その男、魔族にして警官
お疲れ様です。
今回は短編の綾奈の話に出てきたモブ君のお話です。
さすがにこのくらいでは怖くないよね?って感じ,どこにでもありそうな話になりました。
綾奈の話に出てきたり、狭間の魔術師ともちょっぴり関わりのあるモブくんの話。
最近は、ひとの観察にハマってるみたいです。
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魔法薬と魔族
大舘矢駅から少し離れた『オオタテヤ商店街』の交番で警察官として勤務する『ムナカタ』は、元は別の世界からの渡りビトだ。
元の世界では魔族として戦争に明け暮れていた彼であったが、根っからの人間への好奇心と、穏やかなオオタテヤ商店街の人柄と初めて食べた商店街のカレーパンの美味さに惹かれて、人間に紛れて定住していた。
彼の本来の姿は、二つの角と蝙蝠じみた黒い羽根、全身を黒い鱗で包まれており、悪魔とも竜とも取れるような姿をしているのだが、人間社会に紛れ込むため、人化魔術の補助薬として、狭間の世界に棲む魔術師『ビジュヒラム族』の調合した魔法薬を使っていた。
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彼がこの世界に迷い込んだ時、ある事件を追っていて殉職した警察官が一人いた。
事故を装い殺されたその警官の近くには、幸い誰も居なかったため、彼は丁度いいと思い、その者の姿を借り人間の姿に擬態することにしたのだった。
犯人はその後別の部署の刑事に逮捕されたが、後に獄中で亡くなったと云う情報が入ってきた。
そんな事件も忘れすぎた頃ーー
「ムナカタはいるか?」
この日も彼の職場、交番に『お届け物』をしに来たエリー(仮)。
交番の中にはこの交番勤務の彼と、近所の商店街のおじさんが話していた。
「いらっしゃい、エリー(仮)さま。今、迷子のおばあちゃんのお話をしていたんです」
そう言うと、おじさんはじゃあまた後で来るよと交番を後にした。
「仕事中にすまんな」
「いいんですよ。最近色々と立て込んでて、本来なら私の方から取りに行かなくちゃいけない身分なのに」
「気分転換になるから構わないさ。ずっと引きこもってられないタチだしな」
「ふふふ、エリー(仮)さまらしいですね」
「ところで、迷子のおばあさんの話が出てたようだが……?」
「そーなんです。と言っても噂程度ですが。先月、防犯用に商店街にカメラを取り付けたんですが、決まって夜遅くにお婆さんが一人映るって話が出てまして」
「寝惚けてるとか?」
痴呆が入った老人や夜間の散歩ではないのか
「そう思い、映像を色んな人に観てもらいました。結果は、この辺の人は誰も知らないってゆーんですよ」
「暗くて分かりにくいとかじゃないのか?」
カメラはそれほど高性能という訳でもないが
「私も最初はそう思いました。映像観るまでは……」
何故か目を背けるムナカタ。
「俺もそれ見れるのか?」
ちょっぴり怖いもの見たさと好奇心で聞いてみるエリー(仮)
「もちろんです。ちょっと待ってくださいね」
とスマホを弄り、動画を見せてくれた。
映像に映っているのは、夜のオオタテヤ商店街の一角、チキンサンドをひっそり売ってる惣菜屋のシャッター前。
暗くてあまり映像は鮮明ではないが、奥から柄物のロングスカートを履いて、腰の曲がった白髪の人が歩いてくる。
その老人はヨタヨタと画面の真ん中の道を通り過ぎ、消えたと思った頃ー
なんの脈絡もなく、電柱の上部に取り付けられているカメラに青白い老人の顔がドアップで映った。
「ひぇ」
びっくりして画面から遠ざかってしまった。
「やっぱりそーなりますよね?
目元にホクロがあって、牙生えた老人なんてこの辺じゃ見かけませんし、近所に引っ越してきたなんて人も聴きませんし……」
(え……イヤ、そーゆー事じゃないよーな気が……え?)
さすがに戸惑うエリー(仮)を他所に、冷静に語る警官は説明を続ける。
「何よりこのカメラ、電柱の上に付いてるんですが、簡単に人が登れる用に出来てる訳では無いので……人外の類いかもとか思ったんです」
「あぁ、吸血鬼とか……そーゆー?」
「ええ、でも何も被害にあったなんて話もなくて…ただの夜間徘徊者かなと落ち着きそうなんですよ。」
(心霊番組でよく見る、アクティブ幽霊とかじゃないのか?オレ疲れすぎか?)
淡々と徘徊者の人相について語る警官を尻目に、自分の目頭を軽く揉みほぐすエリー(仮)だった。
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なんとことはない魔族警官の日常の一コマ、おわり。
ありがとうございます。
次回、8/2に投稿できたらなあって感じです