【戯曲】『エチュード0301』
◯注意事項等
・最低人数指定あり。
・ト書きなし。
・セリフ指定なし。
・見やすいようにたまに空白行を入れていますが、気にしなくて大丈夫です。
・できる限り感嘆符や疑問符等も省いています。台本通りに演じる必要はありません。必要があれば好きなように変更してください。
・どこまで他人任せにできるかという実験作です。全て役者もしくは演出をされる方にお任せします。エチュードなどでお使いいただいても構いません。
・上演の際にはご連絡ください。(暇があったら観にいきます!!!)
・練習等でご使用の際には、ご一報いただけると喜びます。できればどういう振り分けや演じ方をしたのかなど教えていただけると更に喜びます。
・よき演劇ライフを!
◯概要
・タイトル:『エチュード0301』
・上演時間:(全編で目安40分〜)
・上演人数:2人〜
前書きが全てです。
◯
[1場]
「あれ、来てたんだ」
「うん」
「終わったね」
「終わったね」
「楽しかった、よね」
「楽しかったよ」
「最初はあんなに嫌がってたのに」
「あなたが無理に連れてくるから」
「終わっちゃったなぁ」
「何にだって終わりはあるよ」
「突然いい事っぽいこと言い出すー」
「そんなんじゃない」
「大学は」
「え」
「大学はいくの」
「いくよ」
「そっか」
「いくの」
「へ」
「大学」
「後輩になる、かなあ」
「後輩、ちゃんと敬語を使いなさい」
「うへぇ」
「続ける」
「大学で」
「大学でも、他のところでも、その後も」
「後」
「大学を卒業した、あと」
「後かあ」
「そう、あと」
「続ける、かなあ」
「そっか」
「うん」
「続けるの」
「どうだろう」
「どうだろうって」
「わかんないよ。後のことなんて」
「それはそうだけどさ」
「続けてほしいの」
「続けてほしいよ」
「告白みたい」
「告白だよ」
「恥ずかしいやつめ」
「悪かったね」
「貶してはないよ」
「そうかな」
[2場]
「きれいはきたない、きたないはきれい」
「マクベス」
「そう。結局できなかったね」
「まあ、シェイクスピアはね、難しいし」
「先輩が全部自力で訳すならやるとか言ってたっけ」
「それで英語の点数みんなめっちゃ上がったよね」
「そうそう」
「先輩は、続けてるのかな」
「さあね」
「あれだよね。卒業してから、音信不通〜って」
「まあ、部活以外でそれほど交流があったわけでもないし」
「そんなもんか」
「そんなもんだよ」
「私たちもさ、そんな感じかな」
「そんな感じって」
「終わったら、音信不通で」
「うん」
「これっきり、みたいな」
「うん」
「全部ここに置いていかなきゃいけないんだよね」
「そうだよ」
「楽しかったなあ」
「うん、楽しかったね」
「楽しかっただけ、なんだよね」
「それは違う」
「楽しかっただけでは、ないよ」
「え」
「辛いことも、苦しいことも、大変なこともいっぱいあったよ」
「でも、でもそれも全部ひっくるめて、全部合わせて、結局楽しかったんだよ」
「でも。楽しかっただけで終わらせたくないよ」
「でももう、終わりだもん」
「うん」
「終わっちゃったね」
「終わっちゃったんだよね」
「キラキラしたもの全部、ここに置いていかないといけないんだよね」
「それが卒業だもの」
「これから先、将来がもっとキラキラしてたらいいのに」
「それはこれからどうするか次第じゃない」
「一度手に入れたものを手放すのって、結構キツいよ」
「それは、そうだけど」
「でも、ちゃんと残るよ」
「そうだね」
[3場]
「そうだ」
「えっ、突然何」
「残るで思い出した」
「何を」
「これを持ってきてたんだった」
「何それ」
「エチュード」
「は」
「残そうと思って」
「待って待って」
「どうしたの」
「どうしたの、じゃないよ」
「いや、どうかしてるよ」
「どうかしてるのはそっちだよ」
「私が」
「それ、なに」
「エチュード」
「いや、エチュードってあれでしょ。台本がない状態で演技することでしょ」
「そうだね」
「それ、台本じゃん」
「そうだね」
「どういうことなの」
「どういうことって」
「簡単なことだよワトソン君」
「誰がワトソン君だ」
「部活の練習として、エチュードをやってきたでしょ」
「そうだね」
「それをメモしてたわけ」
「確かに、いつも何か書いてるなとは思ってたよ」
「で、覚えている限り文字起こしして、できなかったら自分で新しく考えて、台本を作りました」
「すごっ。すごいを通り越してキモっ」
「ひどい」
「本当に好きなんだね」
「本当に楽しかったからね」
「楽しくなかった?」
「楽しかったよ。本当に」
「じゃあ一緒だ」
「それ、見てもいい」
「もちろん」
「うわあ。字、細か」
「後輩ちゃんたちがこれを読んでくれるかはわかんないんだけどね」
「部室のゴミの山の中に埋もれるかも」
「ゴミじゃないよ。全部使えるものだって。ゴミでさえ使える」
「発想がゴミ屋敷の人のそれ」
「あ、そうだ」
「何」
「ここに今、298本のエチュード台本がある」
「多いな」
「2年半の集大成」
「その熱量がもはや怖いんだけど」
「実は先輩が書いていたものを受け継いだから、私がやってたのは1年分くらいなんだけど」
「そうだったんだ」
「そう」
「それでもすごいよ」
「えへへ〜。褒められちゃった」
「褒めてる褒めてる」
「でも、298本って微妙じゃない」
「確かに、あと2本あればって思うよね」
「だから、あと2本を今作ろうと思って」
「は」
「だから、あと2本を今作ろうと思って」
「ごめん、聞こえなかったわけじゃないんだ」
「今、作ろう」
「それがちょっとよくわからないんだけど」
「今、ここで」
「ここで」
「私たちが」
「私たちが」
「あと2本、エチュードをやろう」
「もう卒業したんだよな」
「今日はまだ在学生だもん」
「もんとか言わない」
「本当にやるの」
「本当にやるの」
「もう部員でもないのに」
「もう部員ではないけど」
「私たちはいつまでだって、演劇人だよ」
「いや、いつまでだって、ではないかもしれないけど」
「ね、やろう」
「どうしてもやるの」
「どうしてもやろう」
「わかった」
「やったあ」
[4場]
「それではまず1本目〜」
「そんなテンションで始めるの」
「え」
「いや、もうちょっとなんか、あるでしょ。感慨的な」
「だって時間もないし」
「それは、確かに」
「私たちに残された猶予は、外で若者どもが卒業だ〜! って騒いでいる間だけなんだよ」
「私たちも漏れなくその若者どもなんだけど」
「それでは1本目(以下、即興で。台本通りでも可)お題は〜」
「アリス・イン」
「さるかに合戦」
「よ〜い、はい」
「不思議なうさぎさんを追いかけてきたら、こんなところについちゃった。ここはどこ」
「おうおう、そこのお嬢さん。いいもん持ってんなあ」
「カニ。カニの方なの。カニが喋った」
「オラ、それを寄越せよ」
「突然のカツアゲ。っていうか、それって何。私何も持ってな」
「いただき〜。う〜ん、うまそうな豚まん」
「あ、どうしてわかったの」
「においでお見通しさ。電車に乗るときは気をつけろよ。豚まんがあるとき〜ははははは」
「豚まんがないとき〜」
「あ。ガガガガーン」
「そんなに落ち込む」
「と見せかけて豚まんがあるとき〜」
「あ。ちょっと、返してよ」
「残念でした。残念残念残念賞。もうお前の大事な豚まんはオレの腹の中」
「いや、それほど大事ってわけではないけど」
「残念賞としてこれをやろう」
「なにこれ」
「柿の種」
「カニのくせに」
「ちなみにピーナッツはすべて取り除いてある」
「お煎餅。植えても何にもならないじゃん」
「チッチッチ。これだから最近のガキはよお」
「何よ」
「本物の柿の種を植えて育てたものが、こちら」
「てれれってってってってん」
「そして実が生ったものがこちら」
「てれれってってってってん」
「そしてその柿を猿に独占された挙句投げられた青柿で潰れたカニがこちら」
「てれれってってってってってってってって、てってん」
「3分グロウイング」
「いやそのカニじゃないんかい」
「オレかい? オレぁ、あの猿が拾った柿の種のもとになる柿の生産者です」
「はい、そこまで〜」
「いや、世界観」
「うんうん、面白かったね」
「おかしいでしょ。なんでアリスとカニの世界に豚まんがあるの」
「おいしいじゃん」
「おいしいけども」
「いや〜、おもしろい話だったな〜。ちなみにこの後潰されたカニから生まれた子ガニたちと一緒に世界の猿を殲滅する旅に出るんだよ、アリス」
「アリス要素はどこにいったの」
「猿を統率する黒幕がハートの女王」
「全然理解できない」
「よし、書けた。さあ、じゃんじゃんいこう。次は〜」
「信じられないことにこれがまだ続くんだよな」
「第2幕、そうだな、じゃあ舞台だけ設定しよう。どこがいい」
「ええ」
「なんかないの」
「15世紀シルクロードの一角」
「じゃあ15世紀のシルクロードの一角で」
「通っちゃったよ」
「ところでシルクロードってなに」
「わかってなかったのかよ」
「アジアンドリーム的な」
「あじあんどりーむ」
「千夜一夜物語的な」
「アラジン的な」
「そんな感じ」
「理解」
「じゃあそれで。よ〜い、はい」
「やあそこのお嬢さん」
「いや、無視しないでよ」
「怪しい人間にはついていくなと教えられておりますので」
「怪しくない怪しくない」
「怪しい人はみんなそう言うものです」
「そんなことないって。ちょっと困ってるんだよ」
「あっちの」
「あっち」
「角を曲がってすぐ右手に」
「角を曲がってすぐ右手」
「交番がありますので、自首するならお早めに」
「しないよ、自首なんて。っていうか交番あるんだ」
「自治ギルドがあります」
「ファンタジー」
「酒屋のおっちゃんが棍棒で殴り飛ばしてくれると思いますので」
「暴力的だな。そうじゃなくてさ」
「まだいたんですか」
「冷たい視線に八つ裂きにされそう」
「さようなら」
「待って待って。ちょっとくらい話を聞いてくれよ。人助けだと思ってさ」
「人を助けられるほどの余裕はありませんので」
「私は世界を飛び回るタイプのスカウトマンでね」
「怪しさが臨界点を突破した」
「さっき見つけてしまったのさ。君という名の原石を」
「さようなら」
「人の話は最後まで聞こうね」
「きゃー、不審者ー」
「びっくりするほど棒読みだな」
「きゃー、不審者ー」
「ちょっと本気出すのやめて」
「それで何が目的なんですか。体ですか、金ですか」
「ふふふ、決まっているじゃないか」
「決まってないから聞いてんだよ」
「私と契約して魔法少女にならないか」
「ファンタジー」
「はい、そこまで〜」
「いや、どういう話よ」
「いいじゃんいいじゃん。こういうのもアリ」
「比較的ナシに近いと思うんだけど」
「気のせい気のせい」
「比較的いろんなところから怒られそうな感じにするのやめよう」
「気のせい気のせい」
(以上、ここまでエチュード)
[5場]
「よーし、できましたぜ親びい」
「誰が親びいよ」
「人を指さすんじゃない」
「ともかくこれで300本」
「すごい分厚い」
「これをここに置きまして」
「置いただけじゃ分からなくない」
「え」
「明日には捨てられるかも」
「いやいや、そんなことないって。世の中の演劇部のどこにそんな断捨離が大好きな人が」
「ここに」
「いたわ」
「でもでも、きっと我らが愛しの後輩ちゃんたちならそっとサッと察してくれるよ」
「こっちが愛しく思っていても、向こうはそんなことないかも」
「え」
「暑苦しい先輩たちなんて、本当は早くいなくなんないかな〜とか思ってたかも」
「あんなに予餞会で涙ボロボロだったのに」
「それはほら、その場の空気っていうか」
「そんなことあるもんかね」
「そんなことあるでしょ。私たちの時だって」
「確かに」
「まあでも、それはそれで運命よ」
「いいの」
「いいよ。これからのこの部活は私のものじゃないし。新しい時代がやってきたなら、古いものはなくなって当然でしょ」
「案外あっさりしてるんだね」
「そうやって時代は流れて行くのですよ。東京みたいに」
「何の話よ」
「古い街並みが消えた東京の方が、古い街並みを残した京都より繁盛してるよねって話」
「多方面に喧嘩を売りに行く感じやめよう」
「気のせい気のせい」
[6場]
「ともあれ、これで本当に終わりだね」
「終わりじゃないよ」
「終わりは始まり的なあれですかい。まあ確かに、卒業は新たな門出って言うけどさ」
「そういうことじゃなくて」
「じゃあどういうこと」
「終わりではないし、始まりでもないってこと」
「区切りは、大事だと思うよ」
「そうだね」
「ひと区切りついた、ここを終わりと定義する。そしたら新しいところに踏み出せる」
「そうだね」
「一歩踏み出すのはさ、怖いもんだよ」
「そうだね」
「それでも、ここは終わりじゃない。まだ途中だよ」
「幕は降りませんか」
「幕間、かな」
「幕間か」
「一度幕は降りても、必ずその続きが待っている。そういうものだと思うよ」
「意外といいこと言う」
「でしょ」
「確かに、終わりはないのかもね」
「自分が終わりだと思わなければ、終幕しないんだよ」
「主演は私」
「いいや、私」
「観客は」
「みんな。私も観客」
「この世は舞台、人は皆役者」
「お気に召すまま」
「好きだね、シェイクスピア」
「まあね」
「役者を辞めても、役者が続くんだよね」
「どういうこと」
「もし私が役者を辞めて、演劇を辞めても、この世の中で何かの役を演じて生きていく」
「あーね」
「あなたという役を」
「私という役を」
「誰もが何かを演じて生きてるんだよね」
「そうだね」
「私たちは、高校生という役が終わっただけで。これから先もまだまだ色んな役を演じていくんだろうな」
「そうだね」
「でも、高校生は終わったよ」
「だから、幕間」
「幕間」
「今は何者でもない私たちの、幕間」
「第二幕は、どうなるの」
「どうなるかなあ」
「決まってないんだ」
「続けるの」
「演劇を」
「大学でも、そのあとも」
「そのあと」
「続けるかもしれないな」
「おや」
「私という役を演じて、もっと他の何かを演じたくなったら」
「そうだね」
「続けるの」
「続けるよ」
「観に行くよ」
「あら」
「もしも、役者になれなくても、裏方にもなれなくても、観客にはなれると思う」
「お客さんも大変だよ」
「それでも、好きだと思う。ずっと」
「告白みたい」
「告白かもしれない」
[7場]
「あ」
「どうかした」
「外、もうすっかり夕焼けだ」
「あ」
「サッカー部、解散してるね」
「割と残ってる人もまだいるけど」
「そろそろ帰ろっか」
「そうだね」
「もうちょっとだけ、だめかな」
「いいよ」
「止められると思った」
「もうちょっとだけ、ね」
「楽しかったね」
「楽しかった」
「寂しいなあ」
「そうだね」
「いつまでもこの時間が続けばよかったのに」
「永遠なんてありえないよ」
「そうだけどさ」
「どこまでもどこまでも一緒に行こう」
「うん。僕だってそうだ。どこまでも一緒に行けたらよかったとは、思ってるよ」
「告白みたい」
「告白だからね」
「銀河鉄道の夜か」
「懐かしいね。最初にみた、先輩たちの劇」
「この辺にさ、残ってるんだよ」
「なにが」
「衣装とか、小道具とか。前に大掃除したときに見つけてさ」
「ほら、あった」
「今見るとわりとちゃっちいよね」
「まあね」
「それでも、舞台上では輝いて見えた」
「そうだね」
「私たちもきっと、輝いて見えてた」
「そうだね」
「今の私たちは、もしかしたらわりとちゃっちいのかもしれないけど」
「あ、夕陽」
「これが自然の照明ってやつかな」
「なにそれ」
「輝いてるよ。今だって」
「そっちこそ」
「ぼくはもう、あの蠍のように、ほんとうにみんなの幸のためなら、ぼくのからだなんか、百ぺん灼いても構わない」
「けれども本当の幸とは一体何だろう」
「私たちはさ、自分たちのために演劇をしてきたけど。これからも私たちのために演劇をしていけるのかな」
「どういうこと」
「高校演劇は終わったでしょ。高校生の作る演劇が終わったっていうか、なんだろ。点数をつけて競い合う演劇が終わったのかなって」
「どんな舞台でも、必ず誰かに点数はつけられるし、競べられるものだよ」
「そうだね」
「でも、きっと、楽しいから続けられるほど甘い世界でもないだろうなって」
「最近はね、大人たちも大変そうだし」
「もう成人してるから私たちだって大人です」
「高校生じゃなくなるから、まあ、見方によってはそうだね」
「お酒は飲めないけどね。でも、もう大人」
「昔に比べれば大人になるのも遅くなった方だよ」
「何時代の話してるの」
「江戸とか」
「大人になれるかな」
「なれるよ」
「断言するじゃん」
「世の中には子どものまま歳だけとったみたいな人はいっぱいいるけどさ」
「いるね」
「それでも括りは大人だし」
「そうだけど」
「私たちはさ、一応、役者じゃん」
「そうだね」
「役者は、色んな人を知ってるからさ。大人の演じ方も知ってるから。大人にはなれると思う」
「確かにそうだね」
「なれるといいな」
「違うよ。なるんだよ」
「何が違うの」
「受動的か、能動的か」
「能動的に動いたほうが、何かと楽しいもんね」
「じゃあ大人にも、能動的になったら、楽しいのかな」
「わかんない」
[8場]
「帰ろっか」
「そうだね」
「あ」
「なにそれ」
「なんだろう」
「これ」
「なに」
「台本だ」
「台本」
「何の」
「わかんない。でもなんか、見たことある気がする」
「ちょっと見せて」
「これ、先輩の字だ」
「思い出した」
「これ、私たちが1年の時の、秋大会の台本選定会で見たやつだ」
「ああ」
「残ってたんだ」
「残ってたんだね」
「結構隅々まで大掃除したはずだったんだけど」
「誰も気付かなかったんだね」
「正直、つまらないなって思った」
「私もそれ思った」
「だよね。ありきたりで、よくある話で、面白みなかったよね」
「うん」
「でもなんか、今見ると、感慨深いな」
「わかる」
「絶対これだけはないなって思ったよね」
「思った」
「でもなんか」
「なんかね」
「やりたいね」
「やろうよ」
「え」
「これ、なんか、丁度いいじゃん」
「確かに丁度いいけど」
「もう帰らないと、流石に怒られないかな」
「まだ大丈夫だって。これだけ。もうちょっとだけ」
「もうちょっとだけ」
[9場]
「それじゃあ、いくよ」
「うん」
「よーい、はい」
『あれ、きてたんだ』
『うん』
『終わったね』
『終わったね』
『楽しかった、よね』
『楽しかったよ』
『最初はあんなに嫌がってたのに』
『あなたが無理に連れてくるから』
『終わっちゃったなぁ』
『何にだって終わりはあるよ』
『突然いい事っぽいこと言い出すー』
『そんなんじゃない』
『大学は?』
『え?』
『大学はいくの?』
『いくよ』
『そっか』
『いくの?』
『え?』
『大学』
『あー、ううん。どうなのかな』
『何その返事』
『通信制だからさ。行くわけではないかなって』
『ああ、なるほど。あんまり変わんないよ』
『え?』
『大学、どうせほとんどオンラインだから』
『あー、そうだね。まあ、今はね。学校来るなって感じだったし』
『ね』
『卒業式だけ、来れてよかったよね』
『そうだね。卒業式、ではなかったけど』
『どうするのかとは思ってたけどね。まさか校内放送とは』
『ちょっと面白かったけどね』
『確かに。なかなかないからね』
『ね』
『ねえ、なんで今日、ここに来たの?』
『それ私のセリフなんだけど』
『私は、なんだろ。なんか、ノリで?』
『私もノリだよ。別に、なんとなくだし』
『そっかー』
『楽しかったね。高校生』
『あっという間だったけどね』
『ね。もうちょっと長くてもよかったんだけど』
『いや、それはちょっと』
『えー』
『でもなんか、実感湧かないなー』
『卒業式なのにね。卒業証書は郵送します、って人生で初めて聞いたんだけど』
『ね。せめて担任が渡すとかするのかと思ってた』
『今日来た意味ーって感じ』
『最後にみんなで会おうみたいな会だったんじゃない? 一応』
『会えた?』
『特に話をすることもなく解散しましたが何か?』
『ぼっちー』
『ぼっち言うな』
『卒業かぁ』
『卒業だね』
『ねえ、やろうよ』
『何を?』
『卒業式』
『は?』
『卒業式。やろうよ。今、ここで』
『卒業式って、いや、ここ部室だし。私たちしかいないし』
『だからこそだよ。最後の部室だよ? 高校生も今日が最後なんだよ? そしてここは部室。演劇部の部室! きっとこの辺に、卒業証書っぽいものもある!』
『いや、筒はあっても紙はないでしょ』
『じゃあ作ろ』
『今から?』
『今から!』
『だめ?』
『仕方ないなぁ』
『でーきた!』
『こっちもできた』
『じゃあ、最初は……なんだろ。入場?』
『その辺は飛ばしていいでしょ』
『そっか。じゃあ、卒業証書、授与! ◯◯◯◯さん』
『はい』
『あなたは、雨にも負けず、風にも負けず、雪にも、夏の暑さにも負けず』
『宮沢賢治?』
『とりあえず、よく頑張って高校を卒業しました! はい!』
『雑だなぁ。はい、ありがとうございます』
『◯◯◯◯さん』
『はい』
『卒業、おめでとう』
『意外と嬉しいもんだね』
『雰囲気ぶっ壊しやめろよ』
『えへへ』
『あと、何やるんだっけ?』
『校長先生の話とか』
『長いからパス』
『送辞と答辞?』
『在校生も生徒会長もいないからパス』
『校歌斉唱』
『覚えてないからパス』
『国歌斉唱?』
『それ比較的最初にやるやつじゃない?』
『そっか』
『あとなんだろ』
『じゃあ、私から、お話しがあります!』
『突然だな』
『ん゛ん。えーとね、これまで、高校生になるまでも、高校生になってからも、いろんなことがあったね。その度に、いっぱい悩んで、時には喧嘩とかもして、なんだかんだ、ここまでやってこれました』
『うん』
『だからね、その、これまで、本当にありがとう』
『こちらこそ、ありがとう』
『これから、どういう道に進むのか、自分でもわかんないし、決めたこともやり遂げないで辞めるとか、そういうのもあると思うんだけど』
『ありそうだね』
『酷いなぁ。……でもね、でも、絶対、高校生の、この3年間は、ずっと、宝物だと思う』
『うん。私も』
『どこまで行っても、絶対忘れないとは言えないけど、でも、大切にするよ』
『私も、大切だよ』
『えへへ。いつかまた、みんなで集まれたらいいね』
『舞台の上で?』
『それいいね! 舞台の下でもいいけど』
『宣誓! 私たちは、今日、高校を卒業しました。だから、これから、どれだけ大変でも、求めているところじゃなくっても、夢なんて叶わないかも知んないけど、でも、ちゃんと、生き抜くことを、誓います』
『体育祭みたいじゃん』
『確かに』
『じゃあ私も。宣誓! これから先の未来が、なるべくキラキラしているように、能動的に、楽しむことを誓います』
『それ私も誓う!』
『いいよ。じゃあ、せーのね。せーの、』
『『宣誓!』』
『えへへ。じゃあ、帰ろっか』
『うん。帰ろう』
[10場]
「はい。おつかれさまでした」
「おつかれさまでした」
「これ、どうするの」
「え」
「この台本」
「エチュードにしちゃおっか」
「え」
「これにさ、一緒に挟んでおこう」
「いいと思う」
「301本になっちゃったね」
「ちょっと微妙かも」
「いいんじゃない。きっとまだ増えるよ」
「そうだね。そうだといいな」
「そうだよ」
「じゃあ、帰ろっか」
「うん」
「これにて第一部、幕。ってね」
「突然いい感じに締めようとするー」
「だって。何にだって終わりはあるよ」
「途中の終わりね。今は幕間」
「そうだね」
「終わっちゃったなぁ」
「楽しかったよ」
「楽しかったよね」
「終わったね」
「終わったね」
「じゃあ、さ」
「またね」
「うん、また、舞台で」
「うん」
「「お疲れ様でした」」
—幕—
よくある卒業の話。
引用:
ウィリアム・シェイクスピア『マクベス』
ウィリアム・シェイクスピア『お気に召すまま』
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
宮沢賢治『雨ニモマケズ』
より。




