過疎地の防壁
『――という流れなんです。防壁に適した石って有りません?』
『ま~たお主は次から次と……』
その日の夜にも現れてくれた石神様。手に取って調べるより聞いたほうが早いからね。
『私は便利屋ではないのだぞ? まったく毎日毎日……』
『僕らは鉄板の~♪』
『茶化でない! ……それで、防壁に適した石だったな? ならば漆黒石でよかろう』
『あの石だと黒すぎて物々しいんですよ』
何かね、見た目からして物騒な雰囲気を醸し出してるっていうかね。
『希望はですね、そこらにある石に近い色合いなんです。だって紹介するとき嫌じゃないですかぁ。「この漆黒の防壁は――」とか言わなきゃならないんですよ?』
『色に物申すな生意気な奴め』
『そんなこと言わずに想像してみて下さい。いい歳した村長が鼻息を荒くして【漆黒の防壁】という単語を連呼する姿を』
~~~~~
「時は漆黒、我が村漆黒、漆黒漆黒漆黒の防壁ぃぃぃ! クククク。今宵の防壁、これまでとは一味違うぞ? カーッカッカッカッカッ!」
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『プッ……』
『ほら笑った。ね、おかしいでしょ?』
『……コホン。ま、まぁなんだ……お主の言う通り、村長を中二病にしてしまうのは抵抗がある(←村長に失礼)。そうだな……防壁に適した色合いとならば、お主の村からもっとも近い場所だと――』
★★★★★
「――で、わざわざ俺を連れて来たんスか? 暇じゃないんスけど……」
「でもヤースさんも時々サボってるでしょ? コリンズ先生と一緒で酒場に――」
「だぁぁぁアリサちゃん、それ以上はダメッスよ! 特にガルスのアニキには絶対に秘密ッス!」
「じゃあ石の採掘お願いね♪」
「うぃッス……」
同行してもらったのは毎度お馴染みのヤースさんと、勝手についてきたアリサ。前行った石切場とは違う方角で、こっちは徒歩15分ほどの雑木林だ。
そして俺たちの目の前には岩肌が露出している箇所があり、石神様が言うにはここら辺の石が適しているらしい。
「ヤースさんファイトーッ!」カンカンカンカン!
缶々石で作ったデンデン太鼓を片手に、アリサが声援を送る。もちろん俺が作ったやつで、アリサのご機嫌取りのためにプレゼントしたんだ。
というか意外にうるさいなコレ。別の物を作るんだったと今さらながら後悔。
まぁいいや。さっそく石に触れて……
耐石:見た目は普通の石ながらも頑丈。加工が難しいため、王族貴族が大枚はたいて魔法士に依頼して加工させるのが一般的。耐久性も良い。
うん、間違いない。これで防壁を作ろう。
「……で、どれだけ掘ればいいんスか? まさか村全体を囲うくらい――とか言わないッスよね?」
「その通りだよヤースさん! なんで分かったの!?」
「マジッスか……」
ゲンナリするヤースさん。でも頑張ってほしい、防壁が完成すれば村の安全は確かなものになるんだ。
え、ペドロに唆されたからじゃないのかって? 違う違う、挑発に乗ったのはついでだよ。向こうが出した条件をクリアすることで完膚なきまでに叩きのめしてやろうと思ってね。
「いや~、楽しみ楽しみ。完成したらヤースさんの活躍を大々的に伝えますからね」
「…………」ガツッガツッ
「ねぇヤースさん」
「…………」ガツッガツッ
「ヤースさん?」
「…………」ガツッガツッ
「ヤースさんってば――え……」
返事がないのは妙だと思い、ヤースさんへと振り向く。そのには一心不乱にツルハシを振るうヤースさんの姿が。
異様な光景に俺は絶句する。普段のヤースさんなら数分で畑仕事を投げ出し「そろそろ休憩ッス~」とか言い出すからだ。
そんなヤースさんが真剣に仕事をするなんて絶対にあり得ない。(←人選どうなってんだよ……)
「ふ~っ、手が疲れちゃった」
アリサのデンデン太鼓が止まった直後、フと我に返ったヤースさんがキョロキョロと辺りを見渡す。
「あ、あれ? 自分いったい何を――って、この石の量は……誰が掘ったッスか!?」
「いやアンタだよ……」
思わず突っ込みを入れてしまう程に集中していたらしい。まさかこのデンデン太鼓、特殊な効果が付与されてないか?
試しに自分もやってみると、やはりアリサのデンデン太鼓と連動してるように集中力が途切れた。これはもう確定で追加属性が付与されてるな。恐らく集中力を高める系のやつだ。
「ごめんアリサ、ちょっとソレを貸してくれ」
「え? いいけど」
缶々太鼓:味方の集中力を高める効果がある。サボりがちなアイツに聞かせてやりましょう。
やっぱりだ。作っておきながらよく見なかったのが悪いな。下手すりゃ呪いに掛かってるんだと勘違いされるかもだし、これからは気をつけるようにしよう。
けど何だろう、漆黒豚の鍬には追加属性が無かったのに、どうしてこっちにだけ――――ん、まてよ?
「もしかしたら!」
「ちょっと、どうしたのマキト?」
思うところがあり、缶々太鼓をアリサに押し付け、辺りに落ちている耐石を拾い上げる。そしてあるものを強くイメージして大きな塊へと練り上げた。
「見た目は普通の大きめな石。これを耐石の石壁に向けて――」
ボン!
「「「ヒィ!?」」」
派手な爆発音により3人揃ってすっとんきょうな声をあげてしまった。だが石壁は見事に崩れ、大量の耐石が地面に転がる。
「い、いったい何事ッスか!?」
「あ~すみません。ちょっと簡易的な爆弾をですね」
「「爆弾!?」」
「あの太鼓の効果を見て思ったんだ。アレを作った時は失敗しないようにって集中して作ったから。そこで……」
「爆弾をイメージしたんスか? もう無茶苦茶ッスね……」
「…………」カンカンカンカン
顔を引き吊らせる2人。アリサに至っては理解が追い付かないのか、頭にクエスチョンマークを浮かべて太鼓を振っていた。
「でもこれなら切り崩すのに手間は掛からないですよ。」
名前:マキト
HP:26/26
MP:37/38
コスパもご覧の通り、MPの消費は僅か1ポイント。これならヤースさんの手を借りずとも、爆破作業だけで切り崩しができる。
「これだけの量が短時間で手に入るんだ。この調子なら3日で防壁が出来そうだ」
「お~! マキト頑張って~!」カンカンカンカン!
「その太鼓止めて」
その後見事に防壁は完成!
――が、出来上がるまでに2週間ほど掛かった! そう、2週間も掛かったんだ……。
原因は俺のMP不足によるもので、耐石の入手までは順調だったものの石魔法による施工が大幅に遅れてしまったためだ。
「疲れた……」
完成した防壁を村の入口から眺める形で大の字に倒れる俺。入口は凛石の高級感と漆黒石の耐久性を兼ね揃えた門もしっかりと構えられ、魔物や賊の対策はバッチリだ。
「ご苦労様だったなマキトよ、これで夜間も安心して過ごせるだろう。こんな過疎地のラバ村には些か過剰ではあると思うがの」
「ま、いいじゃねぇか村長。これで俺も心置きなく仕入れに行けるってもんだ。ありがとよマキト、大人になったら一杯奢ってやる。ガッハッハッハッ!」
豪快に笑うのは酒場の店主ビリーさん。一番近い街まで歩いて3日は掛かるんだ、つまり往復で6日。魔物や賊の襲撃はゼロじゃないし、気が気じゃなかったんだろう。
「ふ、ふん。こんな防壁、どうせ過疎地じゃ意味はないんだ。これくらいでいい気にならないことだな!」
「うんうん、息子の言う通りだ。これだから役立たずは困るのだ」
まだ言ってるよ、ペドロ親子……。
「止さんかお主ら。役立たずと言うのなら、ペドロの方がよほど暇をもて余しているように見えるがの」
「そ、それは……」
「村長の言う通り、いつも暇そうにそこらを歩いてるじゃねぇか」
「う……」
「かといって酒場で金を落とすわけでもねぇしなぁ」
「お……」
「たまには狩りを手伝ってほしいッス!」
「あ……く、くそっ!」
ガルスさんやビリーさん、ヤースさんにも責められ、ペドロ親子は退散していく。
防壁だってテメェらが言い出したことじゃないか。これに懲りたら2度と因縁つけてくんなっつ~の!
俺は優越感に浸りつつ門を潜る。
「お~い、大変じゃ~!」
背後からの声に振り向くと、薬草摘みに出ていたコリンズ先生が慌てて走ってくるところだった。
「どうしたんですか先生、メガネならちゃんと付いてますよ?」
「バカモン、ふざけてる場合じゃないわぃ! 山の奥でスカウトウルフを見つけのだ、妙に連携の取れた3体がな。1体を倒すと残りは逃げて行きよった」
魔物が出たという報告だ。村人たちの間に緊張が走るも、撃退したという話に安堵が広がる。しかし……。
「さっすが先生。なら安心じゃないですか」
「ちっが~う! スカウトウルフは下級モンスターで、役割はただの偵察だ。すぐに本隊のハンターウルフに知らせるはず」
ハンターウルフ:群を作って生活しているスカウトウルフの上位タイプ。群に危険が迫ると全力で排除しようとする。
「ということは……」
「奴らが匂いで嗅ぎつけてくる可能性は高い。今のうちに迎え撃つ準備をするのだ!」
まさかのモンスター襲撃!?
石の紹介まとめ
豚石:石と石との隙間が非常に狭くて質量が多く、やや重さが有る。熱すればゴムのように柔らかくなる。耐久性は弱い。
凛石:黒めで硬めの石。磨けば艶つやも出て高級感が増す。耐久性はそこそこ。
灯石:ほのかに光る白い石。光源となるマジックアイテムに加工させることが多い。磨けば明るさも増す。耐久性は弱い。
缶缶石:叩けば高めの音が出る石。打楽器に使用される事もあり、冷やせば高い音が、熱すれば低い音が出る。磨き上げることで更に大きな音を出すことも可能。耐久性は中の下。
蛇石:蛇のようにうねった模様が特徴の石で、色や形は冷やしたり熱したりすることで変化する。耐久性は様々。
怒竜石:発熱効果があり、暖を取るためのマジックアイテムに加工される事もある。熱することで発熱効果も上がる。耐久性はそこそこ。
雨石:周辺に湿気を放つ石。保湿のマジックアイテムに加工されることもあり、雨乞いの儀式に用いられたりもする。耐久性は激弱。
涼石:見ているだけで涼しくなりそうな青白い石。周囲を冷やすためのジックアイテムに加工されることもあり、冷やせば氷のように冷たくなる。耐久性はそこそこ。
漆黒石:ひたすら真っ黒な石で、軽めだがとにかく硬い。故に加工するのも一苦労で、よほど腕の良いドワーフか魔法士でなければ加工出来ない。耐久性は抜群。
耐石:見た目は普通の石ながらも頑丈。加工が難しいため、王族貴族が大枚はたいて魔法士に依頼して加工させるのが一般的。耐久性も良い。