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修羅の荒野~悪夢の入学式、再び  作者: 成瀬ケン
第二章 暴走する狂気
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有名になるには対価が必要



 しかしシュウや蒼汰の杞憂きゆうも虚しく、大友一派の強行は益々拡大していく。



 三年生がルーキーズの勢力に飲み込まれるのは、時間の問題だと思われた。




 だが勢いと言うのは、永くは続かないものである。



 どんなに勢いがあろうと、それは徐々に終息していく。周りに神童と持てはやされても、やがてはだかる壁にぶち当たる。

 全ては時代の流れであって、永遠などという概念は存在しない。


 盛者必衰のことわりは、ここにも適用されていたのだ。





「ハァハァハァ……。嘘だろ? なんで倒れないのさ?」

 そこはとあるゲームセンター。相楽がゲームの筐体に背を預けてガタガタと震えている。



「グガァー! なめんなやクソルーキー共があーーぁ!」

 その視線の中央では、三年生らしきガタイの良いボーズの男が奮戦していた。


 背中に三人の一年生がしがみついているが、少しも動じない。


 それを遠巻きに見つめるのは、数人の一年生。

 その誰もが身体になんらかの怪我を負い、恐怖に怯えるように立ち尽くしていた。


「助けて下さい、俺はなにもしちゃいないんです」

 ボーズの憤怒の視線が捉えるのはタカッシーの姿。

 そこにいつも通りの調子良さは、少しも見えない。ガクガク震えて、床に尻を着いて後ずさっている。



「なにもしちゃいないだと。だったら俺の聞き間違いか? 貴様、上杉と北條をぶち殺したのは自分だって、あちこちで吹聴ふいちょうしてるらしいじゃねーか。しかも最近じゃ、魔王に出会って、無傷で生還したとか」

 その襟首を、ボーズがゆっくりと絡めとる。


 そして目の前に引き上げてさらした。



「それは言葉のあやで。……仲間にやれって言われて、俺は仕方なく」

 涙目になるタカッシー。


 得意のハッタリは出尽くした、この男にハッタリは通用しない。心からの弁明の言葉だった。



「なんでも人のせいにする気か? 確かにそれが、世の中を渡る一番最良の方法だよな。だけど奴らに手を下したのは本当だよな。既に勝敗は決したってのに、エモノを使って、無慈悲にも」


 既に言い返す気力もなかった。

 その股間から湯気が立ち昇る、ぽたりぽたりと水滴が滴っていた。



「無様だな。仲間がいなきゃ、ハッタリも言えないか。正直、その手の小僧が、一番好かねーんだよ!」

 それでもボーズは許そうとはしない。


 その顔面に、強烈なる右拳を叩き込む。更に数発、小刻みな拳を打ち込んだ。


「ギャー! 誰か助けてー! ギャーーー!」

 辺りに響き渡る激しい悲鳴。


 一年生達が後方から羽交い締めして、それを阻止しようとするが、それさえお構いなしだ。



「大袈裟だな、なんちゅう軟弱な奴だ。……まぁいいだろう、殺すのだけは勘弁してやる。二度と俺の前に姿を現さんことだ」

 やがて満足したか、それを無造作に投げ捨てる。


 タカッシーは辛うじて意識があった。ほうぼうの体で、その場を逃れようと必死に床を這いずる。


 その姿を見つめて、さばさばと頭を振るボーズ。


「てめーらも、いい加減俺から離れやがれ!」

 身体をねじって、羽交い締めする一年生を、次々と投げ捨てていく。


「ふははは! 俺は気の強い後輩は嫌いじゃない。だけどよ、十数人集まってこのざまかぁ?」

 そして体中傷だらけの我が身もかんがみず狂気に笑う。滴る血のりを舐めて余裕の表情だ。



「マジかよ!? いくらなんでも、ここまで差があるなんて」

 それが相楽の脳裏に強烈な感情を叩き込んだ。

 ガクガクと震えて、どうしてこうなったと、改めて悔いた。


 きっかけは些細なことだった。いつまでも麻雀ゲームに興じるボーズに、調子に乗ったタカッシーが難癖つけたのだ。



 それが間違いの始まりだった。


 ボーズの強さは、一年生の予想の域を、遥かに越えていた。


 倒しても倒しても、また新たな猛者が出没する、オーク学園の層の厚さに、今更ながら恐れを抱いていた。



「これで終いだと思わないことだ」

 その首筋が、ボーズによって壁際に押し付けられた。


「ひっ!」

 恐怖と絶望から、顔面が蒼白になる相楽。


「相楽拓也、だったよな。嬉しいだろ、これ程有名になってよ。この俺に喧嘩を売る度胸までつけるんだからな」

 不気味に笑うボーズ。

 それでもその瞳の奥に浮かぶのは、深くて底の見えない憤怒の影。



 相楽はなにも答えない。いや、恐怖で声が出ないのだ。


「拓也!」

「拓也を離せ、クソ野郎!」

 仲間達が再びボーズの背中にしがみつく。


「雑魚がくっ付くなよ!」

 しかしボーズはそれを右手であっさり払った。


「だけど勘違いするな小僧。有名になるってことは、それだけのリスクを伴う、それなりの対価も必要なんだよ」

 そして躊躇ためらいもせず、相楽の顔面に右拳をぶち込んだ。


「ガハッ!」

 相楽の頬に激痛が走った。今まで感じたことのない、強烈な痛みだ。


「別に、同情するわけじゃねーけどよ。お前らが潰してきた、永瀬、北条、上杉、武田の痛みも感じろや!」

 それでもボーズは拳を穿ち続ける。


 タカッシーに叩き込んだ拳よりも、更に重くてキツい拳だ。


 相楽の顔面が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。それでも成す術は持たない、まるでサンドバッグ状態。



「オウ、どうしたんだ! 拓也とタカッシーがヤバいって!?」

 その店内に大友が走り込んできた。


「カッちゃん、助けてくれ! 俺、殺されそうになったんだ」

 その足元にタカッシーがすがり付く。


「あぶねーよ、あいつハンパねー喧嘩慣れしてんだよ」


 どうやら大友は、仲間からの連絡を受けて慌てて駆けつけたようだ。


「へっ、誰だよそのヤバい野郎って」

 ゆっくりと店の奥めがけて歩き出す。


 薄暗い室内、倒れ込む仲間達、散らばった椅子、歪んだゲーム筐体、それらが争いの壮絶さを顕にしていた。


 そしてその中央部で立ち尽くすボーズに視線を注ぐ。



「……え?」

 その瞬間、その顔から血の気が引いた。

 立ち尽くしたまま、微動だにしない。


「カッちゃん、あいつだよ。俺の仇を取ってくれ!」

 それをタカッシーが捲し立てる。


「カッちゃんだとぉ?」

 その一言でボーズも突然の来訪者に気付く。

 拳を止めて視線を向ける。


 その拍子に相楽の拘束が解かれる。口から血を滴らせて、床に這いつくばった。



「はが……たふけて……カッちゃん」


 助けを求めて床を這いずるが、ボーズはそれを許さない。

 その背中を左足で踏み締めて、再び拘束した。


「チッ 、左手の感覚がおかしいぜ。ヒビでも入ったか」

 どうやら一年生達との激しい抗争で、腕に怪我を負ったらしい。

 それでも口元に浮かぶ笑みは健在。



「しびれんな、あいつ腕がイカれてんだってさ。ラッキーじゃん、拓也を助けようよ」


「あ……ああ」

 しかし、大友は動かない。

 心ここにあらず、といった状況で、戸惑うようそれを見つめるだけ。


「どうしたんだよ、カッちゃん? カッちゃんなら、あんな奴楽勝だろ? マジで殺しちゃおうよ」


「クソガキが、喚いてんなや!」

 それを遮るようにボーズが吠えた。


 その迫力に圧倒され、黙り込むタカッシーを余所に、ポケットから煙草を取り出して火を点ける。


「そいつは動かねーぞ。……だよな勝治?」

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