その先のステージへ
翌日の放課後。
穏やかな空気が包み込んでいた。
多くの生徒で活気溢れる校舎中庭を、シュウが歩いていた。
その後方から、夏樹がひとり歩いてくる。
「よお、シュウ」
そしてシュウの姿に気付き、呼び止めた。
「はぁ?」
足を止めるシュウ。振り返り夏樹を待つ。
「色々大変だったな」
夏樹がその肩を叩いた。
「バーカ、てめぇ程じゃねーよ」
こうして二人、肩を並べて歩き出す。
「……珍しいな、お前がガッコー来てるなんて」
「まぁね」
「どうせ、出席日数足んなくなりそうなんだろ?」
冷ややかな視線を向けるシュウ。
「あはは。やだからね、留年してお前らの後輩になるのは」
飄々《ひょうひょう》と笑う夏樹。言葉とは裏腹に、留年など気にもならないようだ。
「へっ。一弥共々、留年すりゃいいのによ」
「おいおいシュウ、あんな切れモンと一緒にするなよね」
堪らず返す夏樹。
「どっちもどっちだろ?」
「まぁ、そんなこと別に構わないけどね」
「……まったく軽いな」
サバサバと話し込む二人。そしてどちらともなく無口になる。
「……どうだったのさ、シュウ。後輩を潰した感想は?」
口を開いたのは夏樹の方。少しばかり憂いの籠る、神妙な口調だ。
「別にいちいち気にはしねーよ。そんなんじゃ身体が持たねーからな」
それをシュウは、あっさりと一蹴する。
一方の夏樹も特には深く追求することはなかった。互いに内なる感情は同じだと感じていたのだ。
「ひとつだけ訊いていいか?」
遠くを見つめるシュウ、視線も向けずに訊ねる。
「なんだい?」
同じく遠くを見つめる夏樹。
「あの大友って小僧のことだ。……全治三ヶ月ってのは嘘だろ?」
一瞬の沈黙。夏樹が後頭部を撫でた。
「だって仕方ないだろ。そうでも言わなきゃ、ジョーさんが納得しない」
そしてあっさりと言い放つ。
「それにあいつ、俺達が制裁しなくても、勝手に潰れていたんだ。……あばら骨を数本骨折しててね」
「勝手に潰れていた?」
「他の一年から訊き出したんだけど、自分で拳を打ち込んで骨折したんだって。タカッシーとかって仲間を制裁するふりして、本当は自らの脇腹に拳を打ち込んだんだって」
「あの中坊をか?」
「そうその中坊。お陰であいつは、ジョーさんからの制裁は免れた。……それで懲りたんじゃないか? 自分の調子こいた台詞を。そのせいで誰かが傷付く、大切な仲間にも迷惑かけるって。だから自ら退学届けを出した」
「そんな単純な問題か? あの手のコゾーは、大人になっても生き方は変わらねーぞ。その場のノリだけで後先考えず、馬鹿な動画を撮って、自ら拡散させて、世の中からドロップアウトしてく運命だ」
「そう言うなって。そう思うのが、せめてもの救いじゃん」
「どっちでもいいがな。……つまり全てはあの大友って小僧の悪知恵と、てめーの浅はかな思惑通りって訳だな。そうすりゃあの熊オヤジも納得するだろうしな」
「嫌味な言い方だな。別に俺達は口裏合わせした訳じゃないし、たまたま結果としてそうなっただけ」
世の中には様々な噂が流れているが、その全てが真実とは限らない。
ある種の思惑があって、わざと湾曲されて流れることもある。
その根底にあるのは、仲間としての思い、そして先輩としての僅かなる優しさだ。
「とにかく一年生達の立場は変わらないだろうね。問題はまだまだ山積してる」
「そろそろ永瀬も退院するそうだし、北条も復活のチャンスを窺っているってし」
「俺達がどうするって話でもないけどね」
校門付近では、数人の若者達がたむろっている。
それは夏樹を待ち構えるキティホークのメンバー達。その誰もがシュウ目掛け鋭い視線を放っていた。
「じゃあーね、シュウ。仲間が待ってるからここで」
その方向に歩み出す夏樹。
「バーカ、早く帰っちまえ」
その背中にシュウが吐き捨てた。
こうして夏樹は仲間を従え消えていく。
辺りは穏やかな空気に包まれていた。優しい陽射しが降り注いでいる。
『夏樹、てめぇも辛かっただろうな。俺だって拳がいてーよ』
それをシュウは、腕をかざして見上げる。
「大変だって! 鳴神が決闘するってよ!」
その空気を切り裂くように、誰かが言った。
それと同時に大勢の生徒が駆けてくる。
「ルカが決闘? ……見てみてーな。相手って誰さ?」
「相手はなんと、宅ちゃんだってよ」
「らしいな。倶楽部の連中、大勢率いて、ピクニック気分で公園に移動してるってよ」
「それって本当かよ。まさか猿飛なんかも参戦するんじゃないだろうな?」
「さあ、そこまでは俺も? ……だって今は昼間だしな」
「奴は現れねーんじゃねぇか。相手は鳴神と赤城のたった二人だろ。高見の見物でも決め込む気だろ?」
「とにかくこんな対決、滅多に見れねーべ。バケモノVS闘神ってもんだぜ」
学園抗争は、中盤に差し掛かろうとしていた。
倶楽部副会長・佐藤ゴン太の敵討ちとばかりに、学園の主、宅ちゃんが動き出す。
対するは鳴神統、通称ルカ。及びその配下赤城蓮、通称グレン。
宅ちゃんとルカ、共に凄まじい能力を秘めた男だ。その争いは熾烈を極めるだろう。
幾多の強者共が敗れ、新たなる強者が現れる。こうしてキングダムオークの歴史が紡がれていく。
それこそが修羅の荒野だから。
鬼の学年、最強の二年生が動き出すのは、時間の問題だった……
この物語は『修羅の荒野』の一部です。
1年生頂上決戦に特価したストーリー。
続きは『修羅の荒野』にて。
なお『桜咲イノリ、上等です』ってのもよろしくお願いします。こっちは女子高生が主役




