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神の声リターン

『おおマキトよ、死んでしまうとは情けない』

『その声は……石の神様? というか何ですかその台詞。だいいち俺、倒れただけで死んだわけでは……』

『いや、ほんの冗談だよ。台詞に関しては有名なやつをチョイスしたつもりなんだがな。真面目に返されるとは思わなんだ』

『はぁ……』


 何気ないやり取りをしているけれど、いったいここは何処なんだ? 白い霧に覆われてる感じで何も見えないぞ?


『見えなくて当然、お主の脳裏に直接語りかけておるのだからな。そもそもお前さん、気を失っとるのを忘れてはおらんか?』


 そうだった。ブレイブガゼルを仕留めた直後、突然倒れちゃったんだっけ。


『急激に魔力を消耗したからだ。地上のあらゆる生き物は魔力を有しておる。枯渇(こかつ)すれば物理的な行動は不可能。回復するまで眠り続けることになるぞぃ』

『そうなんですか!?』


 これは知らなかった。なら魔法はなるべく使わないほうがいいのか。せっかく使えるのに残念だなぁ。


『この世界では常識なのだがな。まぁお主は別世界からの転生者だからな、教えなかった私にも責任があろう。そこで今回は特別に回復してやるぞぃ』

『本当ですか!? 助かります!』

『なぁに、こうでもせんと一週間は眠り続けてしまうからな。次からは使用前に警告を出すようにしてやろう。そうすれば事故で昏睡するのは防げるであろう』


 メッチャ有りがたい。これなら安心して使えるぞ。


『さて、そろそろ目覚めの時だな。最後に1つだけアドバイスをしてやろう。全神経を身体の1ヵ所に集中させ、一気に解き放つよう鍛えることだ。さすれば魔力の最大値も上がって行くだろう。ではな、しっかり精進するのだぞ』



 シューーーーーーン!



「……ん? ここは……」


 さっきの空間とは違い、ハッキリと見覚えのある部屋で目覚めた。傍らにはガルスさんと酒場の看板娘であるマロニーさん(30歳)がいて、俺が目を覚ますと安堵の表情で話してくれた。


「酒場の一室だ。あの野暮医者の家じゃ寝かせられる場所がねぇからな」

「具合の方はどうだいマキト?」

「あ、すみません。魔力が枯渇しちゃって倒れたみたいで……もう大丈夫です。ヤースさんが運んでくれたんですか?」

「ああ。真っ青な顔してお前を担いでやがってよ、「アニキ、マキトが死んじゃうッス~!」とか大声で叫ぶもんだから、何事かと思ったぜ」

「コリンズ先生が言うには魔力枯渇だってさ。いま薬を用意してもらってるから、安静にしてなよ」


 マロニーさんの言うコリンズ先生とは村で唯一のお医者様のことだ。80過ぎの御老体だし、あまり迷惑はかけられない。


「そんな薬だなんて大袈裟な――」

「バッキャロゥ! 下手すりゃ死ぬとこだったんだぞ!? テメェの命をテメェで大事にしねぇでどうすんだ!」

「ガルスの言う通りだよ? 親から貰った大事な命だ、無茶な事をしちゃダメさ。しばらくは安静にしてることだね」

「す、すみません……」


 2人に説教され布団の中で縮こまる。まるで両親に怒られてるような感じだ。もしも生きていたらこんな感じだったかもしれない。


「…………」

「どうしたマキト、俺が茶を(すす)るのがそんなに珍しいか?」

「いや、こうして見ると、ガルスさんとマロニーさんって夫婦みたいだなって」

「ブッフォッ!」

「ちょちょ、ちょっとマキト、いきなり何を言い出すんだぃ!」


 実際お似合いなんだよなぁ。ガルスさんは独り身だしマロニーさんも恋人はいないらしいし。それに……


「ヤースさんが言ってましたよ。「あの2人、さっさとくっつかないッスかねぇ。端から見りゃ相思相愛なのがバレバレなんスけどねぇ」って」

「あ、あんの野郎……」

「会ったらタダじゃ置かないよ!」


 ガルスさんが頻繁に酒場に通ってるのは知ってるからね。本人は酒好きを理由にしてるけど、マロニーさんが目当てなのは殆どの人が気付いてるんだ。

 これで少しは進展するかな? ヤースさんはボコられるだろうけれど、人助けだと思って耐えて欲しい(←悪魔の所業)。



 ドタドタドタドタッ!



「アニキ~ッ! コリンズ先生が薬の調合をしてくれたッス~! お、意識が戻ったんスねマキト、良かったッ――」

「ヤース! テメェこっち来い!」

「酒場の裏まで面貸しなさい!」

「ヒィ~~~!? どうして2人が怒ってるッスか!」


 慌ただしく3人が出ていく。誰も居なくなったところで、神様のアドバイス通り全神経を右手に集中させた。

 イメージするのはストーンバレット。小石を握っているところを強くイメージし、それを一気に――


 

 ドタドタドタドタッ!



「マキトーーーッ! 倒れたって聞いて駆けつけたわよ! ちゃんと生きてる!?」

「――って、アリサ?」


 駆け込んで来たのは幼馴染みのアリサ。1歳下で獣耳がヒョコヒョコと可愛い活発な女の子だ。


「ちゃんと生きてるよ。いま精神を集中させてるんだから静かにね」

「何それ、回復のお祈り? 怪我が治ったりするの?」

「怪我はしてないよ。それより静かにしててね」

「あ、分かった。魔法撃ったりするんでしょ? 聞いたわよ、魔法使って魔物を倒したって。あたしも見た~い!」

「ダメダメ、見せものじゃないんだから。頼むから静かにね」

「え~っ、あたしも魔法見たい見たい見た~~~い!」グイッ!

「あ、コラッ、首を引っ張――」



 ボォン!



「うわっ!? ビックリしたぁ!」

「どあっっっちぃぃぃ! ふーーーっ、ふーーーっ! ビックリしたじゃねぇよ! 手があっちぃぃぃ!」


 アリサに邪魔された結果、右手に集まっていた魔力が暴発。熱した鉄を握ったかのような熱さを感じ、手に息を吹き掛ける。部屋が燃えたりしなかったのが幸いだ。


「おいどうした、今の爆発音はなんだ!?」

「あ、ガルスさんにマロニーさん、ついでにヤースさんも聞いて! 目の前でマキトが爆発したの!」

「「「爆発っ!?」」」



 このあとメッチャ怒られた。なぜかアリサにまで。つ~かアリサが原因だっつ~の!



 その日から神様に教えられた自己鍛練を行う日々が始まった。幸いガルスさんからは仕事の手伝いはしばらくやるなって言われてるからな。暴発が有ったから心配してくれてるんだと思う。

 お陰で鍛練がとても捗っていて、今日も畑を眺めつつ励んでいるところだ。ちなみにステータスは以下の通り。


 名前:マキト

 HP:25\25

 MP:12\12


 これが現状。先日ブレイブガゼルと戦った時がMPは8だったから、1日で4ポイント上昇したことになる。メテオフォールの消費MPが300だから、ザッと30倍は必要ってことだ。先はまだまだ長いな。


「マキトーーーッ、遊びに来てやったよーーーっ!」


 またアリサか……。手伝いを休むって聞いたらこれだよ。正直言うとアリサは元気が良すぎて疲れるんだよなぁ。


「なによその、いかにも迷惑してま~すって顔! あたしが来たら不満なわけ!?」

「不満じゃないけど……。まぁ邪魔をしないなら何してもいいよ」

「じゃあマキトをドツき回しても良いのね!? せぇ~~~い!」

「いってぇ! 病み上がりの少年をドツくなよ」

「ただの魔力枯渇でしょ。寝てれば治るのに、ガルスおじさんって心配性ね」


 ガルスさんは昔からそうだ。血が繋がってもいない俺を大事に育ててくれた。その割には両親との関係を聞いたら言葉を濁すんだけれど。

 でも魔法が使えると分かった以上、いずれは村を出るつもりだ。その時にでももう一度聞いてみようかな。


「おいお~い、マキトはまたサボりかぁ? よそ者のくせに良いご身分だよなぁ」

「あ、ペドロ……さん」


 嫌な人に会っちゃったなぁ。このペドロっていう青年は何かと理由をつけて俺をバカにしたり挑発したりしてくるんだ。

 ヤースさん曰く、よそ者の俺が村の人たちに歓迎されているのが気に入らないとか。俺は知らんがなって感じにスルーしてるけどね。


「聞いたぜ? たかが鹿相手に気絶させられたらしいじゃねぇか。はっ、情けねぇったらありゃしねぇ」

「む? ちょっとペドロ、マキトが戦ったのは只の鹿じゃないわ、鹿の魔物よ! それにペドロだって仕事もしないでブラブラしてるじゃない」

「お、俺はいいんだよ、この村の生まれなんだから。でもマキトは――」

「はぁ? いいって何よいいって。邪魔するならあっち行ってよ、シッシッ!」

「チッ……クソッ」


 悔しそうに去っていくペドロ。アリサには感謝するけど、ペドロには俺自身で一矢報いたいところ。ストーンバレットを当てるわけにはいかないし……


『ストーンメイキング:様々な形の石を作り出し設置する魔法。大きさの調整も可能で、上に積み上げたり横に繋げたりもできる』


 お、良さそうなのが浮かんだぞ。これなら俺がやったとは思われないし、これをペドロの足元に――



「うわぁ!?」ドシン!



 突然現れた大きな石にペドロの足が引っ掛かり、マヌケ面を晒して激しく転倒。


「クッ!」


 偶然目撃した村人たちからクスクスと笑われ、顔を真っ赤にして走り去った。

 よし、これからは因縁をつけられる度に転倒させることにしよう。


「ンフフフ♪ 見た今の、ペドロってばダッサイ格好だったよね~」

「うん。少しは溜飲(りゅういん)が下がった気がするよ」

「でも……」


 アリサが俺の耳元で( ささや)く。


「あれやったのマキトでしょ?」

「!?」ギクッ!

「フフ、動揺してるって事はそういう事よね~!」


 何て感の鋭い……。嘘が下手な俺は誤魔化すこともできず、黙って首を縦に振る。


「やっぱりそうだったんだ。ねぇ、黙ってて欲しい?」

「そりゃまぁ。少なくともペドロには……」

「そんな意地悪しないわよ。あたしだってペドロは嫌いだもの。でもその代わり~」


 何を言われるのかと身構えていると、意外なことを要求してきた。


「あたしも魔法使ってみたい!」


 面倒臭いことになってきたぞ~。


登場人物の紹介


マキト:本作の主人公で10歳の人間男児。赤ん坊の時に両親を亡くしており、両親の知人と名乗るガルスという人物に育てられてきた。

 神が宿る石に触れたために石の知識と魔法が身に付き、ラバ村での生活水準の向上を目指し始める。


ガルス:マキトの育ての親で35歳の人間の男。若干強面ながらも子は優しい……とマキトは思っている。

 マキトの両親について何やら知ってはいそうだが、頑なに話そうとはしない。


ヤース:ガルスをアニキと慕う30歳の人間の男。赤ん坊だったマキト及びマキトを抱えるガルスと共に、約10年前にラバ村へとやって来た。

 ガルスとマロニーの関係が深まるのを陰ながら応援席しているらしい。


マロニー・クラフト:酒場の看板娘で30歳の人間の女。ハッキリと物を言う性格で、ガルスとはしょっちゅう衝突している。だが喧嘩するほど仲が良いのか、夜な夜な2人で密会しているという噂も……


コリンズ・イシューリア:治療院を開いている87歳のハーフエルフ。病気や薬草に詳しく、村人が健康でいられるのも彼のお陰と言っても良いくらい。たまにサボって昼間から酒場に入る姿を度々目撃されているとか。


アリサ・ノーレン:マキトの1歳下で獣人の少女。マキトとはラバ村での幼馴染みで、暇さえあればマキトのところにやって来る。

 活発な性格で、いつもマキトを振り回している。


ペドロ・クライマー:ラバ村の青年で他所から来たマキトを異常に敵視してくる。両親も同類で、他の村人に対してマウントを取る言動により、村人たちからは距離を置かれている。


 ジローム・マーレイ:ラバ村の村長。いや、まだ登場してないでしょ、フライングです!


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