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第31話 亜香里って、そういうラノベが好きなのか…⁉


 高野碧音(たかの/あおと)はアズハと別れることになった。


 それはそれでよかったのかもしれない。


 あんなヤバい奴と今後も関わっていたら、どうなっていたかわからないだろう。

 もっとも、あの流れ的に、彼女のマンションの部屋に監禁されていた可能性だってある。


 そう考えると、ゾッとするレベルで、背筋が凍ってしまいそうだった。






「小説のコンテストには、別の作品でエントリーするしかないよな」


 碧音は今、パソコンの画面と向き合っていた。

 画面上には、小説の文章が羅列されているのだ。


 今まで一生懸命に書いてきた小説のデータをコンテストにエントリーしないのは、非常に惜しい。


 小説投稿サイトでも、常にジャンル別で三〇位内に入り続けていた実績のある作品。


 だがしかし、この作品は、アズハと共に築き上げてきたもの。

 今後はもう、彼女とは関わらないと心に誓ったのである。

 亜香里に対しても、酷いやり方をしてきたりと許せるものではなかったのだ。


 どんなに作品の質が良かったとしても、碧音はアズハと繋がりのある作品を投稿し、それを有効活用したくはなかった。


 アズハの力を借りているようで、どうしても嫌だったからだ。


 だから、碧音は自分らしい作品を、今回のコンテストにエントリーすることにした。




 碧音はキーボードを叩き、画面上に文字を入力し始める。


 新しい作品を書くことにしたのだ。


 今まで築き上げてきたアズハとの小説は消さずに、別のフォルダにしまっておこうと思った。そして同時に、今ネットに投稿している小説も非公開にする。


 それだけでいい。

 あとのことは、小説投稿サイトの自分のアカウント内で非公開にした事を報告をするしかないだろう。


 非常に残念であり、あともう少しでランキング入りする手前だったことも相まって苦しさもあった。が、碧音の決心に揺るぎがなかったのだ。


 新しく、自分なりの小説を書くこと。

 それが、今後小説を書いていく上で、一番大切なことになってくるだろう。


 碧音は、簡易的なプロットを、キーボードを使って画面上に打ち込んでいく。


 期限は明日の夜までなのだ。


 今、水曜日の朝――

 自宅を出るまでの間、時間が許す限り、できるところまでやろうと思う。


 碧音はプロットに集中し、ひたすら、描きたいことを箇条書き程度に書き出していくのだった。






 やっと、終わった――


 水曜日の学校が終わった。


 放課後を迎えた今、あとは気兼ねなく、小説に打ち込めるというもの。


 大野亜香里(おおの/あかり)とは一緒に帰宅することになり、簡単な会話をしながら通学路を歩き、岐路につく。


 亜香里もわかっているのだ。

 今日は、碧音が小説を書くことくらい。

 だから、寄り道はせず、共に家へと向かう。


「碧音ってさ。どんな小説書いてるの? 私、知らないんだけど」

「今は知らなくてもいいよ」

「どういうこと?」

「だって、新しく書いてるしさ。できたら、見せるよ」

「じゃ、その時に、見せてよね」

「うん」


 碧音は彼女と約束するかのように言う。


「それでね」

「なに?」


 隣を歩いている亜香里は、何かを話したがっている様子。


「私ね、この頃、ラノベを読み始めたの」

「そうだよな」

「え?」

「だって、昨日、真っ先にラノベコーナーに一人で行ってたし。この頃、ちょっと様子がおかしかったからさ」

「もう、気づいてたの?」

「何となくな」

「じゃあ、昨日、本屋に行った時、何を買うか隠す必要性なかったじゃない」


 亜香里は少々頬を膨らませている。


「でも、亜香里がラノベに興味を持ってくれてよかったよ」

「私だって、碧音のために何かをしたいし」


 彼女は自慢げな顔つきで返答してくる。


「それで、どんなの読んでるんだ?」

「それは、こういうの」


 亜香里は肩にかけていた通学用のバッグのチャックを開けた。


 いつも持ち歩いているのかと思い、碧音は彼女の方を確認するように見やったのだ。


「これよ」


 亜香里が堂々と見せてきたのは、確かにラノベである。

 だが、普通のラノベとは違う。


「そ、それって――⁉」


 彼女が手にしているのは、ラノベではあるのだが、少々エッチ系な感じのレーベルだった。


「な、なに? どうしたの? 私、ラノベを見せただけじゃない」

「いや……それはその、ラノベみたいな表紙はしているけど。少し違うっていうか」

「違う? どこも違わないと思うけど?」


 きょとんとした顔を浮かべる亜香里は、碧音がなぜ驚いているんだろうかと言った感じである。


「一応聞くけど、亜香里って、ラノベって詳しい方?」

「んん、そこまでは。私、つい最近から読み始めたから」

「そ、そうか……じゃあ、後々困らないように言っておくけど。そのレーベルね、エッチなシーンが結構あってね。まあ、それはわかるだろうけど。というか、どこまで読んだの?」

「四巻目の初めまで」

「そっか……でも、最初に手にしたラノベがまさか、そっち系だったとはな」

「で、でも、碧音も……こういうエッチなラノベを読んでるんでしょ?」

「よ、読んでないから」

「え、え⁉ じゃ、じゃあ、私は勘違いして。このラノベを読んでいたってこと⁉」

「そ、そうだよ」

「んん」

「どうした?」

「碧音の変態」

「なんで? 俺、何もしてないんだが?」

「でも、なんか、納得できなかっただけ。もう、普通に恥ずかしいじゃない」


 亜香里は手にしていたエッチ系のラノベを、サッとバッグの中へと戻す。


 あまりの羞恥心に、彼女は頬を真っ赤にしていた。


「わ、私、先に帰ってるから」


 彼女はそういうと、振り返ることなく、先早に立ち去って行ったのだ。


 恥ずかしさの具合に耐えきれなかったのだろう。


 碧音は、亜香里の気持ちを察し、追いかけることはしなかった。


 今はまだ、夜ではない。

 昨日のように、誰かに襲われることはないだろう。


 そう思いながら、碧音も彼女に遅れて、通学路を歩き始めることにしたのだ。






 その日の夕方。

 なぜか、先に帰ったはずの亜香里が遅れて家に帰ってきたのだ。


 そんな彼女と、碧音は階段を下りた直後に、自宅玄関でバッタリと遭遇したのである。


 どこかに立ち寄ってきたような感じであり、気まずげに、彼女は碧音と全く視線を合わせようとはしなかった。


「遅かったね」

「……話しかけないで。今は……」

「ごめん」

「……こんな感じの子でもいいのかな」

「何が?」

「だって、碧音の好きな人が、こんな変態なラノベを読んでるなんて」

「別に、俺は気にしないけど」

「けど、その表情。なんか、引き気味じゃない?」

「違う。そんな事、思っていないから。まあ、誰にでも失敗はあるし」

「……まあ、碧音がそう言ってくれるならいいけど。碧音も、あのラノベ、読んでみる?」

「そういうの、女の子から借りるっていうのは、ちょっとどころか相当気まずいんだが」


 碧音は苦笑いを浮かべるだけだった。


 すると、亜香里は靴を脱ぎ、家に上がったのだ。


「私、ちょっと、部屋の方に行くね」

「うん」


 碧音と亜香里は、何となく謎の空気感を察し、玄関のところで別れたのだった。


 亜香里は階段を上り、いつもの部屋へ。

 碧音はジュースをコップに注ぎ直すために、キッチンにある冷蔵庫に向かうのである。






 コップにジュースを注ぎ終えた碧音は再び自室に戻り、パソコン前の椅子に座る。そして、気合を入れて、コンテスト用の小説を書き始めるのだった。


 期限は明日。

 それまでに、書き終わらないといけないのだ。


 でも、一日二日では書き終えることなんてできないだろう。

 だから、碧音は短編用のコンテストに方針を変え、その目標に向かってキーボードを打ち始めるのだった。


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