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男だけど、宇宙人に男と推しカプ認定されてしまいました  作者: みちしお
3章「目覚めちゃいなよ千歳くん!」
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ヤンキー受け

「千歳の攻めが見たい」


新学期早々、登校中、フチュがそんなことを言い出した。


「さすがに無理だよ」


「そして、受けは、そうだな……」


千歳の抗議を意に介さず、フチュはウキウキでプランを考え始める。


五十嵐いがらし武蔵むさしが理想的だな」


千歳はぴたりと足を止めて、絶望に染まった顔でフチュを見る。


「よりによって五十嵐くん!? 冗談じゃない。フチュだって夏休み前に見ただろ、五十嵐くんの怖さを」


五十嵐は、いわゆるヤンキーである。体育教師と正面からメンチを切り合う姿が、脳裏に鮮やかに蘇ってくる。


「ああいうイキッた輩を屈服させるのがよきよきのよきなのだ。ふだんはオラついているのに、千歳相手だとつい体が正直になってしまう、これがいいのさ! お前だって分かるだろう? お前の所有するBL本にもそういうシチュのあったし」


「あれは、マンガの中だからいいんだよ。現実だとそんなのありえない」


学校に着くと、夏休みのぶん溜まっていた空白が、郷愁のような表情で教室に漂っていた。毎日のようにイジられるし、恥ずかしい思いだってするのに、千歳は一年二組が嫌いではなかった。慎一郎や忍足らのおかげだ。


例の五十嵐は、一時間遅刻して教室にやってきた。一限目の休み時間にダルそうに後ろのドアから入ってきて、廊下側の一番後ろの席に腰かけた。ワイシャツの裾はだらしなく外に出て、茶色く染まった短髪と小粒なピアスが他者を威嚇する。


彼は群れるタイプではない。そして、誰もあえて近づこうとはしない。


いや、一人だけ例外がいた。


「五十嵐武蔵」


椅子に座る五十嵐を、伊集院が見下ろしている。


「あ?」


「何度も言わせるな。染髪とピアスは校則違反だ」


「いつもいつも、なんでお前なんかに指図されないといけねぇんだ?」


「僕は風紀委員なのでね」


「やっぱお前、一回ボコらないと分からねぇみたいだな?」


五十嵐が椅子から立つと、見下ろす側と見上げる側は一瞬で逆転する。

中背の伊集院に対し、五十嵐は誰もが大柄と表現するであろう立派な体格だ。


「好きにしろ。その場合、君は学校にいられなくなる。むろん、君の唯一の取り柄であるバスケも続けていけなくなる」


伊集院、さすがに、人の目があるフィールドでは陰湿さを十全に発揮する。

五十嵐はバスケ部に所属していて、一年生ながらレギュラー入りしているのだ。


五十嵐はぐっと眉間に皺を寄せ、目尻を上げる。

鬼の形相とはまさにこのことだと、遠巻きに眺めているだけで千歳は縮み上がってしまう。


「私の目には見えている。五十嵐と伊集院の絡みが!」


フチュが耳元でそう囁いてくる。


「こんなときにもBL妄想できるのか……」


「こんなときだからこそ、だ。伊集院が五十嵐の非行をネタに脅す王道展開も悪くないが、今はオメガバースを推す。ほら、見ろ、五十嵐のフェロモンにあてられた伊集院の顔を。耐えがたい劣情の上澄みを。間違いない、あれは発情している。むくむくと攻撃性が首をもたげる音が私には聞こえる……。ああ、私のビジョンにはもう、五十嵐が首輪をつけられるところまで映っている!」


まったく幸せな脳みそだと千歳は呆れ果てる。

他人の喧嘩にそこまで強烈なフィルターをかけられるのは才能だ。気まずい思いでヒヤヒヤしている自分が馬鹿みたいだ。


「くそが」


五十嵐は来たばかりにもかかわらず、鞄を持って教室を出ていってしまった。


「まったく。私の妄想タイムを中断させるとは」


フチュはため息をつく。


「ガキだな、あいつ」


そう呟いたのは、近くの席で頬杖をついて成り行きを眺めていた女子だ。誰にともなくこぼした独り言のようだったけど、千歳とフチュが反応を示したことで後始末の義務が生じ、「いや、なんでもねぇけど」と顔を背けた。


「オオカミさんと同感だ」

フチュは言った。

「五十嵐はガキだ。でもそこがいい」


オオカミさんは、面倒そうに顔をフチュに向けた。


「ガキだからこそヤンキーはかわいいのさ」


忘れ物をそっと手渡すように、フチュはそう付け足した。


千歳はヒヤリとする。

なぜなら、オオカミさんもまたヤンキーだからだ。五十嵐のように露骨ではないけど、人を寄せ付けない一匹狼なところなんかはそっくりだ。


彼女の本名は大上おおかみ杏樹あんじゅなのだが、その名を呼ぶとき脳内にカタカナで「オオカミ」と浮かんでしまうのは、偏に彼女の爛々と光る双眸と、口からちらりと覗く鋭い犬歯のせいだ。下手に手を出したら噛み殺されそうな雰囲気が漂っている。


「フチュ」

オオカミさんはフチュを睨み上げる。

「わかりみ」


 ……え?


「エリートヤンキーに萌えないこともないが、やっぱアホなのがいいよな」


「オオカミさん的には、五十嵐と伊集院のカプはどうだ?」


「あり寄りのありだな」


「せーの」


「五十嵐×伊集院」「伊集院×五十嵐」


「あ?」


「お?」


解釈違いゆえに、視線でバチバチと火花を散らすフチュとオオカミさん。

いつの間にか二人は、レンド同士になっていたようだ。


「ところでオオカミさん」

フチュは仕切り直す。

「千歳と五十嵐だったら、どうだろう?」


いきなり話に取り込まれてしまった千歳は狼狽えつつも、フチュをむっと睨みつけた。


「そうだな……」


オオカミさんは千歳を舐め回すようにじっとり眺める。真剣に悩まないでよ。


「せーの」


「早乙女×五十嵐」「千歳×五十嵐」


ガシィッと、フチュとオオカミさんは握手を交わした。


「な?」

フチュは千歳に笑いかける。

「お前の攻めは需要がある」


千歳は苦笑を浮かべて、そそくさと自席に戻った。

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