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雨上がり

作者: 製本業者

雨が降っていた……あの日と同様に。

庭に転がるラジコンカーに当たる音が、和音を乱す。

あの日から捨て置かれ、雑草が絡まる車の金属部分は真っ赤になっている。

分かっている、もう戻ってこないのだと。

時間だけが、流れていく。其れは、雨と共に赤色の水が流れ落ちる事でも明らかだ。

だが……


今となっては、彼の日日はもう戻ってこない。

今日何度目になるのか分からないため息をついた。

かっては、この和室にあっても、喧噪に満ちていた。

勢いよく走り回る足音。騒がしい良く通る声。乱暴に開け放たれる襖や扉。

だが今や静寂に支配されて、小さなはずの雨音すら大きく響いている。

喉の渇きを覚え、お茶を入れにキッチンに向かう。

お湯を沸かすために電気ケトルのスイッチをONにすると、漢字が模様代わりに描かれた湯呑みを食器棚から取り出す。

そのときになって、緑茶も紅茶も切らしている事に気がついた。

わざわざ買いに行くほどの事でもない。湯呑みにインスタントコーヒーを入れ、牛乳を垂らしてから混ぜる。

この湯呑みを、なぜか子供が気に入って使っていた事を思い出す。

あの頃は、真っ先に「これぼくの」と奪うので、私は全く使えなかったものだ。


お盆に乗せた湯呑みから零れないよう気をつけながら部屋に戻ると、ふっと一息。お盆を机に置き、座椅子に腰を落とすと、熱いコーヒーを両手に持って啜るようにして飲む。

牛乳のおかげで、苦味は感じられ無い。同時に酸味も殺されいるのは残念だが。

周囲は、私の立てる音で支配される。


気がつくと雨音が消えていた。

雨が上がっていたようだ。

ガラス窓の障子が、先程までに暗い色合いから、徐徐に明るい白へと変わっていく。

「ただいま、おじいちゃん」

どたどたという足音と共に玄関から聞こえる、幼い子供特有の甲高い声。

ああ、もうそんな時間か。

そんな事を思いながら「良く来たね」と玄関に向けて声を張り上げると、ヨッコイショとつい声を漏らし、腰を上げた。

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