フチュのいない日常
フチュが消えて、もう二ヶ月近く経つ。
ハロウィンが終わったら余韻も何もなしで間髪入れず訪れるクリスマスムード。その波に連れ去られるように、気が付けばもう十二月だ。
校則の範囲内のコートを着て、千歳は今日も登校する。
一人での登校には慣れない。フチュと過ごしたのはたった数ヶ月なのに、なんだか幼馴染を失ったような喪失感に苛まれる。
幼馴染といえば、本当の幼馴染も、千歳は失いかけている。慎一郎とは、あの決別宣言以来一度も話していない。お互いに相手を避けて、目が合うと気まずそうに顔を背ける。
忍足のおかげでお昼はぼっちにならずに済んでいるし、伊集院やオオカミさんたちもよく声をかけてくれる。七瀬は「今日もちーちゃん暗~い!」と茶化してくれるし、鬼塚は毎日のようにお菓子をくれる。みんなの心遣いが温かくて、余計に自分の心の冷たさが際立って感じられる。
席についてチャイムを待ちながら、「そろそろだろうな」と千歳は思った。案の定、LINEが着信した。二木からの、狂気に満ちた恋文がつづられていた。
二木への恐怖心から、千歳は甲斐甲斐しく、しっかりと返信をしてしまう。一度勇気を振り絞って既読スルーを試したこともあったが、鬼電からのクラス訪問というコンボを食らってすっかり心が折れてしまった。
最近では、廊下を歩くときでさえ二木の影に怯えている。トイレで用を足していると背後の個室のドアがギィ……と開いて二木が出てくる、なんてこともあった。
こんなときにフチュか慎一郎がそばにいてくれれば、なんて詮無い想像をすることも少なくない。
時間をやり過ごし、逃げるように下校する。そんな毎日だった。
帰宅して、玄関の鍵を閉じると、ようやくひと息つける。
自室にかばんを放ってコートを脱ぎ、スマホを見る。
またLINEが着信していた。どうせ二木からだろうとげんなりしつつも義務的にトークリストを開くと、慎一郎の名前が一番上に表示されていた。
「慎一郎……」
千歳は息苦しさを覚える。
ひとまず長押しで既読をつけずに内容を読もうと試みるも、そこそこ長文で全容が掴めない。余計な駆け引きをするのも馬鹿らしく感じられ、千歳はメッセージを開封した。
メッセージは、千歳を旅行に誘うものだった。どうやら、懸賞で温泉のペア宿泊券を当ててしまったらしい。「彼女もいないし、どうせなら千歳を誘ってみようと思って(笑)」といった内容が、慎一郎らしくない回りくどい冗長な文章でつづられていた。場所や日時、旅館のホームページのURLも添えてある。
チェックインの日付は24日、つまりクリスマスイブだ。そして今年はちょうどイブが土曜日なので、もしこれがデートなら最高のお膳立てである。
慎一郎が千歳と仲直りしたがっているのは明白だったけど、ここでおいそれと釣り出されてしまっては、今まで耐えてきた努力が水の泡だ。ようやく慎一郎のいない日常にも慣れてきたところだ……いや、それは嘘だ、慣れてなんていない。でも慣れるための準備には慣れてきた。そんなところだ。
千歳は「ごめん、その日は用事が」とバレバレの嘘をあえてつくことで、遠回しに、だけど明確に、拒否感を慎一郎に伝えた。
すぐに返信がきた。「そっか。急に悪かった。温泉は、一人で楽しんでくるよ!」と。
千歳は、文章の短さに釣り合わない長い時間、画面を見つめ続けていた。




