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目覚める石属性

 ラバの村。その名を聞いてピンとくる奴はいないだろう。理由は単純、辺境も辺境で大陸の片隅にある極々小さな村だからだ。

 そんな過疎地の村で生活する俺は前世の記憶がある転生者である。

 だが誇れるものは何もない、ノンスキルの一般ピーポーだ。そう、俺に特別な力は備わってはいない!

 どうだ、ガッカリしたか? うん、俺も非常にガッカリしている……。


「ん? 何か気落ちしてるのかマキト?」

「え……い、いや、何でも……」

「そうか? まぁ何でもいいが、薬草を摘みに行くんだろ? 気ぃつけてな」

「うん。行ってきます、ガルスおじさん」


 衣食住のお世話になっているガルスさんに見送られ、近くの山を登り始める俺ことマキト。そう、なんの因果か前世と同じ名前が付けられてるんだよ。

 ガルスさんに聞いたら、俺が赤ん坊の時にマキトという単語を偶然口にしたのが理由らしい。前世の記憶があるくらいだから無意識に喋ってたのかもな。


「――って、考え事しながらやってたら雑草が混じっちゃったよ。これが石だったら間違えないんだけどなぁ」ポイッ


 今でも思い出す。捨て子だった俺は過疎地の養護施設で生活していたんだ。スマホなんてもんは与えられなかったし、同年代と遊ぶにしたってやる事は限られていた。だから1人の時は石を集めるのが趣味になっていて、先生からの誕生日プレゼントで貰った石の百科事典は俺の宝物だったな。


「ってマジィマジィ、前世じゃ知的好奇心に負けて急斜面から落っこちたんだ。石に興味を持つのは止めとこう」



 …………。



「でもなぁ、せっかく別の世界に来たんだからこっちの世界にある石も色々としらべたいんだよなぁ」


 前世じゃ友達から石博士なんて呼ばれてたぐらいだしな。三度の飯より石が好きだったと言っても過言じゃないぜ。

 まぁそんな石のせいで死んじまうなんて皮肉が効きすぎてるっつ~かね、しかも転生先でも孤児ときたし。ガルスさん曰く、俺の両親は両親はとっくの昔に死んでるらしい。何てこったいだよまったく……。


「あ~、気晴らしに石集めでもしたいなぁ」


 シュインシュインシュイン……


「そうそう、あの時見つけた石もこんな感じに光ってたっけな――」



 シュインシュインシュイン……



「――って、あの時の石だぁぁぁ!」


 間違いない、前世でも見つけた不思議な石だ。今度は急斜面じゃなく、平坦な山道の脇のところに落ちている。今なら簡単に拾えそうだ。


「よっと。ホントにうっすらと光ってるな。前世で見たまんまだし、マジックアイテムって事もなさそうだ。世界共通で存在する不思議な石? う~ん……」


 そんな風に首を傾げていると、不意に重苦しい声が脳裏へと響く。



『珍しい事もあるものだ、転生した先でもこの私と出会うとはな』

「なっ!?」


 今のは何だ、頭の中に直接流れ込んできたような……


『これはあいすまん。いま行っているのは念話というものでな、口を開かず直接脳裏に語りかけるスキルなのだ』


 え……じゃあ俺に話し掛けてるのは……


『うむ。そなたが手にしている降臨石(こうりんせき)、それが私だ』

「おおっ!」


 俺の心が読まれてる!? しかも話し掛けてるのが石って、これもうファンタジーやんけ!(←そういう世界やし)


「というか、石ってこんな感じに渋い声で喋るんだね」

『普通は喋らぬ。我ら神々は時折こうして下界へと降臨し、物に宿って見守るようにしておるのだ』

「え、まさかの神様!?」

『うむ。出来うる限り力は抑えているのだがな、偶然にも波長が合ってしまうと光って見えたりするものなのだよ』


 じゃあ前世の時も波長が合ったから光って見えたのか。つ~か神って言われて自然に受け入れちゃってる俺っていったい……。


『悲観することはない。信じてしまうのも波長が合ったからであると考えられる。現に神であるのは間違いないのだからな』

「ま~た他人の心を読んでる。でもまぁ心を読めるんなら本当に神様なんだね。あ、そうだ、村に持ち帰って磨いたほうがいい? さすがにその辺に戻すのは無礼だよね?」

『その必要はない。下界の者に見つかったとあらば天界に帰らねばならんからな』

「あ、帰っちゃうんだ……」


 せっかく磨いて神棚に乗せようと思ってたんだけどな。


『だが二度もお主と出会うとは、まこと奇妙な縁である。どれ、1つ施しをしてみようじゃないか』

「施し?」

『なぁに、ちょっと力を引き出してやろうと思うてな。石に(まつ)わる知識や可能性、魔法なんかも良いだろう。だがあまり期待はするなよ?』

「いや、そんなん言われたら逆に期待しちゃいます――って、ええええ!?」



 シュィィィィィィ!



 手にした石から強い光が放たれる。あまりの(まぶ)しさで直視出来ず、反射的に目を閉じてしまった。そこからしばらく意識が途切れるのだが……



「――キト」

「――マキト!」


 誰かに強く揺すられているのに気付き、ふと我に返った。


「あ、あれ、ヤース……さん?」


 揺すっていたのは村の青年ヤースさん。ガルスさんを兄貴と呼んで慕っている人だ。


「どうしたんですか、そんなに慌てて?」

「何言ってるッスか! 狩猟をしてたら俯いたまま動かないマキトを見つけたんスよ!」


 どうやらあの降臨石? とかいう神様の光を浴びてから意識が飛んでいたらしい。


「俺は大丈夫ですよ。ちょっと珍しい石を見つけたから眺めていたんです」

「い、石ッスか?」

「はい。これなんで――ってあれ? 石が無くなった!?」


 今の今まで手に収まっていたはずの石が忽然(こつぜん)と消えていたんだ。まさか夢だったのか? いや、夢にしては手に付いた土が残ってるし随分とリアルな声だった。そういや天界に帰るとか言ってたっけ? なら消えたのも頷ける。


「よく分かんないスけど気のせいじゃないッスか?」

「……みたいです」


 力説すると俺がおかしいみたいに言われるし、気のせいってことにしとこう。


「何かすみません、心配させちゃ――」

「シッ!」クィクィ


 ヤースさんが喋るなのジェスチャーを。指で差された方を見ると、茂みの向こうで鹿の群が闊歩(かっぽ)していた。

 そうか、ヤースさんは食料調達で来てるんだもんな。邪魔しないよう身を低くして隠れていよう。


「…………」じり……じり……


 弓矢を構えつつ慎重に近付いていくヤースさん。本来なら何事もなく仕留められるところだったが、この日は不運に付きまとわれていたらしく……


「へっ……へっ……へっ……」



「へっっっくしょい!」


 大きなクシャミをしてしまい、鹿の群が一斉に走り出してしまった。


「ああっ、貴重な食料が遠ざかっていくッス! マキト、追うッスよ!」

「はいっ!」


 獲物に逃げられるのがよっぽど悔しいのか、ヤースさんは鼻息を荒くして追跡を始める。俺も後に続くわけだが、逃げる鹿を見ていると、不意にあるワードが浮かび上がる。


『ストーンバレット・対象向けてに小石を発射。殺意を込めれば威力も増す』

「ストーン……バレット?」


 無意識に口にするとそれが攻撃魔法であることが分かり、どういった現象が起こるのか脳裏で鮮明に再生された。


「小さい石を弾丸のようにぶつけるのか。これなら……ストーンバレット!」


 目についた石を拾い上げ、鹿目掛けて投げ付ける。すると石が途中から急加速を始め、1頭の鹿へと……



 バスッ!



「やった、当たった!」


 最後尾を走っていた鹿に見事命中。石はそのまま貫通していき、鹿は前のめりに倒れて動かなくなった。発動まで時間も掛からないし、今後は狩猟でも役に立ちそうだ。きっとガルスさんも喜んでくれるぞ。


「え……な、なんスか今の! 何をしたんスかマキト!?」

「石属性の魔法です。それよりあと4頭、全部仕留めますよ――ストーンバレット!」


 残りの鹿も次々と仕留めていく。ターゲットを目で追えば自然と追尾するのも分かってきた。途中でそれせばわざと外す事もできるっぽいな。


「す、凄いッスよマキト、短時間でこれだけ狩れるなんてお手柄じゃないッスか! いつから魔法なんて使えたんスか!?」

「ついさっき――と言っても信じます?」

「もう何でもいいッス!(←いいのかそれで……) それより残るは1頭ッスよ!」

「はい、分かってます」


 随分と山奥まで来ちゃったし、そろそろ引き返したいところだ。奥に行くほど魔物との遭遇率も上がるしな。

 と言ってもこの辺りじゃ魔物なんて早々お目にかかれたりはしな――



「キィィィィィィ!」

「「!?」」


 聴いたことのない鳴き声に驚き、俺とヤースさんは思わず足を止めた。前方を注視すると追っていた鹿も走るのを止め、仲間と思われる別個体の鹿へと近寄っていく。あの別個体が鳴き声の主だろう。


「鹿ってあんな鳴き声するんですね、初めて聞きましたよ」

「お、俺は何度か聞いたッスよ……」

「そうなんですか――って、どうしたんですかヤースさん、めっちゃ震えてますよ?」


 見れば傍らのヤースさんは何かに怯えるように身震いしていた。が、すぐに震えていた意味が分かる。


「でも良かったですね、獲物がもう1頭増えましたよ」

「ななな、何言ってるッスかマキト、あれは普通の鹿じゃないッス、ブレイブガゼルって言う列記とした魔物ッスよ……」

「え?」


 言われてみれば追っていた鹿よりも一回り大きい気がする。それに……


「……角の形が違う?」


 普通の鹿とは違い、1本の太い角が頭の中央から生えていたんだ。


「そうッス、あの角で獲物を刺すんスよ。刺した後は抉るように振り回したりするッス。熊ですらあれで一撃ッス」

「…………」


 思わず生唾を飲み込む。この歳まで魔物とエンカウントした事はなかったからだ。しかも相手は熊ですら一撃の猛者。いくら魔法を使えてたとしても、命を危険には晒したくない。


「それって凄く不味いんじゃ……」

「パネェくらい不味いッス。気付かれないうちに逃げるッスよ」

「分かりました――」


 パキッ!


「「!!」」ピクン!


 しまった、足元の枝を踏んだ音で2頭がこっちに振り向いた! 普通の鹿は逃げ出すものの、敵だと認識したであろうブレイブガゼルは青いオーラを(まと)ってこちらに突っ込んできた!


「あんなのに当たったら骨が砕けるッス、樹木を盾にしてやり過ごすッスよ!」

「は、はい!」


 さすがに樹木に突っ込むのは無駄だと悟ったのか、突進していたブレイブガゼルは樹木の前で急停止、そこから横っ跳びで角度を変えてきた!

 普通の鹿の動きとは全然違う。これが魔物なのかと思わせる動きだ。


「な、なんつ~動きをするッスか、人間業じゃないッス!」(←そりゃ人間じゃないし)


 このままだと殺られる! なら殺られる前に殺るだけだ!


「思い通りに行くと思うなよ――ストーンバレット!」



 バシッ!



「キィィィィィィ!」


 他の鹿と同じように倒れるのを想像していた俺の考えは甘かった。


「う、嘘だろ!? 魔法を弾くなんて!」


 信じられないことにブレイブガゼルには通用せず、そんなものは効かないと言いたげに雄叫びを挙げてくる。


「ダメ……ッスか。こうなりゃ賭けッス。マキト、自分が囮になるからマキトは逃げるッスよ!」

「ええ!? そんなことしたらヤースさんは!」

「それは仕方ないッス。少なくともマキトを巻き込んだ自分が責任を取るべきッスから」

「ヤースさん……」


 そう言ってヤースさんは立ち止まり、奴に向けて弓を構えた。いくらなんでも無茶だ、魔法を弾くんだから弓矢が通じるわけがない。

 何か――何か手はないのか!



『メテオフォール・対象に隕石(いんせき)を落とす。効果範囲が大きいため、対象の5メートル以内にも効果を及ぼす』



 再び例のメッセージが脳裏に流れ込む。

 メテオか、漫画やゲームで言うところの大魔法ってやつだ。これなら!


「離れてくださいヤースさん!」

「えっ!?」

「速く!」

「わ、分かったッス!」


 ただならぬ俺の忠告にヤースさんが慌てて距離を取る。ヤースさんが離れたことで、ブレイブガゼルのターゲットが俺に変更。しかし後ろの絶壁が気になるのか、突進を躊躇(ためら)っていた。

 サンキュー! それだけでも余裕ができたってもんだ。


「これで終わらせてやる――メテオフォーーール!」


 グゥン!


 俺の頭上に影が差し込む。まさかと見上げれば、想像より3倍は大きい隕石が急降下していた。

 超デッケェ! こりゃ5メートル範囲は近付けないな。ブレイブガゼルもメテオに気付き猛ダッシュを開始。


「逃げるか。だが遅い、俺の魔法は追尾ができるんだ、食らえぇぇぇ!」



 ドォォォォォォン!



 周囲の木々を巻き込む形でブレイブガゼルに直撃! 役目を終えて消えたメテオの跡には丸潰れになった――ウゲェ! グロいグロ過ぎる……。


「や、やったッスか?」


 木陰から恐る恐る顔を出すヤースさん。よかった、無事みたいだ。


「てかヤースさん、その台詞はフラ……」



 フラッ……



 あれ? 急に意識が遠退いていく?



 ドサッ!



「マキトっ!?」


 俺に駆け寄って叫ぶヤースさんの声が徐々に小さくなっていく。もしかしなくても俺、地面に倒れてる? そう認識した直後、俺は意識を手放した。


 今回登場した魔法の紹介。


ストーンバレット:小石を勢いよく飛ばす石属性の魔法。小動物なら即死する威力を出せる。近くの石を使用することで消費魔力を抑えられる。


メテオフォール:隕石を落下させる石属性の魔法。威力特大で魔力の消耗も激しい。上手く行けばオーガやサイクロプスですら一撃で倒せる可能性あり。

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