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没落人生から脱出します!  作者: 坂野真夢
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魔道具の暴走・1

 翌日、ヴィクトルが頬を赤くしてやってきた。


「どうしたんですか? ヴィクトルさん」

「……余計なこと話したって怒られた。リーディエに」


 どうやら頬を叩かれたらしい。「本当に気が強いよね、あの子」とヴィクトルが苦笑する。


「冷やします?」

「ありがとう。エリシュカは優しいねぇ」


 その発言のタイミングで、間が悪くリーディエが入ってくる。


「悪かったですね。優しくなくて」

「俺はエリシュカを褒めたんであって、リーディエのことは言ってないよ!」

「言ってなくても聞こえました。心の声が!」


 リーディエはすっかりひねくれている。エリシュカは困りながらも、水で濡らしたタオルをヴィクトルに渡した。


「同情とかいらないから! もうこの話は終わりよ」


 リーディエはエリシュカに向かってそう言う。

 エリシュカもそれ以上突っ込むことはしなかった。

 「はい!」と返事をし、朝の掃除のはじまりだ。リーディエの指示の元、エリシュカとふたり、手際よく棚や床が拭かれていく。

 開店後一時間、多くはないが何人か客が来て、お買い上げはふたり。ようやく店内が静かになり、エリシュカはヴィクトルと帳簿に客の連絡先を清書していた。リアンは二階で作業中、リーディエは棚を整えていたそのタイミングで、フレディがやってきた。


「こんにちは!」

「い、いらっしゃいませ」


 また来たのか、という目で護衛を見ると、相変わらず困ったように頭を下げている。頼むからそっちで止めて欲しいものだ。

 とりあえず接客にはエリシュカが当たることにした。ヴィクトルがリーディエを呼びつけ、別の仕事を頼む。


「今日はどのような御用で」

「また魔道具を見せて欲しいんだ。この間は大きな魔道具を見せてもらったけれど、小さいものってないのかな」

「そうですね……。これなんかどうでしょう」


 エリシュカは棚に飾ってある腕時計を持ってきた。バンドは革製で、時計の機構自体に魔法は使用していないが、ボタンひとつで盤面を光らせることができるという光魔法を使った機構がある。


「暗くなっても時間を確認できるところがポイントです」

「へぇ。便利だね。父上にあげたら喜ぶかも! ね、ワイズ、どう思う?」

「きっと喜ばれますよ」


 フレディが弾んだ声で護衛に声をかける。

 聞いているエリシュカは心臓が落ち着かなかった。この会話だけでもフレディと父親の仲の良さが伝わってきて、リーディエが聞いていたら、どんな気持ちになるだろうかと考えたら、とても平静な顔をしていられない。

 フレディが悪いとは、エリシュカは思っていない。リーディエが私生児なのは別にフレディのせいではないし、おそらくそんな事情も、彼は知らないだろうから。

 幸せな親子なのも別にいい。だが、それをわざわざ見せないでほしい。エリシュカはこれ以上、リーディエが傷ついているところを、傷ついているのに平気なふりをしているところを、見たくないのだ。


(店員としては間違っているのかもしれないけれど、やっぱり帰ってもらおう……!)


 決意して、エリシュカは顔を上げる。


「あの、フレディ様……」

「どう、似合う? かっこいい?」


 いつの間にか、フレディが左腕に腕時計をつけていた。そしてカチカチとボタンをいじっている。光っては消える腕時計の盤面。それが急に、チカチカと急速に点滅し始めた。これは正常な動きではない。


「えっ?」

「……うわっ」


 やがてぱっと眩しいくらいに光り、腕時計からは小さな煙が出た。

 次の瞬間、フレディはふっと意識を失い、エリシュカの方へ倒れ掛かってくる。


「だ、大丈夫ですか!」


 同じくらいの体格とはいえ、エリシュカは力の抜けた人間を支えるほど力があるわけではない。一緒に倒れ、尻もちをついてしまう。


「大丈夫ですか、坊ちゃん」


 護衛が慌てて駆け寄って、彼を支える。だが、フレディは反応がなく、顔は真っ青で、生気が感じられなかった。


(どうして?)


 エリシュカは頭が真っ白になった。

 魔道具の暴走の原因も、フレディが倒れた理由もわからない。でもきっかけが何かわからなくても、自分のミスには違いないだろう。途端に足が震えてくる。


「どうかなさいましたか?」


 ヴィクトルが駆け寄ってくる。けれど、パニックになったエリシュカの頭に思い浮かんだのは、リアンだった。


「誰か……り、リアン! お願い、助けてください。リアン!」


 悲鳴に似た声に、ヴィクトルが驚いて立ちすくむ。止まらない叫び声に、すぐに二階からリアンが駆け下りてきた。


「どうした? なにかあったのか?」

「リアン、お客様が……!」


 彼の姿を見た途端、エリシュカの胸に安堵に似た気持ちが訪れる。


(いつの間に、だろう)


 この人がいれば安心できる。リアンが、そんな存在になっていることに気づく。今となっては頼りにしてきた叔父よりもずっと、リアンの方がエリシュカにとっては信頼のおける人物になっていたのだ。

 リアンの手が肩に触れ、エリシュカの動揺をなだめるようにさすってくれた瞬間、エリシュカは震えがおさまるのを感じた。



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