらいいな』というウィルハルト様の呟きは、耳に入ってこなかった。




