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異世界だろうが教師の在り方は変わらない  作者: 物語 紡
10時間目 王国祭
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1.手紙

 クオリアは今目の前にある難題に対して険しい表情をしている。

 いつかはこうなるだろうと予測はしていたし、これが避けては通れない道であることも分かっている。だが、いざ直面するとどうしても憂鬱な気持ちになってしまう。

 紅茶が入っているカップを手に取り、口へと持っていく。



 そして、一つ息をつき、目の前にある手紙の束に目を向ける。

 机の上に乗っている手紙の束から一番上の手紙を取り出し、内容を確認する。

 手紙の内容は予想通り茶会や食事の誘い、つまりお見合いのお話だった。

「・・・・・はぁ」

 クオリアは深く、そして重いため息をついた。



 マジカルゴでの救出、魔女の魔法に対する王都の防衛、キュールでの亡霊騒ぎ。全部自分一人で解決したわけではないが、それでもクオリアの評価が上がるのは当然の帰結ともいえる。

 そもそも、クオリア以外は爵位や地位なども持っていないのでクオリア以外、注目を浴びづらいのもあるのだが。

 評価が上がり王選での支持率も着々と伸ばしているクオリアの下に縁談話が持ち込まれるのは時間の問題であった。



 この縁談話はつまるところ家同士のつながりを持つことでお互いに協力していきましょう、という意味合いだが向こうの本音としては女王になる可能性の者と婚約できれば国の中でも絶大な力を持てると言った具合だ。

 そうでなくとも王族であるクオリアと結婚すれば王家の仲間入りとは言わずともそれなりに発言力は増すし、要職に付ける可能性もある。

 シェリーにも言われたし、自分もある程度理解していたとはいえ、いきなり束を見せられると気分が下がるのは仕方ないともいえる。

 今までは魔女の血縁者というレッテルのおかげでこういった話とは縁遠かったのだが。

 そもそもクオリアとしては今まで忌避してきた相手に手のひらを返すように縁談話を持ち込んで恥ずかしくないのかと思うのだが、所詮貴族社会なんてこんなものだろうとも思う。



 さて、この縁談話を受けるか否か。

 クオリアの気持ちとしては受けないことで決まっているのだが、そうすると問題が発生する。

 受けない以上、この手紙を送ってきた貴族はクオリアには力を貸さないだろう。現状、支持率が伸びているとはいえミランダ、クレハ、シェリーの三名には届かない上に政治や社交などの経験の浅い自分に力を貸すよりも他の者に力を貸したほうが得だからだ。



 王選は一人一票の選挙方式のため、少数の貴族から票を得られずとも市民から票を得られれば勝てはする。この国は貴族が三割、平民が七割と言った具合なので可能ではある。

 だが、貴族はいたるところに影響力は持っていて下手に敵にまわすと厄介極まりない。

 だからと言って受けることはしたくない。

 ならば方法としては受けるとも受けないとも言わずにのらりくらり躱しつつ王選には力を貸してもらうことだ。



 しかし、そんな器用なことはクオリアには難しかった。

 そもそも駆け引きは苦手としている。自分の姉たち、特にクレハなどは得意そうだが教えてもらうことはないだろう。

 どうしたものかと考えていると扉が開かれる。

「・・・ん、あれ?もしかして、忙しかったか?」

 入ってきたのはマコトだった。



「へ!?ベ、別に忙しくないけど!?」

 クオリアは慌てて手に持っている手紙を隠し応対する。何故隠したのかは本人も分かっていない。ただ、なんとなく見られたくなくてとっさに隠してしまったのだ。

「いや、だってそこに置いてある手紙を見て険しい顔してたじゃねぇか」

 残念なことに手に持っている手紙を隠せても机の上に置いてある手紙を隠せてないので意味ないのだが。



「それより、何か用があって来たんじゃないの?」

「あぁ、王城から手紙が来たぞ。女王の印が付いてたから多分王選関連だと思うぜ」

 無理やりな話の変え方に特に疑問を持たずにマコトは手に持っている手紙を受け取る。その手紙には王家の印が押されていた。

 開封して中身を読むと内容は王選の日取りは今から約半年後に決定したというものだった。

 思ったよりも時間がありクオリアはホッとする。現状ではまず勝ち目ないし、本当のことを言えば半年では足りない。だが半年あれば僅かであれ勝算が見えてくるはずだ。



「まぁ、一年もあれば何とかなるかもな。しかも都合がいいことにもうすぐ王国祭の時期だ。お前さんの姿を市井の人々に見せるにはちょうどいい機会だな」

「私たちが出るのは王国祭の最後らへんにちょこっとだけ出るだけなんだけどね」

「十分だろ。王族が街に出てくることなんて滅多にないんだしよ」

 王国祭とは一年に一回王都で行われる祭りのことだ。正確にいうと王国誕生祭と言い、ラインハルトが建国した日に国を挙げてお祝いをしている。普段は領地にいる領主やその市民、また村の人々までもが王都に集まりお祭りを楽しむのだ。



 そして、祭りの終盤で行われるパレードでは王族が馬車に乗って街に現れて市井の人々を祝福する催しがある。普段お目にかかれない王女たちを一目見ようとするものが多く、毎年大盛況なのだ。

 クオリアは今まで王国祭には自分の正体をバレることを恐れて行かずに屋敷で過ごしていたわけだが、表舞台にも出てきているため参加することになったのだ。



「国を上げてのお祭りだから楽しみだわ。パレード前にはお祭りを回ってもいいって言われてるし、思う存分楽しむわ!」

「身バレすると面倒だから変装はしろよ。後、わかってると思うけど一人で行動するなよ。俺は当日は少し忙しくて一緒に行動出来ねぇからティナやエリカにでも付いてもらえ」

「え?一緒に回れないの?」

「少しばかし野暮用でな」

 マコトは苦笑した顔で答える。

 用事が何なのか気になるところだが、わざわざ詮索することもないのでクオリアは聞こうとはしなかった。



「そんで、この手紙の束はなんだ?」

 王国祭の話は終わったとばかりに、クオリアにとって現在最も触れられたくない話題へと変わる。

 部屋に入るなり手紙を見て険しい顔をしている人が当然聞きたくなるのも頷けるのだが。

「えっと~、その・・・何というか・・・」

 頷けるからと言って答えられるというわけでもないのだが。

 どうにも歯切れが悪くなり、視線を泳がせているクオリアをマコトは訝し気な顔で見つつ、手紙の束から一通取り出し止める間もなく封を切り、中身を読み始める。



「これってもしかして縁談話か?はぁ~さすが王族、こんなのマジであんだねぇ~」

 そして、読み終えたマコトの感想がそれだった。

 どうでもよさげに手紙を机に上に戻して、別の話題をし始める。がクオリアはその特に気にした様子がないマコトに対してモヤモヤした気持ちをなり、話など聞こえてはいなかった。

 なぜモヤモヤした気持ちを持っているのか理解できずクオリアは内心首をひねる。



「・・・・・マコトはこの手紙に対して何か思わないの?」

 しまいにはこんなことを口にしてしまう。

 すぐに口を押えるがすでに遅い。恐る恐ると言った具合にマコトの方を見るが、彼はというと質問の意味が分からないと言わんばかりの顔をしている。

 その顔を見ているとモヤモヤがより大きくなっているのがわかる。それと同時になぜか少しばかりイラつきもしていた。

 そんなこちらの気持ちを知らないマコトは少しばかり考えた後に口を開いた。



「特に何も思わないが」

 その言葉を聞いた瞬間、胸の内にモヤモヤとイラつきと悲しみがごちゃ混ぜになったような気分を味わう。何故この言葉を聞いただけでこんな気分に陥るのか分からず頭を抱えだす。考えようとするのだが頭が上手く回らない。

「どうした?大丈夫か?」

 心配して声をかけてくれるのだが、今の自分の状態だと何を言い出すか分からないので心配ないようにいつも通りの顔をする。

「ごめんなさい、なんでもないわ。少し考え事したいから一人にしてもらえる?」

「あぁ、わかった。気分悪いなら無理するなよ」



 そう言って部屋から出ていくのを見届けるとクオリアは机に突っ伏す。

 どうにも自分の気持ちがぐちゃぐちゃしており、嫌な気分になる。

 落ちつこうとすると先ほどのマコトの言葉が頭の中を反芻して、気分が落ち込む。さぞや今の自分の表情は暗くなっていることだろうと考える。

 だが、落ち込む原因がどうにも分からず、再びもやもやした気持ちを抱えだすので頭を振る。

(別にマコトがお見合いの話を気にしてなくて当然じゃない。これは私の問題であってマコトは何の関係もないんだし、そもそも私とマコトは・・・)



 そこでふと思考を止める。

 今、自分は何を考えていたのだろうか。

 どうにも思考回路がおかしなことを考えていた気がする。胸の内もぐちゃぐちゃでこれが収まらないと感情のまま叫びだしそうで、怖い気持ちになる。



 その日、クオリアはモヤモヤした気持ちを抱えたまま過ごすこととなった。

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