裏切りの代償
ミート・スナワチ。商店街の通りに並ぶオーク学園の生徒達に人気のある肉屋だ。
美味いしボリュームもあり値段も安い。
特に一個五十円のメンチカツは生徒にもバカ売れだ。値段のわりに大きくてかなり美味い。だから揚げたてが店頭に並べばあっという間に完売してしまう。
育ち盛りで、貧乏一直線の学生には、有り難すぎる存在だった。
しかしここで疑問が生じる、何故ここのメンチカツはこんなに安いのか?
一個五十円では赤字になるのでは? 味の秘訣はどこにあるのか?
とはいえ考えても仕方ない、だったら値段相応ならば納得するのか。
いや、そうではないだろう、誰もが安さに満足してるのだ。結局のところ、安いのに理由付けなどいらないから。
陽も暮れようとしていた。
昼間はあれだけ暖かかったのに、この時間になると少しばかり肌寒く感じてくる。
誰もが身体を丸めて、足早に通学路を下校していた。
スナワチの裏手には、小さな公園がある。
公園といっても形ばかりのもの。ベンチが数個あって、水飲み場と公衆トイレがあるぐらいの簡素な場所だ。
多くの学生はそこでメンチカツを食して、立ち去るのが通例となっていた。
故に普段ならば、興味を持って、そこに立ち止まることなどなかった。
しかしその日だけは違った。
多くの学生が、怪訝そうにその場に留まっていた。
「なんだよウチの一年生だよな」「それにしても酷いよな。食欲もなくなるぜ」「酷い異臭」「しかしここに書いてあるのって、マジなのかよ」誰もがそれに釘付けになり、本来の食べる目的さえ忘れている。
「おめーら、邪魔だ」
その空間に、数人の生徒達が雪崩れ込んできた。
その先頭を仕切るのは的場。まだ入学式でのダメージが残っているらしく、額には包帯が巻かれている。
そしてその右手にはメンチカツが握られている、この男もスナワチのファンだ。
「これは……」
そして眼前に広がる光景を見て絶句した。
『ウチのメンチカツは、トサツ処分した豚を百パーセント使用しています。キロあたり十円。ウンコの臭いが隠し味です』
その制服に貼られた、書きなぐられた文章には、その場の誰もが吐き気を覚えるのに充分だった。
……俺達はこんな肉を食らっていたのか。想像したくはないが、どうしても脳裏に浮かんでしまう。
もちろんそれは誰かが流したデマに過ぎない。いわゆる怪文書、ただの悪質な悪ふざけ。
「どうしたんだ、大クソモラシ!」
それでも的場、ぐっと真顔になって問い質す。
しかし返ってくる返事はない。
トイレの壁面には、巨大な生徒が張り付けにされていた。
両腕を縄で縛られて、傍らの樹木に吊し上げられていた。
異様なのはその有り様だ。察するに、何者かと激しい死闘を演じていたのだろうが、着込むブレザー型の制服は血と埃と泥でグチャグチャだ。
完全に意識を失って、項垂れている、ポタリポタリと滴る血が、地面をどす黒く染め抜く。
名は体を表すというが、例に漏れずウンコを漏らしている。
大具足虫忠太だった。