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肝試し

「男子五人と女子三人だから、ひと組は男子同士になる」

小御門は言った。

「最後のペアは、早乙女くんと伊集院くん」


ヒューッと口笛を吹いたのはフチュだった。

ようやく千歳と伊集院をイチャつかせるチャンス到来とでも思っているのだろう。


伊集院くんとペア……? 千歳は凍りつく。


つまり二人きり? え? 懲役刑かなにか?


案の定、伊集院は「こいつと?」みたいな横目を千歳にくれている。


「まあ、ちーちゃんは見た目女の子だし、実質みんな男女ペアだね!」


七瀬はそんないい加減なことを言うのだった。


「コテージのエリアに続く登り坂の脇に、小道がある。そこを道なりに行くと――」


慎一郎が説明を始めた。

曰く、小道をしばらく進んでいくと廃屋にたどり着くそうだ。そこには、少年の幽霊が出るのだという。その幽霊の少年は、名をマサユキというらしい。


マサユキくんは生前、ものすごく影が薄かったそうだ。だから、かくれんぼをしても、いつも最後まで見つからなかった。そしてその日も、彼はかくれんぼをしていて、倉庫に隠れた。でも存在感があまりにも薄くて、仲間たちはそもそもマサユキくんが一緒に遊んでいたことすら忘れてしまい、先に帰ってしまった。マサユキくんは鬼を待ち続けた。何日も待った。そして餓死した。


なんとも言えない空気が、千歳らのあいだに広がった。

ひとまず話が終わるまではツッコむのをよそうというコンセンサスが無言のうちに形成されていた。


「マサユキくんは今も死んだことに気づかず、鬼を待ち続けているんだそうだ。マサユキくんの幽霊を見た者は、決して声をかけてはいけない。なぜなら、声をかけると彼は『見つかっちゃった~』と振り返り、『どうしてもっと早く見つけてくれなかったの~?』と腐乱した姿で襲い掛かってくるからだ!」


「ほぇ~ッ!!」


フチュが独特な悲鳴をあげた。


他のメンツは無表情か半笑いだった。


「なんだ、怖がってくれたのはフチュだけか」


慎一郎はつまらなそうに口をとがらせる。


「怖がってなんていない! これは私の母星の言葉で『くだらん』という意味だ!」


「母星?」


小御門が首をかしげる。


「でもフチュ、顔真っ青だぞ?」


慎一郎は追撃の手を緩めない。


「こ、これは、あれだ、腹痛だ! いたた! あいたたたた!」


フチュは地面にうずくまってしまう。


面々は口々に心配を示し、フチュの周りに集まった。


「あいたたた! これはあかんやつ! 肝試しには行けそうにない! いやあ残念だすごく残念だ私も幽霊見たかったな~! なんなら祓ってやりたかったな~哀れな少年を! あいたたた! トイレ行ってくるわ、たぶん二時間は出られないわ、みんな肝試し楽しんでおくれよ、あいたたた、いやあすごく残念だ!」


フチュは疾風のごとく走り去った。


「フチュくん、心配」

七瀬が眉尻を下げて、本気で心配した様子を見せる。

「でも、ぽんぽん弱いところちょっと萌える……」


仮病をバラすのも意地が悪いので、千歳は「そうだね」と曖昧に応えた。


「さて」

慎一郎が手をぽんと打ち鳴らし、仕切り直す。

「鬼塚が一人になっちゃったな……」


!!


千歳はこのチャンスを見逃さなかった。


「じゃあさ、僕と伊集院くんと一緒に、どう!?」


千歳は前のめりでそう叫んだ。


鬼塚はこくりとうなずいた。OKのようだ。


千歳は心の中でガッツポーズをした。

これで伊集院と二人きりという地獄はひとまず回避できる。どうせフチュは仮病で逃亡してしまったのだから、BL妄想を手伝ってやる義理もない。


「よし、じゃあ、まずは俺と理子から行く」


相変わらず慎一郎は一番槍を手にしたがる。

そんなアクティブな彼を、千歳は憧れのまなざしで見つめる。すなおにカッコいいと思う。


懐中電灯を持った慎一郎と小御門が坂をのぼっていくのを、千歳はヒリヒリした熱を胸に感じながら見つめた。

熱の正体が嫉妬だと分かると、自分を恥じずにはいられなかった。


「早乙女千歳。君も体調不良か?」


伊集院が冷たい目で見下ろし、訊いてくる。


「え、なんで?」


「つらそうな顔をしている」


言うと、伊集院は千歳の視線をたどり、坂をのぼっていく二人に顔を向けた。


しまった、と千歳は焦った。

伊集院は頭がいいから、心の内を悟られてしまうかもしれない。


千歳は弁解するように、視線を上に動かし、星空に向けた。


「星、綺麗だなーって思ってさ! で、ちょっとセンチメンタルに浸っちゃってさ……あはは」


千歳は努めて笑顔を作り、伊集院に向けた。


伊集院は一瞬驚いたような顔を見せたあと、すぐにそれを無表情の裏に仕舞った。そして「そうか」とだけこぼすと、千歳から顔をそむけた。


どうしてか、さらに伊集院の機嫌が悪くなったように、千歳には感じられた。

これ以上険悪な状態で肝試しをしたくなかったので、思い切って「ごめん、何か怒らせちゃったかな?」と恐る恐る尋ねた。


「そういうところだ」


そう伊集院は呟く。


「え?」


「君のそういうところが、たまらなく僕をイラつかせる」


「ご、ごめん」


「ああ、もう……。出番になったら呼べ」


そう言い残し、伊集院はテントの中に入っていってしまった。


「僕はこう思うよ」


「わ!」


いつの間にか背後に忍足が立っていて、千歳の困惑は驚愕に上書きされた。


「伊集院くんは素直じゃないな、って」


「どういう意味?」


忍足の言っている意味が、千歳にはまるで理解できなかった。


「僕はこうも思うよ。僕の口からじゃ、うまく説明できないって」


煮え切らない応対に、千歳は途方に暮れてしまった。


そうこうしているうちに、慎一郎と小御門が帰ってきた。


「残念ながら何も出なかった」


慎一郎は肩を落とした。

その様子から、どうやら彼は本気で幽霊と会うつもりだったようだと知る。


「ウチらは必ず幽霊見つけてきまーす!」


七瀬が八重歯を覗かせて笑い、茶化すように敬礼をした。


「おう、期待してるぜ!」

慎一郎がサムズアップする。

「ここのキャンプ場な、幽霊だけじゃなくて、UFOの目撃情報もあるんだ」


「マジ~? ウケる~! 宇宙人にも会えたりして~!」


七瀬と忍足は、意気軒昂たる足取りで旅立っていった。


そういえば、と千歳は思った。

本物の宇宙人は今どこで何をしているのだろう? お腹が痛いというのは仮病なのだし、まさか本当にトイレにこもっているわけでもあるまいし……。

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