幸せを呼ぶ魔道具・7
国王から呼び出され、戻って来たブレイクの報告を聞いて、エリシュカは驚いた。
「叔父様、貴族になるんですか?」
「うん。高魔力水作成装置開発の報奨だって。一代貴族だから男爵位だけどね」
「でもすごいです」
「エリシュカやリアンがいなかったら開発できなかったものだから、僕だけがもらうのも違う気がするんだけどね」
ブレイクは苦笑するが、エリシュカだけがいたところで、夢想するだけで開発などできないのだから、やはりブレイクがいてこそだろうと思う。
「そんなことありませんよ。きっかけが『森の息吹』だっただけで、これまでのおじ様の努力のすべてが認められたってことです。誇っていいことですよ」
「君は本当にいい子だねぇ」
ブレイクにポンポンと頭を撫でられ、エリシュカは頭を押さえつつ、「本当ですよ!」と付け加える。
叙爵式は来月。結婚式よりひと月前だ。
「あわただしくて申し訳ないけど、君にも来てほしいんだよね」
そう言って、ブレイクはリアンとエリシュカも招待してくれた。もちろん妻であるレオナも行く。
「ねぇ、エリシュカちゃん、ドレスどうしましょうか」とレオナは心躍らせていた。
「叔母様、無理しないでくださいね。私の刺繍のドレスもありますし。何なら私、手伝いますから」
「あら。これは私の楽しみなのよ。奪わないで頂戴、エリシュカちゃん」
笑ってくれるレオナに感謝しつつも、エリシュカは心配だ。
「レオナのドレスは心配しなくても僕が揃えてあげるよ。君は僕の宝物だからね。一番似合うドレスを作ってあげる」
「ブレイク、私、大人っぽいドレスがいいわ。あなたの隣で見劣りしないような」
レオナは、魔力欠損病で寝ていた期間、体の成長がゆっくりになっていて、実年齢に比べて若く見えることを気にしているのだ。
「どんな格好でも見劣りなんてするはずないけどね。いいよ。君の望むことならなんでも」
相変わらずの熱々ぶりに、見ているエリシュカの方が恥ずかしくなってくる。
「リアンもつれていくから、エリシュカから話しておいてよ」
「は、はい!」
ブレイクに言われ、エリシュカは翌日、リアンのもとを訪れた。
リアンはモーズレイと共にレイトン商会の工房で魔道家具の作成中だ。エリシュカが顔を出すと、モーズレイがにやにやしながら、「お前は休憩していいぞ」と言って事務作業用の個室へと追いやられた。なんだかんだとふたりは気が合うようだ。
「王都へ?」
「ええ。叔父様、叙爵されるんですって」
リアンはすっと真顔になる。
「……で、男爵? 高魔力水の評価にしちゃ、低くないか?」
「そうですか? でも、一商人が爵位をもらうのってすごいことじゃないですか?」
「まあ、そうだが。だが、得になることと言えば、貴族との顔つなぎができるようになるってだけで、元が伯爵家出身のブレイク様は、そこまで変わらないだろうしな」
「そうですか」
リアンが思いのほか喜んでいないので、エリシュカはなんとなくしょげてしまう。それを見たリアンはバツが悪くなったのか、明るい声を出した。
「まあでも、めでたい話か! でもなんで俺たちまで?」
「一応功労者だからってことらしいです。叔父様、王都でおいしいものを食べさせてくれるって言ってましたよ」
「そうか、じゃあたらふく食わしてもらうか!」
そのあとは、二人で新しい道具の話をした。
今度作ろうと思っているのは、冷風機だ。冬を温かくした後は、夏を涼しく。目標を決めて、リアンとあれこれ開発している時間が、エリシュカは一番楽しい。
*
ブレイク夫妻とリアンとエリシュカは、馬車に乗り、四日かけて王都にたどり着いた。
「うわぁ~!」
エリシュカは社交界デビューをしていないため、王都に来るのは初めてなのだ。
建物が大きいし、ひしめき合っている。もちろん前世の記憶の街の方が大きいが、普段田舎の町にいるエリシュカには、なかなか壮観だ。
「すごいですね。叔母様、見てください。きれいなドレスも売ってます」
「まあほんとね。小物もたくさんあるわよ」
「あとでゆっくり見る時間を取ってあげるよ。とりあえず宿に落ち着こう。君の体で無理してはいけないよ」
ブレイクはレオナをいとおし気に見つめ、腰を抱いてエスコートする。
エリシュカがそんなふたりをキラキラした眼差しで見ていると、すぐ隣にいたリアンが腕を差し出してきた。
「いいんですか?」
「慣れてないから下手かもしれないが、エスコートくらいさせてくれ」
耳まで赤いリアンの腕に、ぎゅっとしがみつく。
「えへ」
「……こうでいいのか?」
前を行くブレイク夫妻に倣って歩く。馬車を降りてから、宿の部屋までの短い距離だが、エリシュカはバージンロードを歩いているような幸せな気分だった。
翌日は朝から大忙しだ。
ブレイクが頼んでいたメイドが、エリシュカとレオナの着付けをしている間、ブレイクとリアンもなれない礼装に身を包みながら、打ち合わせをしている。
「え……?」
「というわけだから。よろしくね」
「こんな大事なこと、なんで先に相談してくれないんです」
「先に言ったら、あの子のことだ。辞退するに決まっているじゃないか」
「つまり、……ブレイク様はエリシュカにほかの選択肢は残していないんですね?」
「……僕はずるいからね」
ぱちりと片目を閉じられても、かわいくはない。
リアンはあきれたように彼を眺め、ため息をついた。