表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/28

始末!



 国道から一本隔てた通り沿いに、一軒のコンビニがある。



 そこにシュウの姿があった。ここはシュウのバイト先だ。



「はぁ~。今日はやけに族共が走ってるなー」

 レジカウンターの片隅、二十歳程の店員がため息を吐く。


 通称“モーリー”、アキバ系のコスプレオタクだ。


 店内からは隣接する道路が見える。先ほどから幾度となく行き交うバイクの姿が見えていた。



「そうっすね」

 それに同意するシュウ。


 それでもその表情は覚めたもの。だいたいの理由は分かっていた。その日学園では、朝から大友達ルーキーズの話題で持ちきりだった。


 大友達のグループは、先日から行方知れず。

 キティホークの面々も、午後には全て早退していた。


 その理由を誰も口にはしないが、誰もが知っていた。キティホークによるルーキー狩りが開始されたのだと。



 扉を押し開き、数人の若者が入店してきた。

 シュウ達は「いらっしゃいませ」とマニュアルに沿って挨拶する。



「いゃーすげーな。どこもかしこもキティホークで一杯だぜ」

「ホントだぜ。週末でもねーのにどうしたんだべな?」

「パーカーも出てっけど、無視だもんな。気合い入れすぎだって」

「流石はキティホークじゃねぇ? 族なんて時代遅れもいいとこだけど、あそこだけは別格だよ。この勢いで神奈川制覇は間違いねーぜ」

「だけどそれにしてはあいつら、連むでもなく違反するでもなく、なんか街中を偵察してるみたいだったな」

「だからこそ、コエーんだべ? 不気味過ぎんぞ」

 口々に呟きながら店内を物食する。



「キティホークだってよ。確か半年ほど前に、ガキが立ち上げたチームだな。最近メキメキと力を付けてきた」

 その様子を横目で窺いながら、モーリーが情報通を気取って、得意気に言い放つ。



「ええ、同じガッコーの奴なんですよ」

「えっ、シュウの知り合い? ……ゴメンな、ガキなんて言って」

 しかしそのシュウの返答で、あたふたとテンパった。


 この男、いつでも調子ばかりのハッタリ野郎だ。


『悪い奴はだいたい友達』という割には、ヤンキーが来店するとその姿を隠す。

『俺は学生の頃は有名人だったんだぜ』という割には、ほとんどの者はその本名を知らない。


 ってか誰も興味ない。バイト先の先輩でなければ、シュウに即殴られているだろう。



 ヴォーーン! 遠くでバイクのエキゾーストが響き出す。


「この直管の音って?」

 聞き耳をたてるシュウ。


 聞き覚えのある音だ、それは徐々に大きくなってくる。



 やがて隣接する道路に三台のバイクが現れた。その誰もがキティホークの白い特攻服を纏っている。


 中央部で構えるのは、長い金髪の生え際を編み上げた華奢きゃしゃな男。

 族とは思えぬ程、端正で爽やかな少年だ。


 そして跨る単車は、Kawasaki・Z400FX 。信号待ちで、飽き飽きそうに首を鳴らしていた。



「先輩、ちよっとすんません!」

 すかさずレジカウンターを飛び出すシュウ。


 その背中にモーリーがなにか言い掛けるが、完全無視。足早に店を飛び出していく。




 店の外は暗闇が支配している。


 ここは閑静な住宅街、辺りに大きな店舗はない。

 所々に設置された街灯に、木々の緑だけが萌えていた。



 信号は点滅し始めている。


 キティホークの面々は誰もが無言だ、酷く神妙そうな面持ち。


 小刻みにアクセルを吹かして、走り出そうと体勢を整える。



「夏樹!」

 それにシュウが投げ掛けた。


「……?」

 金髪が視線をくれる。


「シュウ?」

 呆然と呟いた。






「やっぱ、そうか」

「そういうこと」

 暫く後、コンビニ駐車場片隅に、シュウと金髪の姿があった。


 他に人影は皆無。他の面々は先に行っていた。



「……ま、やりすぎちゃったのよ。ウチらとしちゃ、始末は付けなきゃいけないんだよね。なんせ十数人で、エモノまで使ってだろ? しかも義理を欠いて、早々とバックレちゃってさ」

 空を見つめて悠然と煙草の煙を吐き出す金髪。


 “夏樹大和なつき やまと”。オーク学園の二年生で、キティホーク初代総長でもある男だ。



「やんなるよな。勝治にはそこそこ期待してたんだぜ。俺の後釜とはいかなくても、“いい兵隊”としての資質はあったのにさ」

 項垂れてさばさばと頭を振る夏樹。煙草の煙が虚しく宙に舞う。



「潰すのか? あいつらルーキーズを?」


「相楽って一年坊は見つけた。制裁をくわえようとしたけど止めた」


「なんで?」


「あの小僧、ジョーさんとのバトルで気持ち折られてんだもん。今さら制裁くわえたって意味ないじゃんよ」


「ジョーさんって、あの熊オヤジだよな? 確かにあいつと一戦交えりゃあ、びびってヘコむわな」


「おいおい、ジョーさんはウチの総長補佐だぞ? ……熊オヤジって、いいネーミングじゃん」


「おめーが言うか? 相変わらず軽い性格だな」


 そして二人笑う。


 黒瀬修司と夏樹大和。


 学園内、いや市内で噂されている話では、熾烈な仲と言われているが、実際はそうではなかった。


 仲良しという訳ではないが、たまに出会えば挨拶ぐらいはする。互いにその実力を認めあっていた。



 もちろん人間の感情など、一言では表せない。内に秘めた感情は、本人以外は知らないことだが。



「そういゃあ、お前のクラスに、新しい転校生が来たようだな。鳴神とかって奴」

 シュウの表情を、横目でチラリと窺う夏樹。


「まったく、やんなるよ」

 堪らなそうに頭を掻くシュウ。


「最強か、お前が一番嫌いな台詞だな」


「まぁな……」


 実際には矛盾はあった。


 最強という称号、それはシュウの目指す所でもあった。

 少なくとも三年前までは、それを追い求めていたのは事実だ。


 だが今の彼は違う。

 

 その体に流れる熱い意志を曲げても、求めるべきは“穏やかな日々・穏やかな老後”だった。



「どうするのよ? お前が無視してても、鳴神、それに葛城とかは黙っちゃいないだろ? ……それに一番厄介なのが宅ちゃんだ」

 神妙な面持ちの夏樹。


 確かにそうだ。シュウが一線引いても、校内には容赦しない荒くれが乱立している。


「俺様は俺様だ、それは誰にも邪魔はさせねー。……んなことより、おめーはどうする気だ? 噂になってんぞ、オーク最強は夏樹だって」


 校内では様々な憶測がなされている。


 オーク学園で、本当の意味で最強は誰か? 統一するものは現れるのか?


 その筆頭のひとりが、夏樹大和だった。


 学園に入学してからメキメキと頭角を表して、市内で最大規模の暴走チームを作り上げた男、夏樹大和。


 誰もがその強さを認め、誰もが同じくらい脅威を抱いていた。



「うーん、俺も興味ないね、てっぺんとか覇権とかって」


「いいのか? キティホーク総長がそんなこと言って」

 見透かすような視線のシュウ。


 因みに彼もその一角に名を連ねている。


 しかし現地点ではその可能性はゼロに等しい。何故なら彼は、現在派閥を持たない。


 群れを嫌う一匹狼は、イレギュラー程度にしか見られないから。



「16号の覇者とか、神奈川の覇権ってか? あれは完全なるデマだな。ジョーさんとかが、大袈裟に騒いでるだけだよ」

 しかしそれを夏樹はあっさりと否定する。


 もちろんそこに真意はないだろう。火のないところに煙はたたない。それなりの裏付けはある。


「……そうか」

 そして対するシュウもあっさりと納得する。


 全てを信じる訳じゃないが、今はそう思うのが適切だと感じた。



 不意に夏樹のスマホ着信音が鳴り出した。


「ああ、俺だ」

 すかさず耳にあてがった。どうやらチームメイトのようだ。


「……そうか根岸か。……あのコンビニの近くだな……」


 こうして淡々と会話する夏樹を、シュウは無言で見据える。



 カチカチと街灯の光が揺らめいた。


 辺りには数匹の虫が飛び交っている。本能のまま光に導かれ、ゆらゆらと戯れている。


 そしてその真下には、ピクリとも動かぬ屍の姿。それがこの世の儚さを表すようで哀れだ。



「分かったすぐ行く。俺が行くまで手は出すなよ」

 そして夏樹が電源を落とした。


「いたよ、中坊ん時の連れんとこに潜んでやがった」

 言って笑う。引きつったようなぎこちない笑い方だ。


「おめーが叩き潰すのか? ……その手で」


「ああ、俺が引導をくれてやる。ケジメだ」


 ゆっくりと立ち上がると、FXに乗り込んでセルを回す。


 そこにさっきまでの和やかさは見えない。鋭い視線、真一文字に結んだ口元、キティホーク総長の表情だった。



「シュウ。……ルーキーズってメンバーには、確か帝中出身の奴もいたよな?」

 シュウに背を向けたまま訊ねる。


「ああ、吉沢だな」


「一年共はこれからが正念場だ。……勝治はもうダメだろ。俺が調子にのらしちまったから。お前の後輩は、大事にしろよ」



 闇夜にエキゾーストが響きわたる。そして夏樹は消えていった。



 その背中が、シュウには泣いているように感じた。もどかしいような、堪らない感情で。



 だけど同時に、そんな感情に一切意味がないのも理解はしている。


 先に生を受けた存在として、巨大な組織を引っ張る要として、なによりひとりの男として、全ての始末を着ける義務があったから。







 翌日、大友勝治は学園抗争から戦線離脱する。


 全治三ヶ月、壮絶な制裁を窺わせるその現場は、見るものの吐き気をもよおす程だったらしい。



 対する夏樹大和は無傷。



 改めてキティホークの結束力と、夏樹の強さを物語るに相応しい出来事だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ