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男だけど、宇宙人に男と推しカプ認定されてしまいました  作者: みちしお
4章「バレちゃったね、千歳くん……」
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違和感

十月も半ばになり、いよいよ意識が秋モードに切り替わってきた。


登校して席につき、それとはなしにスマホを見ると、ちょうどLINEが着信した。二木からだった。


――今日の早乙女くんもかわいいね。


――後ろ髪の寝ぐせがとてもキュートだ。


千歳は恐る恐る後頭部を触る。見事にぴょんと髪が跳ねているのが分かった。ゾゾゾ~と悪寒が体を這い上がる。


すかさず、また二木からのLINE。


――ところで、俺は猫を飼っているのだけど、ちょっと早乙女くんに似ていないかな?


――(ラグドールの写真)


――目元がそっくりだろう? ハルサメって名前なのだけど、今からでもチトセに改名しようか悩んでいるよ。


千歳がスマホを仕舞ってため息をつくと、肩をぽんぽんと叩かれた。


振り返ると、鬼塚が立っていた。彼女は新発売のすっぱいグミを差し出していた。


「くれるの?」


鬼塚は無言でこくりとうなずいた。


「ひと袋ぜんぶ?」


鬼塚は無言でこくりとうなずいた。


「ありがとう。すっぱい系のグミ、大好きなんだ」


鬼塚はまたこくりとうなずくと、自分の席に戻っていった。


貰ったグミを一粒口に放り込むと、千歳はちょっとだけ元気が出た。


一限目、二限目、と授業を経るごとに、千歳は違和感を覚え始めた。なんだか、クラスの雰囲気が妙なのだ。クラスメイトたちが妙によそよそしく、中には露骨に憐みのこもったまなざしを千歳に向けてくる者もいた。


四限目が終わって、バッグからお弁当箱を取り出していると、忍足が近づいてきて耳打ちした。


「僕はこう思うよ。何も気にすることはない、って」


「え?」


聞き返したときにはもう、忍足は千歳に背を向けていた。


いつもなら、千歳、フチュ、慎一郎、忍足の四人は申し合わせるまでもなく自然とまとまって中庭に向かうのだが、忍足はどこかへ消えてしまったし、慎一郎の姿もどこにも見当たらない。


「慎一郎のやつ、なんか四限目が終わったらすぐにどこかへ消えてしまったぞ」


フチュがそう教えてくれる。


「どうしたんだろ? とりあえず先に行こうよ。途中で来るでしょ」


しかし、けっきょく千歳とフチュが弁当を食べ終えても、慎一郎と忍足は中庭に現れなかった。


五限目、慎一郎の席は空いていた。


早退したのかな? そういえば、たしかにちょっと体調悪そうだったな、と千歳は心配になった。


放課後。慎一郎にLINEしようとしたら、逆にあっちからメッセージが送られているのに気づいた。正確に言うと、一度送信されたのだけど、後から「送信取消」が実行されていた。「結城慎一郎がメッセージの送信を取り消しました」の文字が、トーク画面に横たわっている。


直観で、彼が何か深刻な話を切り出して、そして思い直してやめたのだと千歳は確信した。でも、それを訊くのは気が咎めた。


次の日、慎一郎は欠席した。南先生は「結城は風邪で休み」と言った。


風邪……?


千歳は慎一郎とは幼馴染だが、彼が病気をするのを一度も見たことがない。千歳が風邪をひくといつもお見舞いに来てくれて、だけど一度たりとも移ったことはなかった。


昨日からずっと続いていた胸騒ぎが、今確かな質感をもって千歳の胸に迫ってきた。このモヤモヤは、実際に慎一郎の顔を見ないと晴れない気がした。


やはり今日も、クラスメイトたちは皆一様によそよそしかった。そんな中、忍足はふだんどおり、昼休みに千歳と中庭へ行ってくれた。


ベンチに座って見上げると、空は千歳の心を反映するように灰色に曇っていた。


「慎一郎、どうしたんだろう?」


弁当を陰鬱につつきながら、千歳は呟いた。


「僕はこう思うよ。結城くんは、早乙女くんのことを大切に思ってる」


「うん、そうだね」


そうは答えたものの、忍足の言わんとしていることが千歳にはまるで分からなかった。


「いい友達だよ。ずっと助けてもらってる」

そう千歳は付け加えた。


でも、それと慎一郎の欠席になんの関係が?


「から揚げ食べる?」


忍足が弁当箱を差し出した。


「いただく!」


フチュがそう叫んで、横から箸をのばして、一度に二つ貫いてかっぱらった。


放課後。フチュはオオカミさんとBL本の貸し借りをしつつ、話に花を咲かせ始めてしまった。横やりを入れるのも悪いので、千歳は先に一人で帰ることにした。


昇降口を出たところで、雨が降っているのに気づいた。


ああ、傘持ってないや……。でもこの程度なら傘なしでなんとかなるだろう。


千歳が雨の中に踏み出そうとしたとき、横からすっと腕が伸びてきた。


見ると、黒い傘を持った伊集院が立っていた。


「濡れるだろう」


伊集院は、傘に千歳を入れてくれるようだ。


「あ、ありがとう。でも……」


「君はちっこいからな。容量を取らない。気にするな」


そうじゃなくて、相合傘が恥ずかしいんだけど……と顔が熱くなる。


二人とも無言で歩いた。背後から自転車がやってきたときは、伊集院は静かに千歳の肩を抱いて端に寄せてくれた。


駅に着いた。伊集院とは帰りが反対方向なので、構内で別れる。


「これ、持っていくといい」


伊集院が傘を差し出してくる。


「え、そんな、悪いよ」


「僕の家は駅からすぐだから、傘なしで問題ない」


押し付けるように傘を千歳に握らせると、伊集院は背中を向けてそそくさと歩き出してしまう。

でも数歩で一旦立ち止まって、振り返らずに「僕は悪くないと思う、君のああいう面も」と呟いた。


言葉の真意が分からず、でも聞き返すよりも早く伊集院はまた歩き出してしまった。煮え切らない気持ちで、千歳は電車に乗った。


吊皮を掴んで立って、雨粒の滴る車窓に切り取られた街並みをぼんやり見つめながら、千歳は慎一郎に会いに行こうと思った。

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