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第2話 嫌いな彼女と同居なんて、最悪だ…


「なんで、あんたの家なんかに……」


 今日から過ごすために必要であろう荷物を手にしている彼女。


「でも、来たのは君の方だけど」

「うっさい、死ね」

「ご、ごめん……」


 なんで謝ってんだろと思う。


 そもそも、どういう経緯で、亜香里はこの家に住むことになったのだろうか?


 考えるのも嫌だ。

 いや、考えるのは辞めよう。


 高野碧音(たかの/あおと)はまた溜息を吐いた。

 今日は溜息を吐くことが多い気がする。




「来たね。えっと、亜香里ちゃんでいいんだよね。いつまでもそこにいないで、リビングに来てもいいから」


 リビングの扉のところから顔を出す父親。


「は、はい。今から行きます」


 大野亜香里(おおの/あかり)は笑顔で遠くから話しかけてくる父親に対して、返事をしていた。

 普通にしている分には、可愛らしく見えるから不思議だ。


「なに?」

「え、い、いや、なんでもないよ」

「あっそ。じゃあ、こっちばかり見るな」

「いや、見たくて見てるわけじゃ……」

「ん?」

「すいません……」


 碧音は彼女から圧倒されてしまい、口ごもってしまう。

 ここは素直に従うしかない。


 不幸なことにも嫌な女の子と今後、生活することになるのだ。

 余計に荒波を立てない方がいいだろう。


「……」


 玄関で靴を脱ぎ終えた亜香里は、碧音の方をジーッと見た後、何事もなかったように、不満そうにリビングへと向かっていったのだ。


 なんなんだよ、一体さ……。


 性格に難がある彼女と今後一緒に生活していくなんて、もはや地獄でしかない。


 学校生活も苦しいのに、家庭まで浸食されるなんて聞いてないんだが。






「碧音には、さっき簡単に話したわけだが。もう一度、言うと、亜香里ちゃんもこの家で住むことになってだな。居候って言い方もよくないしな。家族の一員ってことで、碧音もよろしく頼むからな」

「……父さん、なんで急に」

「しょうがないだろ。会社で、そうなったんだから」

「だとしても……」


 碧音が不満げな口調で、そう言い、左の方を見やると、同じソファに座っている亜香里から睨まれた。


 本当に彼女は碧音のことが嫌いなようで、ほぼ笑顔なんて見せてくれないのだ。


「私が今後、会社で仕事を続けていくためには必要なことなんだ。大人には大人の事情というのがあってだな」

「はあぁ……」


 もう面倒くさい。

 父親の長い話を聞くよりか、ここで中断させた方がいいと思った。


 本当に、父親は昔と違って弱腰になったというか。母親と離婚してから、色々と悩むことがあったのだろう。

 頑固な性格じゃなくなっただけ、マシだと思うしかない。碧音はそう考えることにしたのだ。




「それで、仕事と、この人って、どういう繋がりがあったの?」


 碧音はテーブルを挟み、反対側のソファに座っている父親の目を見た。


「それはだな……本当であれば、私は会社を辞めなければいけない状況だったんだが。今年から会社に入ってきた人がいてね。その人から、内の家族を住まわせてくれれば、リストラをなかったことにするって言ってくれたんだ」

「へ、へえ、今年入社って、すぐに高い役職に就けるものなの?」

「普通は無理だな。その人はな、最初の一か月で会社の売り上げに貢献したんだ。そういうこともあって、会社の社長からもすぐに信頼されて昇進したってわけなんだ」


 父親は淡々と説明してくれた。


 それにしても、すぐに昇進したってことは、父親と同い年か、それくらい人かもしれないと思ったのだ。


 でも、そんな優秀な人がなぜ、普通の社員である父親に頼み込んできたのだろうか?




「長話はよくないな。亜香里ちゃんは、どんな飲み物がいい? 冷蔵庫にあるものだったら、すぐに出せるけど」

「私は大丈夫です」


 リビングのテーブルには、すでに三人分の水が入ったコップがあるのだ。


 亜香里は意外にも遠慮がちであり、学校にいる時、碧音に対する話し方と大分違う。


 本当に同一人物かと疑ってしまうレベルだ。


 亜香里はテーブルに置かれたコップを手に、水を口に含んでいた。




「亜香里ちゃんは、碧音と一緒に住むことは知っていたのかな?」

「いいえ、さっき知りました」

「そうか。あの人、ちゃんと伝えていなかったのかな?」


 父親は首を傾げていた。


「父さんと、そのすぐに昇格した人とどういう関係なの?」

「その人とはね、会社での繋がりはそんなにないよ。部署も役職も違ったからな」

「え? じゃあ、え? どういうこと? 特に関係のないまま、いきなり出会って了承したってこと?」

「そうだな」

「それは……いい加減すぎるような」

「でも、私が辞めることになったら誰がお金を稼ぐんだ? 碧音がバイトするってことになったら辛いだろ?」

「う、うん。そうだけど……」


 でも、あまり納得がいかなかった。

 内心、モヤモヤした感情のまま、碧音もコップの水を飲むことにしたのだ。




「それで、一応、確認のために聞いておくけど。二人は知り合いかい? 玄関にいる時も普通に会話しているようだったし」

「いや、俺は……」

「はい、一応、知り合いです」


 意外にも亜香里は素直に話していた。


 碧音はドキッとしたのだ。

 なんで、そんなことを言ったのだろうか?


 碧音は気まずくなり、口元を閉じたのだった。


「そうか、知り合いなんだね。じゃあ、よかったよ。それだったら私も安心だよ。二人で仲良くやるんだよ」

「はい。そのつもりです」


 亜香里はすんなりと言った。


「それで、亜香里ちゃんはこれから生活する上で必要なものはあるかな?」

「今のところは大丈夫です。必要になった時があったら相談することになると思いますので」

「そうか。では、今のところは安心だな。後、どんなに親しくなっても変なことはしないように。やるにしても私が見ていないところでだな――」


 父親は明るい口調で、ふざけた感じに言う。

 昔のような怖い面影はなかった。


 それはそれでよかったと思う反面。

 亜香里とは今後どういう風に関わっていけばいいのだろうか?

 それだけが、今のところ大きな問題点であった。






「それで、なんで、あんたと一緒の家になるのよ」

「それは俺だって知りたいくらいだし。父さんの言い分とか、わけわからないし」


 父親は、ある程度話し終えた後、仕事のために再び自宅を後にしていったのだ。

 ゆえに、自宅には、二人っきりなのである。


「じゃあ、父親に言いなさいよ。そういうこと」

「しょうがないだろ。今日自宅に帰っていきなり、一緒に住むことになった人がいるって言われたんだし」

「ふんッ、私……あんたがいる家なら絶対に来なかったし」

「なにも知らなかったのか?」

「当たり前でしょ。ここの家に来た時、表札を見て、もしかしたらって察したくらいよ。それくらい、私だって知らなかったんだから」


 亜香里は怒っている。

 不満を爆発させているような態度をからだ全体で表現しているかのようだ。


「最悪……というか、ここで住むってことは、あんたと同じ浴槽に入るってこと?」

「えっと……そうなるね」

「キモ、本当に嫌」

「そもそも、俺が君に何か嫌がることしたか?」

「……そういうこと。あんたで考えなさい」

「わかんないだけど」

「ふん、そういうところよ」

「え?」

「なんでもない」


 彼女はソファから立ち上がると、家にやってくる時に所持していた荷物を持ち、リビングから立ち去っていくのだった。


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