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没落人生から脱出します!  作者: 坂野真夢
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魔道具の暴走・3

「さて。君たちに質問だ。彼はずいぶん前からここにきているのかな?」

「いいえ、二度目です。実は……」


 ブレイクの問いかけに、リアンが代表して、魔道具が中古店で売られていたこと、その縁で調整に向かった屋敷でフレディにあったことを伝えた。


「そうか。中古店に出回っているのも問題だなぁ。……それと、リーディエ」

「はい」

「君は気づいた?」


 彼が聞いているのが、フレディとの血縁関係だというのは、すぐに分かった。リーディエは頷く。


「彼が、私の異母弟だということですか?」

「そう。……まあ、その瞳の色は珍しいもんね。君が知りたいなら教えてあげる。たぶん、バンクス男爵は言えないだろうから」

「本当に、バンクス男爵が私の父なんですか?」

「血縁上はね。育ててもいないのだから、僕は父とは呼べないと思うけれど」


 ブレイクはバッサリ言うと、小さく微笑んだ。


「フレディ君は、見かけ通りの年齢じゃない。実はリーディエ、君より二歳ほど年上、……二十一歳なんだ」

「……え?」


 フレディはどう見ても十五歳くらいだ。エリシュカの弟たちと同じくらい。精神的にはそれより幼い印象さえあった。


「あまり知られていないけれど、魔力欠損病という病がある。体内で、魔力の生成がうまくできなくなる現象だ。人間は魔力が行き届かないと生命活動が維持できないんだ。だから魔力欠損病になったものは遠からず死ぬ。どれくらい長く生きるかは、これまでの蓄えに寄るけどね」


 聞いたことのない病だ。発症数は多くはないのだろう。


「フレディ君はこれと似た病気にかかっている。彼の場合は、全く魔力が作られないわけじゃない。ほんのわずかだが、魔力は生成できているんだ。その代わり、眠っている時間が長く、成長が遅い。生まれてすぐはずっと寝てばかりいるので、死んでいるのではないかと奥方は気が気ではなかったそうだよ」


 エリシュカとリーディエは顔を見合わせた。自分の子供がいつ死ぬかわからないのだ。とてもまともな精神状態では居られないだろう。


「奥方は、彼が生まれてからずっと精神的に不安定だったそうだ。それでバンクス男爵とすれ違ってしまったんだろうね。メイドとの間に君ができたと分かったのはそんな頃だったらしいよ。知った奥方はますます不安定になった。君のお母さんを殺そうとしたこともあったそうだ」


 自分が奥方の立場だと思えば、やりすぎだとは言えない。ただでさえ精神が不安定なところに、夫の裏切りが発覚したのだ。正気でいられる方が稀だろう。


「バンクス男爵は、君たちの安全を優先して、君の母親に暇を出した。もちろん、相応のお金を渡してね」

「捨てられたんじゃなかったんですか?」

「見方によっては捨てたってことになるだろうね。結局それから、バンクス男爵と君の母親は二度と会っていない」


 リーディエは混乱してきていた。ブレイクの言い方を聞いていたら、まるで父がいい人のように聞こえてくる。だけどそんなはずはない。リーディエを一度だって抱きしめてくれない人がいい人なわけがない。


「君が生まれて、男爵は会いに行こうとしたそうだ。でも奥方が止めた。君が五体満足で生まれてきたことを知っているからね。これ以上、男爵が君たちを構えば、自分の心は死んでしまう。君が大人になるまで、生活に関してはしっかり保証する。けれどそれは自分の手でやるから、どうか親子とは手を切ってくれと、願い出たそうだよ。……夫人は夫人で、必死だったろうし、君たちのためにできる最大限の保証はしてきたはずだ。君の母上もそれを分かっているから、もう男爵と会わないという約束を了承したのだろう。……まあ、君は一番の被害者ではあるね。結果として父親と引き離され、なんの事情も知らされなかったんだから」

「私は……」

「君の母上はね、男爵のことも奥方のことも憎んではいない。僕を彼らに紹介したのは彼女なんだ。救えるならば救ってほしいと言ってね。フレディ君自身も成長し、魔力は以前よりは生成されるようになっている。それに僕の魔道具をつけて、起き上がれるようになったのが二年前かな。なかなか体に合わなくてね。少しずつ歩く訓練をさせて、体力をつけるように言ったんだ。護衛付きでひとりで動き回れるようになったのはほんの半年前くらいだよ」


 口で言えばひと言だが、なかなか良くならない息子を見つめる母親の気持ちを思えばとてつもなく長い時間だろう。


「フレディ君も屋敷に閉じこもっていたから、あまり時間の感覚がない。精神的には、まだ子供のようなものだし、親に言われた年齢が本当の年齢だと信じているんだろう。周りにも本人にも、ずっと病弱で、今は体力をつけるために運動させているっていう感じで伝えているのだろうね。だから護衛は魔道具が彼の体に危険なものだとは知らなかったんだろうし、フレディ君自身も、分かっていないんだろう」

「そう、なんですか」


 その事実を踏まえれば、納得できる点がいくつもあった。フレディはその見た目よりも言動が幼い。実際に起きている時間で考えれば子供の年齢しか生きていないのだろう。

 無邪気で幸せそうに見えていた彼が、急にいびつな存在に見えてくる。


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