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裸の付き合い

近くに温泉施設があるようで、夕飯の後みんなで歩いて向かった。


温泉施設までの道中、千歳はフチュに尋ねた。


「フチュはさ、僕と伊集院くんの、その、いろいろするのを見て、腐力は溜まったの?」


「かなり稼げた。あんなに興奮したのは久々だ。やはり生BLは最の高!」


結果オーライか、と千歳はひとまず自分を納得させた。


「ところで千歳。鬼塚って本当に地球人なのか?」


「え? 地球人の日本人だよ。なんで?」


「いやさ、忍足を回収するためにUFOに戻った時にな、念のため録画をチェックしてみたのだが、映っていたのさ。透明なUFOにまっすぐ近づいてくる鬼塚の姿が。人間には絶対に見えないはずなのに。けっきょくそばを通り過ぎていったが、いやあヒヤッとしたね」


鬼塚は忍足の捜索の最中、森の一点を指さし、やがて踏み込んでいった。

あるいは彼女は、UFOを指さしていたのかもしれない。完璧に透明化したUFOを……。


喋っているうちに温泉施設に到着した。十分もかからなかった。


脱衣所で服を脱いでいると、千歳は慎一郎の目を妙に意識してしまった。


感づかれたのか、慎一郎は「どうした?」と尋ねてくる。


「いや、ちょっと恥ずかしいなって……」


「なんだよ今さら。昔からよく家の風呂にも一緒に入ってただろ」


慎一郎はそう言って笑った。


フチュの鼻息が荒くなるのが分かった。千歳と慎一郎が狭い風呂に一緒に入る様を妄想して興奮しているのだ。


ちなみに、フチュとは家で一緒に風呂を済ませてしまうことも多いので、もう見ても見られても何も感じない。


「僕はこう思うよ。早乙女くん、ほんと肌綺麗だねって」


「そうかな? ありがとう」


忍足の物言いは、特に他意はなく、彼とも気兼ねなく裸を晒し合える雰囲気だ。


唯一気がかりな人物は、伊集院だった。

彼は前かがみになり、フェイスタオルで股間を押さえている。


「伊集院くん? どうかした?」


「早乙女千歳。き、貴様は、男性ホルモンをどこに置いてきた? 早くどっかへ行け」


「……? もしかして、恥ずかしいの?」


「貴様限定でな」


「え、でも、裸を見合うのはこれが初めてじゃないのに」


廃屋での出来事を思い出し、千歳は軽い気持ちでそう言った。


「誤解を招くようなことを言うな!」


伊集院は前かがみのまま浴室へ消えた。


「おいおいどういうことだよ! 詳しく聞かせろ!」


慎一郎が千歳の肩を掴んで、興味津々で顔を寄せてくる。


まずい発言だったと今さら自覚し、千歳は猛烈に恥ずかしさを覚えた。


「な、なんでもないんだ! ほ、ほんとにさ! じゃ、先行ってるね!」


千歳は逃げるように浴室へ向かった。


身体を洗い、内風呂に入り、次に露天風呂に入った。フチュと慎一郎と忍足とは入りながら楽しくお喋りしたが、伊集院だけは頑なに千歳と同じ風呂に入ろうとせず、ずっと距離を保っていた。


慎一郎が「サウナ入ろうぜ!」と言ったので、四人でサウナに入った。最初に「僕はこう思うよ。限界……」と忍足が出ていき、次に「フィンランド式拷問と名付ける」とフチュが逃げ出し、その数分後に慎一郎も「そろそろやべぇ」と腰を上げた。


「千歳は平気なのか?」


「もう少しいけそう」


「そういや、意外と苦痛に強いタイプなんだよな、千歳って……。じゃ、お先」


慎一郎が出ていくと、サウナ室には千歳だけになった。


ドアが開き、新しく誰かが入ってきた。


「あ」


千歳は声を漏らした。


伊集院は千歳の顔を見ると、静かにうなずいた。最初から千歳がいると分かっていたようだった。


伊集院は千歳の隣に腰を下ろした。


「さっきは、怒鳴ってすまなかった」


ほんとこの人は他人の目があると素直になれないし、でも二人きりだととことん素直になるようだ。

千歳は愛おしさすら覚えた。


「いいよ。今日だけで、伊集院くんのこと少し分かった気がする」


千歳が笑顔を向けると、伊集院はあからさまに顔を赤くして狼狽えた。


「……昔は、こんなんじゃなかったんだ」


ややあって、伊集院はそう切り出した。


「しかしいつからか、僕は隠したいことがあるとつい相手を攻撃してしまう癖がついてしまった。第三者の目が気になって仕方なくなった」


千歳は、その気持ちが全く分からないわけでもなかった。

彼も、ふだんから第三者の目を気にして生きている。そのセクシャリティゆえに。だからこそ、物事を隠すために本心でないことをつい口にしてしまうのは、日常茶飯事だった。


「特に、ち、千歳、君に対しては……」


無理に下の名前で呼ぼうとしているのが如実に分かって、千歳は吹き出しそうになる。伊集院、不器用すぎる。


「早乙女千歳に対しては」

伊集院はいつもどおりフルネームで言い直した。

「隠したいことが多くて、だな……」


「どうして?」


「……いや、なんでもない」


伊集院はふっと息を漏らし、首を小さく横に振った。

息と一緒に邪念が出て行ったのか、彼の顔には今まで見たことない穏やかな笑みが浮かんでいた。


よく分からないけど、千歳も「そっか」とほほ笑んだ。


「ところで早乙女千歳、平気なのか? この熱さ」


「まだ平気」


「意外と強靭だな……僕は先に出るよ」


温泉施設からテントに戻ると、みんなでお喋りしたり、夜食を食べたりして楽しく過ごし、夜は更けていった。


寝支度を終えて横になったとき、千歳は「そういえば」と思った。


「ねぇ、フチュ。トンネルにいたとき、なんで僕から逃げたの?」


千歳は、隣のフチュに、そっと耳打ちする。


「なんの話だ?」


「ほら、僕たちが忍足くんを捜索してるとき、廃トンネルの向こうにいたでしょ? 絶対僕に気づいてたのに、無視してどっか行っちゃったでしょ」


「トンネル? 私は今日、ここでトンネルなんて一度も見ていないが?」


「え……?」

千歳は目を(しばたた)かせる。

「……ちなみに、本物の忍足くんはUFOの中でずっと眠ってたんだよね?」


「そうだが」


「じゃあさ、あのとき僕がトンネルの向こうに見た人影は、誰?」


「だから、なんの話だ?」


「……」


千歳が目撃した人影。

あれは本当に、千歳をどこかに導こうとする、マサユキくんだったのかもしれない。

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