血に飢えしコマンダーウルフ!
「き、来た、来たッス! ハンターウルフの群ッス~!」
防壁の上で見張りをしていたヤースさんが声を張り上げると、集まった村人の手で正門と裏門が閉じられた。弓を構えた大人たちが防壁へと上がり、先頭に立つガルスさんがの暗闇へと目を凝らす。
「数は……チッ、30を超えてやがる。しかも日没を待ってからの襲撃だ。奴ら本気で攻めにきてるぞ。どうするコリンズさんよ?」
「フン、魔法が使えない私にとって弓は命だ。ハーフエルフの面子にかけて百発百中の弓捌きを見せてやるわぃ――それっ!」
トスッ!
「ギャゥン!?」
コリンズ先生の矢がハンターウルフの首に命中。見事一撃で仕留めて見せた。
「やるなぁ先生。おいヤース、こっちも負けてらんねぇ、固まってるところに一斉射撃だ!」
「了解ッス!」
ガルスさんを始めとする村人が次々に矢を放つ。多くが回避する中、避け切れなかったウルフは矢の連打により血溜まりへと沈む。
「ガルスさん、正門にも別の群が回り込んでます!」
「心配すんな、奴らの牙じゃ簡単に防壁を崩せねぇ。門の隙間から威嚇するだけでいい、奴らを怯ませとけ!」
「分かりました!」
手際よく指示を出していくガルスさん。昔は軍隊にでも所属してたのかな? そのくらい戦い慣れてる気がする。心配なのは矢が尽きることか。
「だ、大丈夫かな……」
「大丈夫、俺の作った防壁は完璧だよ。これを崩すには何十年も噛り付かなきゃならないくらい丈夫なんだ。――それ、ストーンバレット!」
「そう……だよね、簡単にやられたりはしないよね」
「もちろん! ――ストーンバレット!」
不安を滲ませるアリサを勇気付けつつ戦闘に加勢。裏門の隙間からターゲットを固定し、石の弾丸により自動追尾で撃破していく。他でも降り注ぐ弓矢により、1体……また1体と数を減らしていた。それでもウルフたちに諦める動きは見れず、何とか防壁をよじ登ろうと必死だ。
「ウォォォ~~~ン!」
その時、遠くで群の1体が鳴き声をあげた。何が起こるのかと身構えていると、コリンズ先生の慌てた声が辺りに響く。
「マズい、コマンダーウルフだ、群のリーダーが現れたぞぃ!」
コマンダーウルフ:ハンターウルフの更に上位種で、群のリーダーとして君臨していることも多い。知性があり、人言を理解するという噂もある。戦闘にも特化しており、群も同時に相手では冒険者も逃げ出すくらいの強さを持つ。
これはピンチかもしれない。脚力によっては門を飛び越えて来るかも。
そんな心配をしていた矢先、ガルスさんの怒声により皆の視線が夜空へと向けられた。
「ヤベェ、気を付けろ! 奴ら仲間を踏み台にして飛び越えやがった!」
不安的中か! 視界には5体のウルフが舞い降りようとしている姿が。
名前:マキト
HP:20/37
MP:15/52
MPが心許ないけど出し惜しみしてる場合じゃない。視界に写る全ての敵を倒せる魔法を――――これだぁぁぁ!
「スプラッシュバレットーーーッ!」
脳裏に浮かんだのはストーンバレットを複数同時発動させる魔法だ。空中ではまともに防御体勢を取れず、文字通りハンターウルフが蜂の巣になる。そして着地と同時に5体全てが崩れ落ちた。
名前:マキト
HP:20/37
MP:5/52
危機は去ったけど消費が激しい。もう一度侵入されたら次はないだろう。防御の施工で消耗さえしてなければ……
「マキト、もう1体いるわ!」
「何っ!?」
「グルルルァ!」
アリサの声で正面に迫っていたハンターウルフと目が合う。クソッ、視界の外にも1体いたのか! 何か防御出来るものを――
「ロックバリケード!」
ガツン!
咄嗟に浮かんだ岩の壁を出現させハンターウルフの牙を阻む。そこへ折よく助っ人が登場。
「そらよ、後ろがお留守だぜ!」
「ギャオン!?」
酒場の店主ビリーさんのハンマーがハンターウルフの頭をカチ割る。これで中の脅威は去った。
「助かりました、ビリーさん!」
「良いってことよ。俺よりお前さんの方が活躍してるしな!」
下が安全になったと知り、上にいるガルスさんたちも外へ集中する。また外のハンターウルフたちも侵入した仲間が討ち取られたと知ったようで、再び飛び越えては来ないようだ。
これなら殲滅も時間の問題かと思われたが、群の大将コマンダーウルフは諦めてはいないようで……
「ウオォォォ~~~~~~ン!」
大将の鳴き声でハンターウルフたちが一斉に村から距離を取る。そして奥からノソッと現れるコマンダーウルフ。
「グルルルァァァ!」
村に向かって猛スピードで駆け出した!
「クソッ、速すぎて当たらねぇ、先生!」
「すまぬ、この速さは私でも対応でき――ふぉっ!?」
コリンズ先生でも仕留められない速さで急接近し、閉じられた門を軽々と飛び越えて来た!
「入られたか!」
「待て先生、下はビリーたちに任せて外を警戒するんだ。これ以上追加で入られちゃたまらねぇ!」
「クッ……だが!」
「もちろん俺も行く! ――ヤース、上は任せるからな!」
「了解ッス!」
ガルスさんが防壁から飛び降り、ビリーさんと並んでコマンダーウルフの前に立つ。
「ハンターウルフの更に上か。こうして見るのは初めてだな」
「ガルス、お前もか? 冒険者やってた俺もコイツは初だ」
「なら賭けだな。刺し違えて倒すか、刺し違えるまでもなく倒すか。俺は後者に自分の命を賭けるするぜ」
「俺も後者だ。前者だったら店を畳んでやるさ」
2人とも死ぬ気か!? いや、コマンダーウルフを前にしたらそう考えてしまうのも無理はない。何せハンターウルフの倍以上の体格なんだ、このデカさで機敏に動くとか脅威以外の何物でもない。
名前:マキト
HP:20/37
MP:2/52
援護したいが残りMPが少ない。ストーンバレットだけで倒せるとも思えないし……。
「そこを退け!」
「「「喋った!?」」」
間違いなくコマンダーウルフから発せられたものだった。人語を理解するだけじゃなかったのか!
「我の目的は後ろの小僧だ。おとなしく差し出せばこの場は退いてやろう」
喋り出したと思えば俺の身柄を要求するだって!? 冗談じゃない!
「手下共は村への侵入に成功した。だが作戦は失敗、強力な魔法の使い手により討ち取られてしまったと理解している。……そう、そこの小僧さえ居なければ村を壊滅に追いやることが出来たのだ。このまま退いては死んで行った手下が浮かばれぬ!」
一方的に撃退されるのがよほど悔しいと見える。けどこの状況で「はい喜んで」と行くわけがない。
「人語を話すのは驚かされたが……、その要求は飲めねぇな。ここまで無傷で戦えたのはマキトのお陰だ。その功労者を差し出せだと? バカ言えってんだ!」
「だな。防壁だってマキトが上げた成果だ、差し出すくらいならテメェと相討ちだ!」
当然のごとくガルスさんとビリーさんが突っぱねると、他の村人たちも「そうだそうだ」と大合唱。
が、安心したのも束の間、真っ向から反対する声も上がる。
「いいじゃないか! それで村が助かるんだ、黙って差し出せばいい!」
声の主を見ると、案の定な顔が松明に照らされていた。
「ペドロ、テメェ!」
「何を迷ってるんだガルス、そいつ1人の命で村が助かるんだぞ? それで済むなら安いもんじゃないか」
「そうだぞ皆の衆。よそ者が役に立とうとしているんだ、黙って見送ろうじゃないか」
予想通りのペドロ一家だ。嫌みなだけじゃなくトコトン腐ってやがるな。
けどそんな台詞じゃ動じないね。お陰でたった今ある作戦を思い付いたところだ。
「お主ら、このような時に何を!」
「そうよそうよ! どれだけマキトが村のために尽くしてきたと思ってるの、この人でなし! だいたいアンタたち――」
「待ってアリサ、それに村長も。俺のことは気にしないでいいから」
「マキト!? お主何を――」
まさか進んで犠牲になるつもりかという台詞が顔に出ている村長に軽く耳打ち。続いてアリサにも耳打ちをすると、コマンダーウルフの前へと歩み出た。
「お、おい、冗談だろマキト? 何を血迷ったことを――」
「ビリー、ここは任せておけ」
俺の考えを察したガルスさんがビリーさんを引っ張って行く。一連の流れを見たコマンダーウルフは満足そうな声をあげ、ゆっくりと俺の方に近付いてきた。
「フッ、賢明だな。我が本気になればこの村に多大な被害をもたらすのは明白。我の怒りを小僧1人で静めてやるのだ、有り難く思うのだな」
有り難く……ねぇ。まぁ有り難いっちゃ有り難いかな?
「俺もその通りだと思うよ? 但し――ロックアーム!」
「な、何だと!?」
いきなり俺の右腕が岩石に覆われる様を見て、コマンダーウルフが驚愕する。その隙を見逃さず、奴の口へとおもいっきり腕を捩じ込んでやった。
「な――グボガァ!?」
「――沈むのはお前の方さ、残念だったなコマンダーウルフ! ――フン!」
仕上げとばかりにあるものを砕く。それはコッソリ作っておいた怒竜石の爆弾だ。
ドバァン!
怒竜石の爆弾は想像以上の威力だったようで、ロックアームの岩石がバラバラになるのと同時にコマンダーウルフの頭部を爆散させるほどに。
「…………やったか?」
最後に聞いたのは村長のこの台詞。
「村長、その台詞は……フラ……グ……」
名前:マキト
HP:12/37
MP:0/52
そして俺は2度目の魔力不足により気絶する羽目に。あ~、起きたらまた説教だな。