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男だけど、宇宙人に男と推しカプ認定されてしまいました  作者: みちしお
4章「バレちゃったね、千歳くん……」
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和解

家に帰ると、千歳はなにはともあれ、自室でフチュの容態を確認した。


「あれ? 傷治ってない?」


千歳はフチュの顔を見て、驚いて言った。それから、パジャマをめくってお腹や胸も見た。痛々しい痣の数々が綺麗さっぱり消えていた。痣シールでも貼っていて、飽きて剥がしてしまったのかと思った。


「こいつを使ったのさ」


フチュはとある猫型ロボットの声を真似ながら「テラポーション~!」と毛布の下から何かを取り出した。


「なにこれ? ヤクルト?」


「だからテラポーションだってば~」


「もうモノマネはいいから」


「こいつはな」

急に中性的なイケボに戻るフチュ。

「肉体の回復力を爆速にしてくれる秘薬なのだ」


「そんな便利な物あるなら最初から言ってよ」


「千歳に看病してもらいたくて、つい」


「もう」


千歳は眉根を寄せるが、内心ほっとしていた。


「千歳はどこに行っていたのだ?」


「オオカミさんと会ってたんだ」


「ま、まさか、ノンケ堕ちしたのではないだろうなお前……? オオカミさんにかわいがってもらってきたのか!? いや、逆にお前がかわいがってやったパターンか!? ふだんは狼なくせに僕と二人きりだと子犬も同然だね、今日もかわいがってあげるよ、ってか!?」


「話をしただけだよ」


千歳はいきさつを掻い摘んで語った。


話を聞き終えたフチュは、「すると、五十嵐とオオカミさんはカップリングが成立してしまうのか?」と至極残念そうに言った。


「分からない。オオカミさんは気持ちを伝えてくれるって言ってたけど、気が変わる可能性もないとは言えないし」


「私としてはぜひ気が変わってほしいものだ。ノンケカップルが誕生するたびに私は神社にお参りして『いち早く別れますように』とお願いしている。最寄りの神社はどこだ?」


「ほんと性格悪いなあ」

千歳はむっとする。

「幸せを願おうよ」


翌日の日曜日の朝、千歳のスマホが着信した。五十嵐からのLINEだった。


ドキッとした。あの謝罪文に対する返信だろうから、きっと罵詈雑言が並んでいることだろう。そう覚悟してメッセージを開くと、「昨日は返信できなくて悪かった」「電話で話したい」「問題ないか?」と刻んで記されていて、千歳をさらに怯えさせた。


しかし逃げるわけにはいかない。千歳はすぐに「いつでもいいよ」と返信した。


すると、入れ違いかと疑うほどの早さで電話がかかってきた。


ドキドキしながら、千歳は通話に応じた。


「早乙女か?」


五十嵐の野太い声が、鼓膜を揺らす。


「う、うん。おはよう」


「返事、遅くなって悪いな」


「そんな、ぜんぜん大丈夫だよ!」


期せずして大きな声が出て、千歳はその勢いを殺さずに言葉を紡いだ。


「ほんと、ごめんね! 僕の突飛で卑劣な行いが五十嵐くんの名誉を傷つけてしまった。言うまでもなくぜんぶ僕のせいだ。許してとは言わない。だから、せめて、僕の謝罪を受け取ってほしい。僕にできることならどんな償いでもする!」


「早乙女」

五十嵐の声音は至って平常だった。

「俺さ、楽しかったんだ」


「え?」


「お前から屈辱的な仕打ちを受けて、悔しくて、恥ずかしくて、でも楽しかったんだ。今でも思い出すと心臓がドキドキする」


「い、五十嵐くん……?」


「また、してくれないか?」


すっかり調教されてるーっ!


「……五十嵐くんは、オオカミさんのことが好きなんでしょ?」


「ああ」


「じゃあ、僕なんかと、その、あんなことしちゃダメだよ!」


いったいどの口が言うんだとセルフツッコミしつつ、千歳はそう叫ばずにはいられなかった。


「いや、恋愛対象とご主人様は別だろ?」


ご主人様!

自分が調教したとはいえ、今は五十嵐の口からそんな言葉は聞きたくなかった。


でもゾクゾクする! ああ罪深い!


フチュが小声で「エロい会話してるな~!」と目を三日月にする。千歳が「なんで五十嵐くんの声まで聞こえてるんだよ!」という目で睨むと、フチュは手を耳に当てて「宇宙人イヤーは地獄耳~」と節をつけて歌った。


「そういや」

電話の向こうで、五十嵐はあっけらかんとした調子で続ける。

「オオカミから、さっき電話があったんだ」


「ほんと!? それで、何を話したの?」


まるで目の前に五十嵐がいるかのように、千歳は身を乗り出して尋ねた。


「あの写真。俺がお前にいたぶられてる写真。あれ見たよって報告」


「え!」


想像と違う! 電話でわざわざ言うことじゃないでしょそれ!


「『お前のM奴隷姿なかなかかわいいな』って、そうも言われた」


「ええ……」


「それを聞いてさ、俺、すげぇ心が軽くなったんだよな。写真流出して、ああ終わったと思ってたんだけど、なぜかオオカミは気にしてないみたいで。それどころか、なんか通じ合えるものを一個獲得できたっていうか」


五十嵐にとっては、大好きなオオカミさんからの評価こそが全てのようだ。そのまっすぐで純粋な気持ちに、千歳は感心した。


「あとさ、最後にこんなことも言ってたんだが……。『早乙女と約束したから言う。あたしにとってお前は、七だ』って。で、その後すぐに電話切れちまった。七ってなんだ?」


そうだよ、それだよオオカミさん!

千歳はガッツポーズした。


いちいち説明するのも野暮な気がして、「好きってことだと思うよ」とだけ千歳は答えておいた。


「ほんとか?」


「僕はそう思う。あとは、ぜひ自分で確かめてみて」


「そうだな、そうする」


五十嵐の声は明らかに弾んでいる。


「改めて」

千歳は声を落とし、真剣な話の前触れをほのめかす。

「今回は、迷惑かけちゃって本当にごめんなさい」


「べつにいいって。むしろなんか知らねぇけどオオカミに近づけてよかったまである」


「でも、何か償いをしないと、僕の気が済まないよ」


「そうか。じゃあ、ひとつお前にやってもらいたいことがある」


「なに?」


千歳は緊張した。


「もう一度、電話でいいから、『僕なしじゃ生きられない体にしてあげるよ』って言ってくれないか?」


「……」


そんなこと言ってたの僕……?

千歳は思わず天井を仰いだ。


まずい。記憶が全くない。攻めモードだと別人格が現れるのだろうか。


「ぼ、僕なしじゃ、生きられない体にしてあげるよ……」


「うん。なんか違う」


言った損じゃん……。


「でも、ま、これでチャラだ」


五十嵐は笑った。


また学校でと、紋切型の挨拶を交わして電話を切った。

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