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男だけど、宇宙人に男と推しカプ認定されてしまいました  作者: みちしお
3章「目覚めちゃいなよ千歳くん!」
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ハメハメ作戦

この日から、さっそく作戦はスタートした。スタートしてしまった。


作戦はシンプルで、五十嵐の非行の現場を激写して、その写真をネタに脅すというものだ。非行がバレたらバスケ部を辞めざるをえない。その恐怖感を利用して五十嵐を意のままに操るのだ。改めて言葉にすると驚くほどドクズな計画でビビる。


放課後、千歳はフチュと二人で、体育館の中をこっそり覗いていた。


引き締まった体の男子たちが、バッシュをキュッキュと小気味よく鳴らして俊敏に動き回っている。

2ON2で、今はちょうど五十嵐がボールを持っている。彼はバスケよりラグビーのほうが似合いそうな屈強なガタイで華麗に宙を舞い、見事にフックシュートを決めた。


「五十嵐は、部活には毎日出ているそうだ。伊集院の言っていたように、バスケは奴にとって重大なアイデンティティなのだろう」


フチュは五十嵐を目で追いながら言った。


「なんかさ、やっぱりやめない?」


千歳はフチュを見上げて言う。


「もっと甘えた感じで言ってみろ」


「やめようよ、こういうの」


千歳は上目遣いマシマシで言い直した。


「お前ほんと反則だな。エロすぎる。私の心のソーセージが反応してしまった。リアル海綿体にも響く。でも五十嵐をハメるプランは続行だ」


「なんのために僕に甘えさせたんだよ」


「趣味に決まっているだろう」


ひとまず、バスケ部の練習が終わるのを待った。校舎の屋上に上がって、フェンス越しに体育館を見下ろした。駄弁りながら、時間を右から左へやり過ごす。


橙色の燃えるような空を、千歳は意味もなく見上げた。なぜ夕暮れはこんなにも切ない気持ちになるのだろうと思った。東の空には藍色の夜が迫っている。


十八時ちょっと過ぎに、体育館の中からぞろぞろと人が出てきた。


「いくぞ」


両手をぽんと叩き、フチュはペントハウスのドアに小走りで向かった。


千歳は彼の後を追う。


階段を駆け下りて校舎を出ると、校門に向かってぞろぞろ歩くバスケ部の面々の背中があった。

校門を出てすぐ、数人が手を振って駅とは反対方向へと別れた。


五十嵐は駅へ向かう多数派グループに混じって歩いている。駅に着くまでにまた数人散って、電車に乗ったのは四人だった。みんな一年生のようで、ドアの前あたりに立って談笑している。


彼らの隣の車両から、貫通扉越しに、千歳とフチュは様子を窺う。


五十嵐は、朗らかな笑みを浮かべている。

あんな表情を見たのは、千歳は初めてだった。五十嵐くんって笑うんだ、と思った。


五十嵐は最初に下りた。


千歳とフチュも降りて、距離を保って追跡した。


駅前は栄えて人が多く、近くに大きな自然公園があることから外国人観光客の姿も目立つが、少し歩くと閑静な住宅街へと街並みは変わる。


「このままシーシャバーにでも入ってくれれば完璧なのだがな」


「シーシャバーなんかそうそうないでしょ」


「千歳、スマホのカメラすぐ起動できるようにしておけよ。五十嵐が懐から煙草を取り出して口に咥えるかもしれんからな」


「う、うん」


千歳はスマホをポケットから取り出すも、依然として全く乗り気ではない。


やがて五十嵐は二階建ての戸建ての中に消えた。


「ここが奴の家のようだな。ベージュの壁に赤い屋根。猫型ロボットとポンコツ眼鏡が住んでいそうなビジュアルだ」


「どうする? 家の中に入られちゃったら、もうどうしようもないよね」


「分からんだろう。二階の窓をおもむろにがらりと開けて、たそがれながら一服する可能性もある」


「ここでずっと見張る気? 完全に不審者だよ」


フチュは困り顔になった。


「それもそうだな。しゃーない、今日は引き上げよう。家を特定できただけで上出来だ」


それから千歳とフチュは毎日、放課後に五十嵐を尾行した。


一週間続けて、激写できた五十嵐の悪行は以下の通りだ。


・中年女性がレジ袋からぶちまけてしまった品物を一緒に拾ってあげた。

・二人組の男にしつこくナンパされて半泣きになっていた少女を助けてあげた。

・横断歩道の途中で転んでしまったおじいさんをおんぶして運んであげた。

・気まぐれに自然公園を歩き、散歩中のサモエド犬と戯れた。


「いい人じゃん!」


「参ったな」


フチュは床に寝転がり、投げやりに言った。


「もうさ、五十嵐くんはやめない?」


千歳はスマホをベッドに放って言った。


「ダメだ。五十嵐がいい」


「でもファッションヤンキーだって分かったじゃん」


「いいじゃないか。ヤンキーだけど実はいい奴、ってのは鉄板ネタだ」


「そうじゃなくて、脅すネタを用意できないでしょって話だよ」


「よし、いいことを思いついた」


「聞きたくない」


千歳は両手で耳を塞いだ。


フチュはその手を無理やり外して、耳に流し込むように言った。


「名付けて、『非行がないなら作ればいいじゃない作戦』だ」


「でっちあげるってこと?」


「すごくピッタリな日本語をありがとう」


「そんなのあんまりじゃないか。何も悪いことしてない人に罪を着せるなんて」


「千歳。なにも私は、冤罪をクリエイトして五十嵐の人生をブレイクしようとしているわけではない。ただ、千歳に犯される五十嵐が見たいだけだ」


「『ただ』の後に続く文章がヘヴィーすぎるだろ! ある種、人生を潰す行為だよ。言っておくけど、もし五十嵐くんの弱みを捏造できたとしても、僕は彼にひどいことはしないからね!」


「せめて首輪をつけるくらいのことはしてもらいたいものだ。そのあとは妄想で補完するからさ」


まったく無茶を言う。


千歳は呆れるばかりだった。

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