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修羅の荒野~悪夢の入学式、再び  作者: 成瀬ケン
第二章 暴走する狂気
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ルーキーズ




「しかし、昨日はスカッとしたな」


「だろ? さっきだって、みんなお前を、すげーじゃんって眼で見てたぜ」


 そこは朝の光が射し込む一年Cクラスの教室。


 その後方部で意気揚々と話し込むのは、大友と相楽だ。

 辺りにはタカッシーを始めとして、数人の男子生徒が取り囲んでいる。その誰もがあがめるような、羨望せんぼうの眼差しを送っている。


「ホントしびれんよな拓也。俺も沢山の武勇伝を持ってっけど、お前も相当な強さだもんな」

 大胆にも言い放つタカッシー。


「この調子なら、三年生を占めるのも時間の問題じゃねーの?」


「まぁ、それもありかもな」

 それに感化されて相楽も満足げに言い放つ。


 そこに少し前までの気弱な様子は微塵も感じ取れない。三年の大物、武田を倒したことが、彼に自信を与えていたのだ。


「あはは。早る気持ちは分かっけど、無理は禁止だぜ。ゆっくりと三年をのして、“夏樹さん”と合流するんだからよ」

 すかさず大友が助言する。


「分かってるって、カッちゃん。俺は、ちゃんと、カッちゃんを応援するからよ」

 笑って返す相楽。


「くぅー、カッちゃんと拓也がいれば、俺らは無敵だよ。オーク学園なんかちょろいってモンさ。だって上杉と武田を倒したんだぜ。俺も少しばかりアシストしたがな。だいたいにして……」

 その後方では、タカッシーが昨日の出来事をこと細かく伝えている。


 まるで自分の手柄のように、力強く豪語する。

 ……モップを使って、上杉を袋叩きにしたことは、もちろん伏せながら……



「カッちゃん、あんた昨日、武田と上杉にカチ込みかけたんだって!?」

 不意に怒鳴り声が響いた。


 怪訝そうに視線を向ける大友と相楽。


 そこでは蒼汰が、息急ききって構えていた。



「おっと、大将様のお出ましじゃん」

 ニヤリと笑みを浮かべるタカッシー。


 ゆっくりと歩き出して、まるでアピールでもするように、蒼汰の目の前に立ちはだかる。


「…………」

 だが蒼汰は興味を示さない。

 それどころか少しばかりイラついたような表情だ。


 それを察したか、タカッシーは無言で通路を譲る。


「リーダーじゃんかよ。もう耳にしたの、俺の武勇伝」

 一方で相楽はまだご機嫌な表情だ。鼻頭を右人指し指で擦りながら投げ掛ける。


 それと一瞬、身体を交差させる蒼汰。


「馬鹿だな、お前は」

 視線も向けずにぼそりと吐き捨てると、大友の前まで進んだ。



 それには相楽も戸惑うだけだ。キョトンとした表情で蒼汰の背中を見据えた。


「……蒼汰、カッちゃん」

 それと同じくして、教室入り口にガタイの良い男が現れた。


 男の名は須藤千晶すどう ちあき

 ルーキーズの一員で、ルーキーズ切っての冷静さと判断力を誇る男だ。



 こうして室内には、ルーキーズの面々が集結する。


 タカッシーを始め、誰しも無言だ。誰もが四人の実力を認めていた。



「ダメじゃんよカッちゃん、やりすぎちゃ。上杉や武田は、俺達に危害をくわえたりはしなかったんだぜ」

 蒼汰が言った。

 高ぶる思いを内に秘めたような、独特の覇気がにじみ出ている。



「あはは、昨日の件か? そんなに怒んなよ。ついでじゃんよ、ついで。だいたいにしてあいつらが悪いんだぜ。最初、喧嘩してたのはあいつら二人だ。馬鹿だから、しょっちゅう喧嘩してんだよ。俺達はたまたまそこを通りかかった。ダッセー殴り合いしてっから、俺達が気合いを入れてやったのさ」



 あのとき上杉と武田は、タイマン勝負の真っ最中だった。


 それにタカッシーがチャチャを入れて、結果としてあんなことになった。


 大友が言った『メンドーだから、全部ぶち壊すか』その一言で始まっただけだ。



「そんなことよか、リーダーも聞いたよな、拓也の活躍」


 元々大友は、上杉と武田とを襲撃する気などなかった。


 重要なのは、相楽の潜在能力を見極めること。その為に上杉達を利用したまで。



 しかし蒼汰は気負わない。ぐっと大友を見据える。


「拓也の強さは、俺だって知ってたさ。だけど、だれかれ見境なく、喧嘩を吹っ掛けるのはマズイだろ。流石にこのタイミングじゃ」


 相楽の強さは最初から理解している。でなければ永瀬襲撃で、仲間などにはしなかっただろう。


 蒼汰が危惧しているのは、そこに大義があるかどうか。

 無益な争いは、新たなる火種になる恐れがある。



「つまりは勝てる相手とじゃなきゃ、喧嘩はしない。そういう意味かよ?」

 ポリポリとこめかみを掻き、上目遣いで見つめる大友。


「……流石は帝中出身。用心深さは、人一倍だ」

 意味深に言い放ち、鼻でせせら笑う。


「なんだよ、それ」

 その台詞に蒼汰の表情が少しばかり変化する。


 それでもぐっと歯を噛み締めて、吐き出したい言葉を飲み込む。俯き加減にグッと意識を保っていた。


「カッちゃん、口が過ぎるぞ」

 堪らず割ってはいる須藤。


「怒ってないよな、リーダー。カッちゃんは冗談が好きだから」

 同じくそれを制する相楽。

 かすかに青ざめて、蒼汰と大友を交互に見つめる。


 その場にいる誰もが知っていた、蒼汰に対して、その台詞は禁句だと。



「だけど噂になってんよな。『シュウさんは通り魔に刺されて、街の覇権から手を引いた腰抜け』だってさ」

 だが大友の態度は変わらない。馬鹿にしたような卑下た目つき。


 流石の蒼汰も、それには我慢がならなかった。



「なんだって? もいっぺん言ってみろやこの外道が! シュウさんがなんだって!」

 怒りを抑えきれず、大友の胸ぐらを両手で奪う。


 そこにいつもの穏やかさはない。修羅張りの狂気の表情だ。



「だから、俺は噂の話をしたまでた。俺はそんな噂は信じてないしな。……第一にして、俺ら同盟組んでんじゃん。こんなことで破棄すんのかよ?」

 冷ややかに視線を向ける大友。


「蒼汰、落ち着けや。どんなことがあろうと、先に手を出した方が敗けじゃ。それはお前だって知っとろうが」

 須藤が言った。


「くっ……」

 それで蒼汰は、悔しそうにその手を解いた。


「はは、だよな。俺ら四人でルーキーズだもんな」

 せせら笑う大友。

 ふっと息を吐き出して、首をコキコキと回す。



 この性格も目指す意志も違う四人が、同盟を組んでいるのには、訳があった。



 元々、一年生同士は仲が悪かった。

 互いに別々の中学で悪名を馳せ、集った悪たれ同士。常に喧嘩しあう仲だった。


 特に蒼汰と大友の関係は最悪なものだった。それは互いに尊敬する人物に所以するところ。


 そんな一年生を壊滅寸前に追い込んだ事件が、永瀬によるルーキー狩りだった。

 互いにいがみ合ったままでは、永瀬に飲み込まれる恐れがあった。


 故にそれに対応する為に結成されたのが、吉沢蒼汰、大友勝治、須藤千晶、相楽拓也の四人による、通称ルーキーズだったのだ。



「ワシは余所者じゃから、夏樹さんもシュウさんも知らん。じゃがあ、そがあなことで仲間割れしとる場合じゃないやろが」

 暫しの沈黙が流れる。


 蒼汰と大友は、互いの腹を探るように視線を合わせ、相楽はその二人を戸惑うように見据える。

 そして須藤が全てを見定めていた。



「やれやれ、須藤の冷静さには、適わないわな」

 やがて蒼汰が呆れ加減に吐き捨てた。


「本当だわ。流石俺らのかなめ。あんたの台詞は、重すぎるわ」

 大友も笑って返した。



 ルーキーズはルーキーズなりに、力の均衡図は分かり得ていた。


 この中の誰かひとりでも欠ければ、それは一年生の崩壊にも直結する。


 それがオーク学園に置いての、自分達の立ち位置だから。言葉ではなんだかんだ言っても、その結束は固いものだった。



「とにかく、あまり目立った行動だけは、控えてくれよ。俺らは大それた野望なんて要らないんだから」


「わかったよ。悪かったな、蒼汰ちゃん。派手な動きはしねーよ」

 渋々ながら承知する大友。



 こうしてその場を支配していた、不穏な空気は掻き消える。



『ケッ、そんな小せぇことで、文句をいうなっての』



 しかしその熱すぎる血潮は、制御など出来なかったのだ。

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