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修羅の荒野~悪夢の入学式、再び  作者: 成瀬ケン
最終章 吉沢蒼汰
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拳ひとつの生き方


 白く煙る風景に、衝撃音が鳴り響く。

 弾け飛ぶ水飛沫みずしぶき、滲む血液。



 持って生まれし宿命とは残酷だった。


 シュウは“魔王”と渾名されるように、凄まじい腕力を保っていた。

 しかも、痛みを脳内麻薬でコントロールさえ出来た。


 生まれながらの、いや咎人とがびと故の宿命だ。



 しかし対する蒼汰は違う。強さに憧れて、無理にツッパるだけの十五歳。どこにでもいる普通の少年だった。


「なんでだよ? なんで当たんねーんだ!」

 ヨロヨロと力なく拳を放つ蒼汰。しかしそれは虚しくも空を切る。


「…………」

 対するシュウは、無言でそれを避けきる。


「俺はもう“負けられないんだ”。なにも失いたくない……」

 それでも拳を放つ蒼汰。


 適わなくても逃げられない、忸怩じくじたる思いがシュウにも感じ取れた。



 なんとなくだが分かっていた。蒼汰がルカに勝負を仕掛け、あっさりと打ち払われただろうことは。


 朧気おぼろげだが分かっていた。どうして蒼汰は、ここまでして闘いを挑んでくるかを……



 それでも、いやだからこそシュウは、蒼汰の挑戦を受けたのだ。


「俺にはなにもなくなった。須藤も倒された……俺達一年生は、生きる意志を削がれた」


「……意志を削がれただぁ?」

 刹那シュウが右手で、その拳を受け止めた。


「……ぐっ」

 それを悔しそうに見つめる蒼汰。


「下らねー台詞、ほざくな!」

 その頬をシュウの拳が捉える。


「くっ」

 ヨロヨロと後ずさる蒼汰。それでも倒れまいと必死に踏ん張る。


「そんな台詞吐くなよ。お前には志織ちゃんがいるだろ?」


「志織は奪われたんだ!!」


 言い放つシュウの台詞を、怒りの感情で掻き消す。


 消えそうだった闘気を再び爆発させて、狂気に睨みつける。

 空気が共鳴して、水滴が舞い上がった。


「志織は鳴神に奪われたんだ。俺が負けたから、『敗者に女は必要ない』って。……『女を返してほしくば、シュウと一戦交えてみよ』って……」

 飲み込まれそうな狂気を、歯を噛み締めて必死にコントロールする。


「成る程。やっぱりあいつらしいわな」

 それでシュウも、蒼汰の怒りの原因を理解した。呆れたように額に手をあてた。


「だから、俺は負けられねーんだ!」

 その頬を蒼汰の拳が貫く。


 シュウの顔面が激しくゆがみ、水滴と血が弾けた。


 それでもシュウは動じない。グッと左腕を突き出し、蒼汰の胸ぐらを奪った。


 はっとする蒼汰。雄大な腕だ、憧れた先輩の力強さが感じ取れる。



「残念だな小僧。今のおめーじゃ、俺は倒せないぜ」

 堂々たる台詞だ。


 蒼汰の表情が様々な感情で歪む……



「せめてもの手向たむけだ。最後は俺が決めてやるよ!」

 そしてシュウが右拳を打ち放った。


 全ての怒りや悲しみ、絶望や恐怖を打ち破るように。






 蒼汰はまどろみの中にいた。


 おぼろに響くシュウの声。それが何故か心地よく感じていた。


『……シュウ先輩。俺はあんたの背中をずっと見てたんすよ。雄大でデカい、あんたの背中を追いかけていた。叶わないこととは理解してた、閉ざされた夢だと言い聞かせていた。だけど、だからこそ、いつかはあんたと、あの先に広がる光景ステージを見たかった』



 最初から理解はしていた。


 言葉など無意味だということは。


 蒼汰はシュウの背中を見つめて、それに憧れて、そして絶望した。その全ては黒瀬修司という生き方だ。


 拳ひとつで敵を叩き潰し、拳ひとつで多くの仲間を作り上げてきた。

 だからそれに終止符を打つのも、拳ひとつだと。



 それが、それだけが、全ての怒りと悲しみ、そして絶望と恐怖を打ち破る手段だから。


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