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救出!

 その日の夜、みんなが寝静まった頃合いを見て、待ち合わせ場所の広場へと向かう。先にアリサが抜け出してたようで、武器と防具を身に付け万全な状態でスタンバっていた。

 いや気合い入り過ぎだろ! この後に「手合わせお願いします」とか言われたら全力で逃げ出すレベルだ。多分本気で殴られたら頭部が吹っ飛ぶからな。パニックを起こさせないように注意はしておこう。


「……で、本当に行くのか?」

「もちろん! あ、マキトってば怖くなったの~?」

「そりゃ怖いよ。もしもアリサを死なせることになったらって考えるとね。大切な人だからこそ安全なところに居てほしいって思うもんだよ」

「え? た、大切な……人……」


 ん? アリサのやつ、急に頬を押さえて赤くなってるぞ?


「何か変なこと言った? 当たり前のことを口にしたつもりだけど」

「ううん、何でもない。マキトの気持ちは充分伝わったよ! でもね、あたしだって大切な人の傍に居たいっていう思いがあるんだから、そこも分かってほしいんだけど……」


 今度はチラチラと上目遣いか。そりゃ()()()()()()()だからな、()()()()()()()()()を危険な目に合わせたくはない。

 とは言ってもアリサは言い出したら聞かない性格だ、説得するのは無理だろう。


「分かったから。あんまはしゃぎ過ぎて村の人たちを起こさないようにね」

「うん!」


 その元気の良さは絶対に分かってないだろと言いたい。


「防壁で見張ってる人も居ないみたい」

「そりゃ騎士団じゃないからね、ああいう仕事は騎士団か領主の私兵が行うものだよ。仮に村の人がやったとしても、毎日の報酬を支払う余裕はないと思う――よっと!」



 スタッ!



 ブーツのお陰で優々と門を飛び越えた。俺の後にアリサも続き、山の中へと入っていく。


「暗くて前が見えないね。これじゃ危なくて進めないよ」

「そう思って光源になるアイテムを作ってきたよ」


 煌めきの一番星ランタン:灯石と凛石をランタンと融合させて出来上がったもの。普通のランタンより強力な光を放つため、遠くで影が動いただけでも敵を察知できたりする。無駄に高級感もある。


「良かった~。松明も無いし、諦めて帰ろうかなって思ってたんだ~」

「なら今から引き返して――」

「絶対にダメ~!」


 クッ、ランタンを持ってきたのが裏目に出たか。

 なら仕方ない。どうせどこに進むかも俺任せだろうし、ブレイブガゼルと遭遇した場所に行ってみよう。


「ほい到着」

「え、こんなに近くなの?」

「全然近くじゃないぞ」


 疾風レザーブーツ改を履けば10メートルくらいなら軽く飛び越せるからな。樹木が邪魔してなければ100メートルは飛べそうな気がする。前回それなりに走った距離も1分足らずで着いてしまったわけだ。


「このおっきい穴がマキトの魔法が落ちた場所なの?」

「そうだよ」

「すっご~い! ねぇ、魔物と遭遇したらその魔法で倒してよ。こんな大きい穴が出来上がる瞬間とかワクワクする!」

「無理。MP不足で気絶しちゃうよ」

「あたしが担いであげるから」

「ダメだよ、アリサを残して俺だけ気絶するなんて出来るわけない。今アリサを助けれるのは俺しか居ないんだから」

「え……」


 また頬を押さえて赤面しとる。静かで落ち着くからしばらくそのままでいてほしい。


「しかしこの辺りには何もないなぁ。もう少し奥に行ってみるか」


 右手にランタン、左手はアリサの手をしっかりと握り、更に奥へと進んで行く。

 距離にして数10キロは歩いた――いや飛び回っていたと言った方が正しいか? とにかくラバ村からは相当離れたところで、不意にアリサがクンクンと匂いを嗅ぎ始めた。


「人の匂い? それと獣の匂いもする。人は1人、獣は複数で移動してるみたい」

「こんな夜中にか?」


 だとするとラバ村の人ではないな。それにこんな山奥に村があるとも聞いてない。


「よし、警戒しながら近付いてみよう」


 ランタンで周囲をよく照らしつつアリサが指す方向に飛び跳ねて行く。そしてアリサから……


「いた。ほら、あそこ……」


 ……と耳元で(ささや)かれ、茂みに身を潜めて目を凝らした。


「あれは……俺たちと同い年くらいの女の子? ロープで拘束されてるってことは、どこからか連れ去ってきたのか」

「担いでるのは熊の集団みたい」


 見た目は熊だが只の熊なわけがない。魔物と見ていいだろう。


「すぐに助けましょ」

「待った!」


 飛び出そうとしたアリサの手を即座に引き寄せる。


「どうして? マキトはあの子が心配じゃないの?」

「そりゃ心配だけど、本来の目的は山狩りなんだ。奴らのアジトを突き止めなきゃ同様の被害が続くことになる」

「なるほど~、マキトってば頭良いね!」

「はいはい。褒めたって何も出ないぞ」



 納得したアリサと共に尾行すること30分。地中に大きく開けられた洞穴までたどり着いた。そして中から重装備をした体格の良い熊が仲間を伴い姿を現したのだが、俺とアリサは更に驚愕(きょうがく)することとなる。

 


「おぅ来たな。……ほぅ、人間の若い雌か、生け贄には良さそうだ」


 あの熊、人語を話してる!?

 いや、人語を話すことがあるのはコマンダーウルフで経験済みだ。けれど人語を話せる魔物なんて腐るほどいるわけじゃない。ごく僅かな希少種だ。コマンダーウルフに続いてこの熊も? だとしたらコイツも魔石を飲み込んだ可能性が高い。


「――――」

「ん? ああ、そろそろ良いか。――おい、そこに隠れてる2人。お前らが付けてきた事はとっくにバレてるぞ? 大人しく出て来るんだな」


 手下の熊に促されるように、人語を話す熊がこちらに向き直る。もしかして本当にバレてる?

 まぁバレてるんなら仕方ない。俺はアリサを後ろに庇うようにゆっくりと歩み出た。


「ほぅほぅ、若い人間の雄と獣人の雌か。追加で生け贄が手に入るとはツイてやがる」

「……いつから気付いていた?」

「はぁ? そんだけテッカテカで(まぶ)しいランタンぶら下げてりゃ嫌でも気付くだろうがぃ!」

「おぉう、しまった!」


 俺としたことがお手製のランタンが仇になっていたとは。


「まったく、どうして教えてくれなかったんだよアリサ、お陰で大恥をかいたじゃないか!」

「あたしのせい!?」

「そうだよ。元はと言えばアリサが光源の準備も何もしなかったのが原因じゃないか!」

「むぅ~~~、あったま来た! 流星~~~~~~キィーーーーーーック!」



 ドガッ!



「グベェア!?」


 どこかで見たような蹴り技で1体の熊が山から転げ落ちていく。小手を使わなくてもこの威力か。オーバーキルとはこのことだな。


「アリサやるぅ♪ 俺も負けてられないな」



 ズバズバッ!



「「ギャベァ!?」」


 アリサに続いて俺も剣を抜いて斬りかかる。思った通り剣撃は軽く、たちまち2体を斬り伏せてやった。

 これが漫才じゃないとようやく気付いた熊たちは、反撃しようとするも時既に遅し。あっという間にリーダー格の熊を残して全滅した。


「な、何が……いったい何が起こってやがる? たった2人のガキ相手に俺の手下が手も足も出ないだと? コマンダーウルフを退けたこの俺たちが? 有り得ねぇ……絶対に有り得ねぇ!」

「ああ、それなら有り得るぞ? コマンダーウルフの群は俺が壊滅させたからな」

「なにぃぃぃ!?」


 今度は熊の方が驚愕(きょうがく)。普通なら信じないだろうが、目の前で起こっている事は事実なのだ。


「誰かは知らないけど、この子は返してもらうわね」

「ク、クソォ、俺たちの生け贄を……。こうなったら最後の手段だ!」

「「!」」


 ついに本気を出すのかと身構えたが、そんなことはなく……



 ガバッ!



「頼む、この場は見逃してくれ! つい出来心でやってしまったんだ!」

「なんだそりゃ!」


 出来心って何ぞや、それから生け贄とは何ぞやと問い詰めると、器用に正座したリーダー熊がポツリポツリと話し始めた。


「元々おいどんはブラッドベアという種族だったんだが、ある日の散策中に紫色に光る不思議な石を見つけたんだ」


 魔石だ。やはりコイツも魔石と関わっていたのか。


「不思議に思いながらも空腹を訴えていた腹の虫には敵わなく、そのまま飲み込んじまったのさ。そうしたらビックリ、C級からA級へとクラスチェンジしちまってな、見事ガーディアンベアの誕生ってわけさ」


 どうやらこの熊はガーディアンベアという名前らしい。コマンダーウルフと並んでA級か。装備が充実し過ぎてて強さが体感できないけどな。


「まさかとは思うけど、人語を話せるのも魔石の影響か?」

「そうだと思うぞ? お陰で人間や獣人の言葉が理解できるし、魔石様々ってやつよ。だから他にも見つけた魔石の欠片は祭壇に供えてあるのさ」

「祭壇に? つまり生け贄ってのは……」

「ああ、魔石への感謝を込めた貢ぎ物さ」


 それは魔石も迷惑じゃなかろうか? だいいち食えたりしないもんな。


「なるほど。それでどっかの村の近くにいたこの女の子を拐ってきたと」

「違う違う、拐ってきたんしゃねぇ! このガキは(ふもと)の道を走ってた馬車を襲うことで手に入れた戦利品さ。方角的にファティマ王国かラドム王国に向かってたんじゃねぇか?」


 これはまた厄介なことになったな。まぁ誘拐されたんなら送り届けるまでだけど。


「へへ、もういいかい?」

「ま~だだよ♪」

「かくれんぼじゃねぇ! そろそろ解放してくれって言ってんだ」


 ああ、そういう。


「別にいいぞ?」

「ホントか? へへ、助かるぜ」


 俺はわざと隙を見せるように後ろを向いた。案の定これを好機と見たガーディアンベアが爪を立てて襲ってくる。


「へっ、背中がお留守だぜ、ガキがよぉぉぉ!」



 ドムッ!



「グヘェ!?」


 クルリと回転させた回し蹴りがヒット。堪らずガーディアンベアが悶絶(もんぜつ)する。


「お見通しだよ。それに相手が悪かったな。このブーツは瞬時に蹴りを入れられるほど速く動けるのさ」


 速い分威力まで上がってるとは思わなかったが。


「クッソ……ガキがぁ……」

「ん? クソガキと言ったかコイツ!」

「そうよ、マキトはクソガキなんかじゃないわ! たまに意地悪だけどスッゴく頼りになる男の子なんだから!」



 ドゴッ!!



「ウボァッ!」


 最強装備の小手による一撃が腹部にクリーンヒット。弾みで体内に取り込まれていた魔石を吐き出させた。


「これに懲りたらもう悪さはしないことだな」

「マキト、この熊死んでるよ」

「おおガーディアンベアよ、死んでしまうとは情けない」


 さて、心からの供養(←?)も済んだし、早く帰るか。

 念のため洞穴の奥を探索すると、質素な木造の祭壇に魔石の欠片を発見。熊が居ないのも確認し、いまだ気絶している女の子を担いで帰路につく。


「今回の山狩りは大成功だったね! 次はいつやるの?」

「当分はやらないよ」


 さすがに何度もやっていたらいずれはバレる。そうなると大目玉を食らうのは確定だし、今日の成果で満足しておくのが――


「まってマキト、遠くから知ってる匂いが近付いてくる」

「え?」


 もう少しで村に着くところで誰かが出歩いているとアリサは言う。知ってる匂いならラバ村の人だろうし、ランタンを消して様子を見てみよう。


 そして待つこと10分。見慣れた相手、出来れば思い出したくもない相手――ペドロ一家が確認できた。


「あれ? おっかしいなぁ、この辺りで光る何かを見たんだけど」

「気のせいだろう。それよりペドロ、ちゃんと金貨は持っているか?」

「もちろん。なきゃ馬車にも乗れないじゃないか」

「ならばいい。早くあんな村から離れるのだ。――ったく、マキトの小僧のせいで居場所を失うとはな」

「ああ。覚えてろよあのクソガキめ!」


 怨み節を披露しつつペドロ一家が過ぎ去って行く。クソガキと言われて撲らなかった俺を誰か褒めてほしい。


「あの様子だと夜逃げね」

「うん。でもって金貨がどうとか言ってたけど……」


 何か嫌な予感がするなぁ。



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